チャイムが授業が終わる。俺のノートは開いたまま真っ白だった。
 しかも気づいた時にはもうすでに、黒板は大半消されていて。
「……さすがに、まずいか」
 テストまであと3日。なのにノート見てくださいこの驚きの白さ。
 ついに、古文の授業、ノートをとらなかった。これじゃ、赤点だ。
 というわけで今日は思いきって最終手段にでてみようとおもう。
「なあ」
 前にすわる幼なじみのブレザーを軽く引っ張る。
 俺より頭一個分くらい身長が低い絵里香はこっちを見るというよりはむしろ睨んだ。
「何?」
「ノート貸して」
「やだー」
 笑顔で悪魔のようなことを告げる絵里香に頭を下げて頼み込む。
「……お願いします」
 古文は、絵里香以外にアテがない。俺の友人全員爆睡してたのは一番後ろの席だから見えていた。
 それにあいつらは適当な答えばかり書いて本当にあってるのかすらわからない。
 その点絵里香なら安心安全。何しろテストの点はいいわ授業中は真面目だわで間違いなくノートの質がいいだろう。
 というわけで、幼なじみに頼むという最終手段にでてみた。
「……つーかさ、石川さー、真面目に授業受ければよかったのに。さっきの授業ちゃんと聞いてなかったでしょ」
「う……」
その通りです
「何で聞いてなかったのー。あとでノート写す方が面倒でしょうに」
「誰にノート借りるか考えてた」
「あんた馬鹿だよね。本当に そういうところが嫌いなんです」
 ぐさりと俺の心に絵里香の言葉が突き刺さる。本当のことなので尚更だった。
 だけど俺も男。こんなところでくじけてられない! 頑張れ俺!
 というわけで再度俺は絵里香に頭を下げた。
「エリ、マジで後生だからノートうつさせて……!」
「だからー……やだって。私だってこれで勉強したいの。わかる? あんたなんかに貸す暇あったら勉強します」
「そこをなんとか! 今日中には返すから」
 俺が手をあわせて頭を下げると、幼なじみはため息をついてノートを俺に差し出してきた。
「ありがとう……エリマジ女神さま」
「そんなこという暇あったら早く写せ!」
「はいはい」
 必死で絵里香のノートを写す。綺麗な字だった。
「字、綺麗だな」
「そう? 石川の字がが汚いんじゃない?」
 絵里香がそう言って笑うのと同時にチャイムがなった。俺はとりあえず何となく黒板をみると「6限目自習」と書かれていた。
 ……ラッキー。
 日直が書いたのだろうか。まったく気づかなかったのだが。
 いつもなら自習時間となると騒がしいこの教室もテスト前となればさすがに静かになる。
 前の絵里香も黙々と自習し始める。黒くて長い髪に二重のぱっちりした目。そういえば友達の誰かが絵里香をすきと言っていた。
 ……だめだ、集中しろ俺。
 集中しなきゃ絵里香に怒鳴られそうな気がしてこわい。俺はノートを写す。
 6限目の終わりの方には集中の甲斐あってかノート写しは終了していた。
 俺はノートと前の席の黒い髪を見つめながら考える。

 好き

 シャーペンでノートに書くだけで何たる乙女思考と発狂したくなることば。
 友達に絵里香のことが好きだと言われたとき俺は、あんな奴止めとけよといった。

 絵里香のことが、きっと小さな頃から好きだった?


 ノートに書いて、自分に問う。きっとそうに違いない。そうじゃなきゃあんなこと言わなかったろう。
 ノートをめくって、新しいページをやぶりとる。綺麗にやぶれたそれにボールペンで言葉をかいて折って、絵里香のノートに挟む。

 絵里香のこと、好きだよ。

素直になれない気持ちも文字にすれば表せるような気がした。




(これを君に渡したら、君はどんな綺麗な字で返事をくれるのだろうか)







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