忠誠とポリアンサ
緑の淡光と刃の光
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大陸にはベヴァイスと呼ばれる神子が居る。大概の神子はその国に仕える。
土、水、火、風、光、闇、音の精霊が存在し、神子たちは精霊の声を聴くことが出来る。そう言われている。
一人の精霊に神子が一人とは限らない。複数存在することもある。しかし、空席は無い。大陸のどこかの国に空席があってもどこかの国に空席の神子は必ず存在した。だから、国に神子の空席があったとしても誰も気には留めない。





「っ……」


ルーウェンは右腕上部を押さえた。息遣いが荒くなっていき、壁にもたれかかる。腕の甲冑は無い。隊服の布越しから淡い緑色の光が発せられている。ずるずると体下がる。


「まだ……だめです」


額から汗が滲んでいる。
痛みだした時、路地裏に入り込んで正解だった。ルーウェンは壁に背中を預け、座り込んだ。


「……誰ですか」


微かに足音がした。ルーウェンはそちらを睨む。気配は近付いていた。ルーウェンは立ち上がった。


「……」


気配は無言で走って来た。日は中々当たらない場所だが、昼は夜ほど暗くはない。銀色の何かが光る。


「何ですか。挑むんですか、この私に?」


ルーウェンは気怠そうに問う。


「……」

「答えないって、肯定と取りますよ?」


振り上げられる銀色の刃をルーウェンは短剣で受け止める。目を細め、睨むように相手を見つめる。


「何が目的ですか」

「……」

「答えなさい」


尚も黙っている相手に足払いをかける。離れた瞬間に短剣を振るう。それは腕を掠り、袖を破く。手首を掴み押し倒し、剣先を喉元に突き付ける。フードから覗く顔は女のものだった。


「その刺青……あなたは神子ですね」

「……」

「答えなさい。あなたの目的は何ですか」

「……ルーウェン・リート」


女は名前を呼ぶ。ルーウェンは眉を潜めて剣先を近づける。女は怯えることもなく感情の読み取れない表情と眼でルーウェンを見ている。


「あなたがいなければ私が……!!」


ルーウェンは女から離れた。女は靴底を上に向けて伸ばしている。手と短剣が離れると女は走り去っていった。ルーウェンはその後ろ姿を見ていた。


「……私の……所為なのでしょうか……」


淡い緑色の光を放つ腕を押えていた。

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