無理矢理軌道修正をするならきっと今のうちだ。


 俺が、君以外の人を見ればいい。そうすれば、きっと君の言葉も、君の姿も忘れられる。
「俺の方が馬鹿だ」
 自分を罵ってみても楽しくないし、何かが変わるというわけじゃない。彼女を好きという事実が変わるわけでも、彼女を今の状況から救うこともできない。
「本当に俺は、今、君のことを忘れられるのか」 無理だ、嘘だそんなの。
 結局自問自答しても出る言葉はその程度だ。
 ……本当に、好きだった。
 好きだったんだ。
 愛してたんだ。
 なんで、彼女が犠牲になったんだ。誰が悪いんだ。
 なんで、みんな君以外を見ろと言うんだ。俺には彼女しかいないのに。警察にまかせればいいのか? 本当にそれでいいのか?
 そんなことをしたら結局、前の二の舞だ。他人なんか信じられない。信じられるのは自分だけだ。


 彼女は俺といなくても、幸せになると信じていた。すくなくともピアニストの俺のように不定期な収入しか受け取れないような生活をさせたくなかった。
 だから、俺は5年前彼女とわかれた。あの日からもずっと無理矢理に自分の気持ちを押さえ付けて、ズタズタに傷つけて生きてきた。
 彼女の亭主は、普通のサラリーマン。
 もし、俺がサラリーマンだったなら、
 俺がピアニストなんて職業を選ばなければ。
 彼女に堂々とプロポーズすることができた。
 だから俺は、ずっと彼女の亭主に嫉妬し続けてきた。
 嫉妬するだけだった。何も行動にうつせなかった。最悪だ。結局は俺が一番悪いのだ。

 彼女に彼と結婚するように薦めたのは俺だ。
 結婚式で指輪交換をとってつけたような笑顔で見守った。二人の友人代表でスピーチをした。ピアノだって弾いたんだ。彼女が幸せになればそれだけでよかった。
 彼女の亭主は俺の親友で、彼女のことが大好きだった。優しく、正義感もある真面目な性格で俺が一目置いているやつだった。

 なのに、いつから。彼は彼女に暴力を振るうようになった?
 多分3月頃からだ。彼女が、電話をかけてきた。泣きそうな声で、俺の声を聞くと安心したような声音で何でもないと言って切った。
 俺はその電話に、なにも感じることが出来なかった。それをしようともしなかったのだ。3月より前から彼は彼女に暴力を振るうようになったのかもしれない。耐えきれなくなって俺に電話したのかもしれない。
 なのに、俺は。自分の傷を塞ぐのに精一杯で、彼女の悲鳴になど目を向けることもしなかった。
 だから、彼女は自殺など起こしたのだ。彼女が、そんなことをする必要などなかったのに。
 彼女が俺が決め付けた運命の修正をする必要などなかった。だけど俺には、彼女の運命を修正する必要がある。だから、彼女が死んだ今でも、愛しているという気持ちさえあればそんなの簡単だ。
 ただ、彼の胸をこのナイフでしめればいい。
 俺は、鈍く光るナイフを手にして、そして







かれとおれのむねに、つきさし












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