忠誠とポリアンサ
お茶は仕事の後に
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「おめでとう、ルーウェン」
控室ににっこりと笑ったレイニィが来ていた。その笑みには同性すら動揺させることのできるだけの力がある。だが、ルーウェンにその笑みは効かない。それを知ったうえでレイニィは笑み、ルーウェンはただレイニィを見る。
「ありがとうございます」
「これからお茶をしないかしら?」
「あの者を騎士長に引き渡さなければならないので無理ですね」
「それなら駐在の騎士に任せたわ。だから行きましょう?」
これ以上は何を言って無駄なことはわかっている。剣を鞘に仕舞ってレイニィと共に闘技場を出た。
街中を歩くとレイニィは目立つ。リカシア王国では珍しい瑠璃色の髪を持つルーウェンもまた目立つ。ルーウェンは慣れているのか気にしないことにしているのか平然と歩くが、レイニィは人目が気になるのかルーウェンに問う。
「ねえ、何か見られてない?」
「大丈夫です。いつものことなので」
「いつも?」
「ええ。いつもです。珍しいんです。まあ、仲の良い人たちはいますがね」
カフェが見えてルーウェンは入った。レイニィはそれに着いていく。店員に案内されて四人掛けの席に座る。
「ルーウェン、あんた何で騎士になったの? 賞金稼ぎとかで生活してたんでしょ?」
「喫茶店などで働きながら、この街の賞金首は大概捕まえました。あとは流れてきた者を捕まえるだけでしたけど、リィリアには凄腕の賞金稼ぎがいる、近付くな、と噂になったので来なくなりまして。色々と転々としていましたけど、そんな時にある事件に巻き込まれてスカウトされました」
「……旅は?」
「そんな旅費があったらみんなに渡しますよ」
レイニィは息を飲む。レイニィは貴族の出身だったがルーウェンは違う。下町の出身だ。隣人は仲が良いが日々の生活は苦しいものだ。無関心な性格を脇に置いたとしても、親しい者にはそれ相応の態度を取るルーウェンにそんなことできないのは分かっている。
限られた者にはお人好しなのだ。
「エリカ様もよくルーウェンを傍に置くわよね。置いた当初なんて批難されたのに」
「こちらが聞きたいくらいです。すみません、アイスコーヒー一つ」
「アイスコーヒー一つ追加とラズベリーといちごのタルト一つお願いします」
「かしこまりました」
店員が去った後、冷たい水を飲む。外と同じく見られている。レイニィは落ち着かずにいた。理由は分かっていた。リカシア王国の民は暖色の髪色をしている。ルーウェンはそれと対の寒色の髪色。珍しいのだ。
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