「ねぇ、雨やまないな」
「そーだな」
「まだ帰れないな……あとちょっとしたら電話しなきゃ」
「ん」
 窓の外では土砂降りの雨。外を見て、当分やまなさそうだとため息をつき隣にいるコウをみた。
 帰れないというのに幸せそうに雨を見ているコウをみるとまじで頭が痛くなってくる。最悪だ。
「……お前が女の子だったら今の状況も喜べたのにな」
 コウは黒くて短い髪、まあまあ背のでかい体、まあまあ整った髪……っていう普通の男子高校生。
 はっきり言ってこんなでかい男といるのは男としてなんかプライドの問題としてなんとなく許せない。
 嫉妬の何が悪い。ちびで何が悪い。
「ン?何それ嫌み?」
「それいがいになにがある?」
 苦笑いするコウが面白くて笑えてくる。
 それに言ったことは本心だった。雨のせいで二人きりで取り残される。女の子だったらもうちょっと嬉しくなるはずだ。
 そこがたとえ塾だとしても。
「……オレだってさ、女の子と二人きりが良かったよ」
「ん。まぁ普通はそうだろ」
「だよねー」
コロコロと明るくコウは笑うと窓の外を見つめて呟いた。
「オレ、雨好きだ」
「俺は嫌いだ……じめじめするし、洗濯物渇かないし」
「ちょ、主婦みたい」
大声で笑い出したコウを見て俺はため息をまたついた。
「雨ってさ、なんかきれいじゃない?」
「酸性に汚染されてる雨なんか綺麗でもなんでもないだろ」
「オレが言ってるのはそういうことじゃなくて……見た目とか音の問題。」
「見た目も音も微妙だろ」
 ドロドロになった雨上がりの公園だとか、あまりに煩い雨の音とか。
 ……はっきりいってそんなのどこが良いかわからない。
 正直に俺がそう言うとコウはけたたましく笑った。何がおかしいのかわからんが。
「何がおかしい」
「あー……ごめん。そういう考え方もあるんだって思って。オレが言ったのはね、雨が葉にあたってざわめく音とか、窓をちょっとずつ濡らしていくところとかさ。何か好きなんだ」
 嬉々としてそんなことを言うコウに適当に相槌を打つ。だけど俺にはわからない。
 まあ価値観は人それぞれだしな。
 そんなことを思っていると雨の音に混じって携帯のバイブ音が流れてきた。多分コウのだ。
 コウは携帯を開けると素早くボタン操作をしてまた閉じた。
「オレ、もう帰る」
「ん?どした?まだ雨は止みそうにないけど……まぁ、少し小降りだけどな?」
「母さんからメールあったから……ごめん、先生付き合わせちゃって」
 しゅんとした声で頭を下げるコウに軽く笑顔を向けておく。
「おぅ。ま、謝るんなら女の子になってみろ」
「それは無理でしょ」
 コウが苦笑いし、俺はコウを軽く小突いた。
「それと、敬語」
「あ」
 悪い悪い、というコウの口調には悪びれてるところなんて感じられなかった。
 まったく……だけどなぜか憎めないから笑えてくる。もちろん苦笑いだけど。
「んじゃ、先生またね!」
「ん」
 雨のなか元気に走っていく姿を手を降りながら見送った。
 気づけば、もうすでにあたりは薄暗くて、ぼんやりと夕陽があたりを照らしていた。
 何故か太陽はあるのに雨が降っているっていう奇妙な天気。
 夕陽に反射してきらきらと地面に落ちる雨は綺麗で。
「あいつの、いってたこと少しわかったかも」
なんとなく笑いを漏らして、俺は室内に戻っていった。







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お題「ざわめく」
(11/04/26)