翌朝、私は、唖然としていた。
キャミソールにショートパンツ、パーカーを羽織っただけの寝起き姿の私。見慣れないベッド。天井。ていうか、窓の外、空なんだけど。
「!?」
鼻の奥の方から変な声が出た。
勢いよく窓に張り付き、外を見つめる。眼下には、雲。え、なにここ、空の上?どういうこと。
唖然とする私をからかうかのように、どうやらこの飛行機らしい乗り物が小さく揺れた。
「起きたかぁ」
「うぇっ!?」
バァンと派手にスライド式のドアが開く。
その向こうに、は、黒と……銀。
「てめえが五十嵐光で間違いねぇなぁ!?」
「はっ、はい!」
「ならそこで大人しくしとけえ」
困惑する暇も、質問する暇も、何も与えられず。
窓の前で呆然としていた私の首根っこを掴んで、ぽいっと犬猫を扱うかのようにベッドへと投げられた。思ったよりは痛くなかったが、それでもやっぱり、痛い。
「着替えはそこに置いてある。シャワーを浴びてえならそっちのドアだぁ」
「は、はあ……ありがとうございます?」
「……あと2時間でイタリアに着く。準備は早くしろよぉ」
再び、呆然。
イタリア?え?この飛行機イタリアに向かってんの?ていうかこれ誘拐じゃね?……誘拐じゃね!?
うわあまじか人生二度目の誘拐だわ……。しかも今度は犯人ヴァリアーかよ。ていうかスクアーロだよ。
……スクアーロだよ!!?
「うわびっくりした!」
1人ぼっちになった部屋で、思わず叫ぶ。
すくあーろ、スクアーロ、スペルビ・スクアーロ。ヴァリアーの。スクアーロ。銀髪ロン毛の。あのザンザスにすごいボコられてる、スクアーロ。
私が、一番大好きなキャラの、スクアーロだ。
いろんな意味で泣きそうになった。ていうか涙ちょっとにじんだ。
スクアーロに会えて嬉しい。まず第一にそれ。4割くらいがそれ。
第二に今の私の格好。めっちゃ寝起き。そんな格好をスクアーロに見られた。死にたい。
第三に、私、ヴァリアーに誘拐って、やばくね?
ツナ達に心配かけるどころの騒ぎじゃない。いっそ帰りたくないとすら思える程、脳内でのツナ達は怒っていた。怒っていたし悲しんでいた。特に、獄寺はひどく責任を感じていた。ちなみに想像上のリボーンには銃弾を一発ぶっぱなされた。
これはやばいと頭を抱えつつも、体はいつも通りシャワーを浴びて髪を乾かして、普通に着替えまで終えていた。
白のワンピースにゆったりとした黒のカーディガン。
ううんなんだか似合わないな?と鏡の前で首を傾げ、とりあえず一緒に用意されていた黒のタイツとブーツに、スリッパから履き替えた。
大人しくしとけと言われたが、部屋を出てもいいだろうか。少しでも事情を聞きたい。
なんで私を誘拐する必要があったのか。私の指輪は今どうなっているのか。
ヴァリアー編はどうなるのか、いつも考えていた。
私は……というか、宵のリングは、勝者への景品という形になるのか。それとも、ヴァリアー側にも指輪の保持者がいて、その人と私が戦うことになるのか。
この場合だと……恐らく前者、だと思う。まだ後者の可能性が無いわけではないけれど。
「あ、あの」
中から外に出るのにノックするのも変な感じだと思いながら、ドアを2回ほど軽く叩く。
ここでスクアーロが出てくる、なんてことはなく、どうやらスクアーロの部下らしい女性の隊員さんが小さくドアを開けてくれた。なに?と冷たく問いかけられる。
「もし良ければ、私を誘拐した理由をお聞きしたいんですが……」
「……ちょっと待ってなさい」
「はい、ありがとうございます」
存外、冷たい人でもないらしい。
ドアを閉じてベッドに腰掛け、女性が帰ってくるのを待つ。説明してくれるとしたら、今の人だろうか。同じ性別だし。
ただなんとなくそう思っていた私の考えは、しかし唐突に開いたドアによって裏切られた。
「ゔお゙ぉい!!大人しくしとけと言っただろうがぁ!」
「……えぇえ」
一周回って、割と落ち着いた声が出た。
あ、まさかの、スクアーロさん直々に説明、していただけるんです?
どうしようもうこれいっそ泣いた方がいいかもしんない。
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