「どしたん会長、元気ないねえ」

ぼんやりと書類をめくり、必要な場所にペンを走らせていた私の頭上から、心配そうな声が降ってきた。
だけどどこか、面白い話を期待しているかのような抑揚も感じる。
どさっと机に紙の束をおろし、くるくると跳ねた触り心地の良さそうな髪の毛が特徴的な彼は、にこりと笑って続けた。

「悩みごとかい?」
「まあ、そんなところです」

へらりと力なく笑った私に、生徒会室にいた目の前の彼を含む4人の男女がゆっくりと顔を向けた。

黒曜編が終わった後も、生活はなにも変わらずに続いていった。
骸はあれから一切夢に現れず、ツナたちは初めての強大な敵を倒したことでひとつ成長した。確か今週末が山本の野球大会だったはず。
私はというと、数日間学校を無断欠席をしたので、今はその尻ぬぐいをしているところである。

「かいちょーがそんな暗い顔してるの、似合いませんよー」
「でもそんな表情の五十嵐ちゃんも素敵よ」
「恍惚とした表情で言わないでください」

わいわいと騒ぎ出す3人に、自然と笑みが漏れた。

生徒会室は良い。なにも考えず、普通に過ごすことが出来るから。
なにより4人のキャラが濃くて純粋に面白い。

「ん、で。会長の悩みって何なんだい?俺らに話せることなら、いくらでも聞くよ」

騒ぐ3人を笑いながら見やって、正面の彼が私に振り向いた。ぽすん、と頭を撫でられる。
精神年齢で言えば私の方が上なのに、どうしてこう年上という存在は人を落ち着かせるのがうまいのだろう。人にもよるけど。

「ありがとうございます、高坂先輩。でも、大丈夫です、割としょうもないことですから」

再度、今度は意識して微笑む。
私がいくら悩んでみたところで、今後の自分の身の振り方も、考え方も、変わることはないんだから。
私はどの出来事にも、なるべく手を出さない。自分に力があるときは、そして手を出しても原作の大軸に問題が無いときは、みんなを守る。みんなを、助ける。……助け、たい。
だけど、自分からつっこんでいくようなことはしない。戦う力が無いんだから、悲劇のヒロインになるような真似は、しない。

だからこの悩みは、無意味だ。
この世界に自分がいる意味だなんて、考えたところで、わかるはずがないのに。

「……五十嵐ちゃん」
「あ、はい?」

不意に増えた影。呼ばれた名前に、顔をあげた。
高坂先輩の横にはいつの間にか、この生徒会の中でもっとも背の高い井上先輩が立っていて、ふわりと口元に綺麗な弧を描いている。それは慈愛に満ちた微笑みにも見えれば、呆れたような……仕方ないなあと言ったような表情にもとれた。

「私たちは、あなたがいてくれて良かったと思ってるわ」
「……え?」
「そりゃあ、あの雲雀恭弥が生徒名簿を持ってきて、今日からこの子が生徒会長だから、なんて言った日にはびっくりしたけれど。五十嵐ちゃんが生徒会長になってくれたから、私たちは名前だけの、お飾りな生徒会じゃなくなったのよ」
「そうだね、この学校の事は大体、雲雀くんが仕切っちゃってるから。会長のおかげで、俺たちもまともに仕事出来てるんだよ」
「なんてったって、かいちょーは並盛ナンバー2ですもんねー!」

ぽかん、と間抜け面をさらしてしまった。
これは……なんというか、4人とも、私を励ましてくれているのだろうか。慰めて、くれているのだろうか。

目頭に、じわりと熱がこもった。

「だから私たちには、生徒会には、あなたは必要な子なのよ。だから、そんな寂しい顔をしないでちょうだい。五十嵐ちゃんのそんな表情も可愛らしくて美味しいけれど、笑顔がやっぱり一番だわ」
「井上先輩、最後がアウトです」

生徒会、という存在が、原作にちらりとでも出てきたかどうかは記憶にない。
けど記憶にないということは、仮に出ていたとしてもしっかりと名前までは無かったということだろう。
存在はしているけれどコマには映らない、スポットライトの当たらない存在。
彼らは私にとって、この漫画の世界とは切り離された、別の存在で。ツナ達とはまた違う安堵感をくれるものだった。

そんな彼らが、私を、必要としてくれている。
居てくれて良かったと、言ってくれる。
私はここにいて良いのだと、彼らにも、認めてもらえた。

「ま、そういうことだよ。光ちゃん。雲雀くんの相手とか、いろいろ大変だろうけどさ、いつでも俺たちがいるから」
「……ありがとう、ございます」

副会長の佐々木君、書記の高坂先輩、会計の井上先輩、書記の渡辺ちゃん。そして、生徒会長の私。

「私も、生徒会に入って、良かったです」
「そう!その笑顔!可愛いわ五十嵐ちゃん……っ」
「五十嵐、逃げる用意しとけ」

また騒がしくなる生徒会室。

大丈夫だと、自分に強く言い聞かせられる。
黒曜編が終わったら、次はヴァリアーだ。こんな平和も、すぐに終わる。

自分に、出来ることをやろう。



――
●生徒会役員設定
会長:主。2年生であってるよね?
副会長:佐々木慶隆(ささきよしたか)。2年の眼鏡男子。元々会長だった子。優秀。生徒会のツッコミ。
会計:井上理香子(いのうえりかこ)。3年の高身長女子。女の子大好き。いわゆる残念な美人。
書記:高坂透(こうさかとおる)。3年の天パ男子。割とチャラいけど良いお兄さん。人生楽しんでそう。
書記:渡辺真美(わたなべまみ)。1年のツインテ巨乳女子。目つきが悪い。自分大好きだし生徒会も大好き。


 
back
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -