いつものピアスをつけかえる。その行為になんの意味があるのかはわからなかったけど最近気づいた。
どうやら、私は彼の前に行くときだけいつものピアスを無意識に外していたみたいだった。それでようやく意味がわかった。
彼と二人で遊園地に行った時。二人でベンチに座って、ポップコーンを食べたていた。
恋人っぽいことやってるなとしみじみと感じていたら、突然彼が切り出した。
「耳、よく触ってるよな」
それは彼に言われてふと気づいたこと。私は、ぼんやりと考えた。確かに私にはそんな癖があるみたいだ。
「……いつものピアスじゃないからおちつかないのかも」
苦笑いして彼に言うと彼は何でと問い掛けてきた。
「別に理由はないんだと思うんだけど……癖でね?あなたの前にきていると、いつものピアスはなんとなく変えなきゃいけないんじゃないかなって思って」
そう言って私は彼に今つけているピアスを髪から覗かせた。
彼から貰った「婚約ピアス」。
家が厳しい私のために彼が考えてくれた約束の方法だった。
指輪なんてつけてたら、間違いなく見合いさせられそうな家の雰囲気を察してピアスを私にプレゼントしてくれた。
それはもちろん綺麗なピアス。だけど何となく家のなかで付けたら後ろめたかった。
私に彼氏がいるということを家族は知らない。妹ですら、兄ですら知らないのに。
だから、秘密と一緒に、彼と一緒にいない時以外はこのピアスを外した。多分そうなんだと思う。
これは、最初から無意識下の行動だったから……。
「お前、そのピアス似合ってるのに」
「そうかな、ありがとう」
そういって笑う私はまだ頭の中ではぼんやりピアスのことを考えていた。
いつものピアスは、そういえば元カレがお祭りで買ってくれた安物だけど可愛いピアスだった。
あのときは幸せだったな、とか思い出してみる。
別に今の生活に不満はない。だけど時々昔の彼を思い出してしまうのは何故なんだろうか。結局私はあの人のことが好きだったのかな、きっと。
今の彼は昔の彼の親友だった。私は、元カレに振られた直後に彼に告白された。
愛をくれなかった元カレより今の彼の方がいいに決まってる。
だけど事あるごとに昔の彼のことを思い出すのはピアスのせいだと思い込む。いつまでも捨てられない小さなピアス。
「どうした?大丈夫」
彼は心配そうに私の顔を覗き込んだから、私はごまかすように笑った。
――好きだよ、多分。
こころの中で暗く呟き、私は彼の手を引いて次はあのアトラクションに乗ろうと提案し、歩きだした。
ゆびさきにきす様に提出
(11/04/19)