黒曜ランドの一室。私以外、誰もいない。
骸に軟禁されてから、2時間。携帯を閉じたり開いたりしながら、そうっと息を吐いた。

獄寺と雲雀さんに、親戚のお葬式に行くから数日間帰れないとメールを送った。
理由がちょっと不謹慎だけど、とにかくこれで私が姿を消しても不思議に思う人はいなくなる、はず。だから私がここにいても、大丈夫。


「僕の戦いを見届けてください、光」
「……、」
「貴女を巻き込むことは絶対にしません。けれど、光には見ていて欲しい。僕の戦いが、この意志が、間違っていようといなかろうと、どう終わりを迎えるのか」
「見るだけで、いいの?」
「……ええ、お願いします」

――わかったと、そう頷いて骸についてきた。

骸の戦いを見届ける。
負けることを知っている私に、そんな権利があるのかなんて、わからないけど。この選択が正しいのかどうかなんて、わからないけれど。

ツナ達が大切なのも本当なんだ。
了平さんに獄寺や山本、雲雀さん、フゥ太にビアンキ、他にも風紀の人がいっぱい……この戦いでは、たくさんの人が傷つく。
勿論、ツナも。

もしかしたら、私がやめてと言えば骸はやめてくれるかもしれない。
でもそんなことを言う資格なんて、私にはない。骸の復讐を止める権利なんて、誰にもない。
これは、骸の戦いなんだ。骸が過去を清算するための、しがらみから解き放たれるための、戦い。

「わかってるのに、難しいね」

携帯を握りしめて、眉を寄せた。
じわりと目尻に浮かぶ涙には、気が付かないふり。

「――、」

胸の中で呟いた名前が誰のものなのか、自分にも分からなかった。


――…


どれだけの時間が経ったんだろう。時間の感覚が無い。
携帯の充電はとうに切れた。最後に見た時間は何時だったか……思い出せない。

今頃、みんなはどうしてるんだろう。
雲雀さんは黒曜に来た頃かな。ツナ達は千種に会ったのかな。
時間の感覚も、漫画での時間軸の記憶も無い私には、なにもわからなくて、ただ、膝を抱える。

「もし連絡入ってたりしたら、」

メールも返さず電話にも出ない私を、きっとみんな心配する。
でも親戚の家に行くとは言ってあるし、まさか私がここにいるだなんて誰も思わない、はず。リボーンや雲雀さんなら……わかんないけど。

「光」
「、骸……」

がたがた、と音をあげて開いた扉の向こうに、骸が立っている。
その手には、おにぎりと牛乳。ああもうそんな時間なのか、と、今更ながら自分がお腹をすかせていることに気が付いた。

おにぎりと牛乳を受け取り、パックにストローを刺しながら骸に目線を向ける。
かすかだけど、血の臭い。
骸が戦闘に参加するのは雲雀さんとの戦いが1番最初、だったはず。まさかまだ最後の戦いまで終わってはいないだろうから……きっと。

「雲雀さんに、会った?」
「おや、よくわかりましたね」
「そして、勝った」
「ええ。彼程度の男なら今までも、いくらでも相手にしてきましたからね」

ぞくり、骸の表情に背筋が震える。

私の前では優しい骸。かわいい骸。
それでもやっぱりこの人は、雲雀さんも、ツナ達も、簡単に殺そうとしてしまえるような人なんだと、あらためて実感した。
一口食べて食べる気のなくなったおにぎりをハンカチの上に置き、どうしたもんかと思考を巡らす。

骸が私をこの部屋から出してくれるとは思えない。雲雀さんに会うことも、許さないだろう。
というかまず、親戚ん家にいるはずの私が雲雀さんの前に現れたら、私が雲雀さんに怒られそうだ。

結局なにも出来ないし、何もしない方がいいんだろうな。やるせないけど。

「考えは、まとまりましたか?」
「そうだね」

ご飯ありがと、と関係ないことを呟いて、骸を見上げる。
彼はなんとも言えない視線で、私を見下ろしていた。

「とりあえずは大人しくしとく事にするよ。私の仕事は、見届けることだし」

私の言葉に、骸はクフフと笑う。
そうしてくださると助かります、そう言い残して、彼は私の居る部屋の扉をしめた。

そしてまた、1人に戻る。
ちびちびとストローから牛乳を飲み、また、膝を抱えた。

「雲雀さん、大丈夫かな」

ひどい怪我だったのは確かだ。
それで確か、どこかに幽閉されてて、それを獄寺が助け出して……。ということはそろそろ、ツナ達もここに来るのかな。


私が何もしないってことは、今回の黒曜編も原作と変わりなく、滞りなく進んでいくんだろう。
それを眺めるだけの、私。ただみんなが傷ついていくのを、見ているだけの私。
じゃあ私は、何のためにここに居るんだろう。

首元に手をやる。この世界に来てからずっと、そこにあったはずの硬い感触が無い。
今更になって、やっぱりあの指輪は手放すべきじゃなかったよなあと、ため息を吐いた。

 
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