牛乳を飲み終えて、部屋の隅に放り投げる。廃墟で室内だけど、これもポイ捨てになるんだろうか。
そんなことを、無駄に考えてみたり。

私がどうしようが、どうしたいと思おうが、結局は私の存在なんてなんの関係も無いように進んでいく。
雲雀さんやリボーンが、なにか違和感を覚えていたとしても、現状での私は親戚にいる、っていう設定なんだ。
だから今回の、この出来事に、私は関係ない。
何度も同じことを考えて、想って、堂々巡りな思考回路に舌打ちしたくなった。

不意に、扉が開く。
膝を抱えている私がよほど暗い顔をしていたんだろう、扉を開けた張本人――骸は、なんともいえない表情で苦笑していた。

「光、来てください。そろそろ彼らもやってくる頃です」
「でも……私、」
「大丈夫です。僕の幻覚で、貴女の姿は隠します。それに」

見届けてくれるのでしょう?

骸は呟く。
来てくださいっていうより、来い、って感じだよなと思いつつ頷き、腰を上げた。


――…


骸の幻覚で、私の姿は誰にも見えていない。
余裕そうにソファーに腰掛けてツナ達を迎える骸の後方、壁際に膝を抱えて座り、私は事の流れをただ眺めていた。
そう、ただ、じっと。

この場にいる全ての人が傷付いて。
みんな、みんな、真剣で。
誰にも、負けられない理由があって。
なのに私、は。

「……光」

唇の動きだけで、骸が私の名前を呼ぶ。
私の方を向いて、じっと見つめて。こめかみを撃ち抜いた彼は笑っていた。
無意識に、頬を涙が伝う。

それからもやっぱり私は、ただ見ているだけだった。
静かに涙を流しながら唇を噛みしめて、膝を抱えた腕に爪を立てて。口の中にうっすら、血の味が広がる。でもそんなの、みんなと比べたら大したもんじゃない。怪我の内にも、入らない。

全ての流れをこの目に収めながら、考えた。
獄寺達に憑依してツナと戦う骸。超死ぬ気モードになったツナ。2人の激闘。
それを傍で眺める私は、この世界に来る前の私と、どう違うんだろう。
何も、変わらないんじゃないか。
ただ戦いを眺めて、それからいろいろ考えて、骸の過去を知って、ツナの気持ちを知って。……なにも、変わらない。

ただ漫画を読んでアニメを見ていただけの私と、ただここに座り込んで泣きながら眺めているだけの私。どこが違うと言うのか。

「何で、――」

私はここにいるんだろう。

言葉が、漏れた。
見えないはずなのに、聞こえないはずなのに。ツナの視線と私の視線が一瞬、絡む。
びくりと震えたのと同時に、骸が倒れた。

私を見て、泣かせてしまいましたね、なんて。
そんなこと言う余裕、ないくせに。


その後も原作と変わらず。
復讐者が骸達を、ボンゴレの医療班の人たちがツナ達を連れて行く。
私はそれをもぼんやりとただ眺めて。ツナと目が合ったのは気のせいだと、考えて。

誰もいなくなった黒曜ランドの中、不意にとけた骸の幻術。
立ち上がって、ふらふらと歩き、ぼろぼろのソファーに腰掛けた。
ずっと流れ続けていた涙が止まる気配は、無い。


なにもかもがいやで仕方なくて、私は、声を上げて泣いた。


消えたいと、どんなに願っても、私の存在を拒絶してくれる物はどこにもなかった。

 
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