厚さで言えば5cm程の書類を抱え、扉をノックする。
部屋の主が答えたのを聞き、室内に入ると彼は顔を顰めて私を見やった。
「今月の生徒総会の資料と各委員会の予算やら活動報告やらの資料です。あと予算増やしてっていう嘆願書?」
「最後のは捨てて」
「そんなご無体な」
風紀委員会委員長、雲雀恭弥。
そういえばこの人の顔をしっかりと見るのも、なぜだか久しぶりに感じる。雲雀さんがしばらく入院していたとはいえ、最近もちゃんと会っていたのに。
まあ、私がちゃんと見ていなかったからなんだろうなあ。
「そういえば高坂先輩が蕎麦茶と蕎麦かりんとうくれたんですよ。後で一緒に食べませんか?」
「なにその蕎麦尽くし」
「長野に行った友人がくれたそうです。でも高坂先輩、蕎麦アレルギーらしくて」
ふうん、と興味なさそうに返した雲雀さんの机に、書類をゆっくりと置く。
捨てられてしまわないよう、嘆願書はしっかりと抜き取った。たまには生徒会長らしく、私がしっかりと処理しよう。
「そういえば、君」
「はい?」
かりかりとペンが紙の上を走る音がする。
数秒の沈黙の後、「やっぱいい」と雲雀さんはそのまま顔を上げることもなく、先の言葉を取り消した。
気にはかかるが、こうなった雲雀さんから言おうとした言葉を聞き出すのは困難である。
「ならいいですけど。じゃあ私、お茶入れてきますね」
今日は10月13日。
日曜日なのに学校に来ているのは、生徒会の数人か風紀委員くらいのものだ。あと補習の生徒。
そういえば、ツナ達は補習だったはずなのに姿が見えないなあと、そこまで考えてぞくりと背筋がふるえた。
あれ、ヴァリアー編って、いつからだっけ?
一旦コンロの火をとめ、応接室のソファーに置かせてもらっていた鞄をあさる。
探し出した携帯には、獄寺からのメールが1通、入っていた。
「まじで……?」
それは補習をサボって遊びに行くけど一緒に来ないかという、誘いのメールで。
私の記憶が確かなら、ツナ達が補習をサボって遊びに行く日は、そしてこの時期ならば尚更。
スクアーロとツナ達が、対峙する日じゃなかっただろうか。
「何してるの」
「っあ、……いえ、何でもないです」
一瞬動きかけた足を、焦りだした心を、諫める。
今、私が彼らの元に行って何になる?戦えない、指輪すら持っていない私には何も出来ない。むしろ足手まといになるだけだ。
小さく深呼吸を二度行って、携帯をぱたんと閉じた。
なにが起きているか知っていて、それでも尚知らないふりををした私を、ツナは、山本は、獄寺は。
薄情者だと、怒るだろうか。
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