小説 (TWD) | ナノ


▽ Episode2 最悪の目覚め


"銃声"のアラームと共に起こされた彼女の目覚めは最悪だった。


「……なに!?」


それほど遠くない筈の位置からの銃声。それも立て続けに何度も。音が反響してしまって場所は分からない。しかし、余り悠長に考えている時間は無さそうだった。


「(死人がわんさかいる街中で発砲!?バカじゃないの!?……1日もすれば周りから死人が集まってくるはず。早めに抜け出さなきゃ)」


一度冷静になって状況を確認する。外に出てみないと周囲の状況は分からないものの、発砲音の大きさからして余り遠くないことは予想できた。

必要な荷物を纏める。2.3日かけて物資を集める予定だったため、アトランタを抜けた後はどこに向かうかまだ決めていなかった。今の状況で街の中心部を抜けるのは骨が折れそうだ。だが、今までに来た道を戻る気はない。残された道は一つ、死人の大群を潜り抜けて街を通過するしかなかった。

荷物を背負い、まだ色濃く腐敗臭を漂わせるレインコートを着る。この嫌な匂いにも少しずつ慣れてきた。周囲の音を聞きながら、静かに扉を開ける。


「(最悪だよ……時間が無いって時に)」


一人。店内の中を彷徨いていた。落ち着いて腰に挿していたコンバットナイフを抜く。足元に落ちていたガラス片を拾うと、死人を通り越した先に投げる。

小気味な音のした方に反応した死人が、ふらふらとそちらに向かって歩きだした。音を立てないように注意しながら、後ろから静かに近寄る。足を掛けて転ばすと死人は鈍い音を立てて転んだ。暴れだす前に頭部にナイフで一撃を入れ、動きを止める。

1ヶ月経った今では少し慣れてきたものの、相手との体格差があると未だに手こずる。身長が高かったらどれだけ良かったのかと何度も思った。

ナイフの血を相手の服で拭っている時だった。無線機から雑音と共に声が入る。


「おい、あんた。そこのアホ。戦車のあんただよ、乗り心地いいか?……おい、生きてんのか?」

「ああ、いるよ」


男同士の声だった。先程の銃声と関係があるとは思うが、状況がいまいち掴めない。無線が届くということはかなり近いのではないかと考える。


「やられちまったと思ったぜ」

「どこにいる?外か、俺が見えてるのか?」

「ああ、ちゃんと見えてる。……残念なお知らせだが、 ウォーカーに囲まれてる」


店の入り口から周囲を見渡すと、およそ2ブロック先に人だかり、今となっては死人だかりが出来ていた。事の発端はそこだろう。会話に出てきたウォーカーとは死人の事だろうか?


「いい知らせは」

「ないね」

「聞いてくれ。見ず知らずのあんたに頼むのはなんだが、俺を助けてくれないか」

「冗談だろ?ここからそっちの状況を見たら、完全にパニックだ」


話から察するに、窮地に追い込まれた男が戦車の中に避難し、周囲には死人の大群。打つ手が無くなったところに、無線の相手が登場といった感じだ。


「(悪運の強い人……手助けしたいけど、分が悪すぎる。下手したら私も動けなくなるし、どうしよう。)」

「何かアドバイスは」

「そうだなぁ、さっさと逃げるんだ!」

「それだけ?さっさと逃げろ?」


彼女が考えあぐねている間にも、会話は進み、死人は集まっていた。寝起きからのこの危機的状況に、嫌気がさす。


「それだけじゃアホだろ。外の様子教えてやるよ。戦車の上にはまだ一人残ってるが、後は馬を食ってる連中の仲間に入った。分かったか?」

「分かった」


無線の相手は戦車の男の状況を細かに話始めた。全体を見下ろせる高い場所にいるのだと思う。


「オーケー、戦車の後ろの通りはわりかし空いてる。今のうちに逃げられりゃなんとかなるかもしれない。武器はあるか?」

「いっぱい詰め込んだバッグを落とした。取りに行かないと」

「そいつは忘れろ、無茶するな。そこに何かないか?」


入り口で会話を聞きながら大群の様子を見ていたが、"戦車の後ろの通り"とは、多分自分の居るところとは反対の、戦車を挟んだ向かい側だ。


「待ってくれ……拳銃があった、使えそうだ。弾は15発」

「使えるな。戦車の右側に降りて、そのまままっすぐ走れ。50mほど行ったところに路地がある。そこで待ってる」

「なあ!あんたの名前は」

「何呑気なこと言ってんだ、急げよ!」


二人の会話が終わる頃、彼女も次の動きを決めていた。目の前の通りを行くのは危険過ぎる。ここから一つ先の通りに出て、進む事にした。

コンバットナイフを手に構え、大通りを横切っていく。裏路地を歩きながら、1ブロック先まで進む。先程の男達と同じ通りを進んでいたら出会いかねない。一番怖いのは死人より、人間だ。

不運な出会いを避けるためもあったが、一つ先の通りであれば、死人は多くないと考えた。

裏路地を抜け、大通りに出る。幸いにも死人は多くなかった。だが、街中は何があってもおかしくはないと、ナイフを握り直した。

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