「おにいちゃん、まってってばあ」
「待つかバーカ」
といいつつも、必死で走ってよってくる妹を俺は玄関の前で待つ。
今日も俺は妹と一緒に登校する。俺に追いついた妹は俺の手をとり、強く握ると俺の顔を見てニコニコと笑う。
こんなくそ暑い中よく手なんかつないでくるよな。まあそれが幼稚園児ならではの価値観なのだろう。
俺はわざわざそれを壊す気はない。
学校に行く前に小さい妹を幼稚園まで送り届けるのが俺の役目であり、日課だ。
最初は嫌がっていたこの役目も、やがて習慣化してくると苦に感じることもなくなった。
「おにいちゃんだっこー」
「ほれ」
俺が妹を抱き上げると妹は嬉しそうに声をたてて笑った。俺は少し妹をからかってみる。
「こんなことしてたらまた、赤ちゃんみたいって言われちゃうぞ」
「いいの! おにいちゃんにだっこしてもらうほうがうれしいもん」
腕の中で歯を見せて本当に嬉しそうに笑いながら言う妹に俺も笑顔を見せる。
蝉が鳴きしきる中、あきらかに気温も体温も高いし、俺だって汗をかいているはずなのに妹は全く嫌がらない。
……こういうところが可愛いんだけど。
歳が離れていると世話とかをしなくてはいけないので、面倒なところもある。だけど、歳が近くては感じられない可愛さがあると思う。
それは俺がロリコンとかそういうわけじゃなくて、きっと小さい子だけがもつ力なのだ。
妹を抱えながらアスファルトを小走りに叩く。幼稚園まではもうすぐだし、妹にあまり暑い思いをさせたくない。
それに、俺が妹を抱えながら走ると、腕の中の妹はとても嬉しそうな顔をするのだ。
妹が嬉しい顔をすると俺だって嬉しいから。
春には美しい桜並木にさしかかり、俺は立ち止まって妹に声をかける。
この並木にさしかかれば、幼稚園はすぐそこだ。
「もうそろそろ着くからおろすぞ」
「はあい」
俺は妹を下ろすとその手を握りゆっくりと歩きだす。
パステルカラーを基調とした校舎は、晴れた空の水色の中でとても綺麗に映える。
門の前にはたくさんの車が止まっていて、そこから園児達が園舎に向かって歩いていた。
門の中には妹が一番好きな、優しげな女の先生が立っていた。
「せんせーっ!!」
妹は俺の手を離すと、一目散に先生のもとへ走って先生の足にしがみついた。
先生がこちらを見たため、俺は先生に小さく頭を下げる。
「先生、今日もよろしくお願いします」
「はい、毎日ご苦労様。学校頑張ってね」
先生は一つに結んだ髪を揺らして優しく笑んだ。俺はもう一度先生に頭を下げる。
妹は先生からはなれると園舎の中に一目散に走っていった。それを見届けると俺は門から離れて、自分の学校へと歩きだした。
「おにいちゃん!!ありがとう!!」
妹の声が聞こえた気がして幼稚園を見ると、窓際から妹が手を振っていた。
俺は妹に大きく手を振り返すとまた、学校へと歩きだした。
……俺は君にめろめろですよ。窓際で手を振る俺のお姫様。
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