忠誠とポリアンサ
緑の淡光と刃の光
3/5

賑わう市街地では大道芸を行う者が多い。見回りに回されることの多いルーウェンは露店商に声を掛けられていた。


「ルーウェン! レモンパイ好きでしょ。持って行きなさい!」

「何の! こっちは好きなもの貰っていいぞ!」

「いえ、お言葉に甘えるわけには……わ!」


押し付けられ、背中を叩かれる。足元を蹌踉めかせて男にぶつかった。


「すみません」

「いえ、大丈夫ですよ」

「お怪我はありませんか?」

「はい。ありがとうございます」

「それは良かったです」


ルーウェンは男の顔を見た。端正な顔立ちに金色の髪と赤い瞳が合っている。自分の瑠璃色の髪と藍白の瞳も珍しいが、金色の髪と赤い瞳も珍しい。それが似合っているからかルーウェンは男をじっと見つめた。


「見つめられると恥ずかしいんですが」

「あ、すみません。珍しい髪と瞳の色なのでつい」

「あなたもこの国では珍しいですよね?」

「この国だとそうですね。それでも私、リカシアの民なのですよ?」


男は微笑った。侮蔑でも嘲笑でも無くただ見つめていた。


「どうかしましたか?」

「楽しそうに笑うんですね」

「そうですか?」

「ええ。愛国心が強いだなって思います」


ルーウェンは頬を赤らめた。


「そう、ですね。私は好きですよ、この国」

「名前をお聞きしても良いでしょうか?」

「ルーウェンです。ルーウェン・リート」

「良い名前ですね」

「ありがとうございます。明日は月星祭なので、楽しんでくださいね」


男は儚な気な印象を与える。男は優しく微笑った。それが余計にそう思わせた。市街地を行く女は男を見ては頬を赤らめる。ルーウェンとは違う意味で、だ。


「ルーウェンさん」

「私のことはルーウェンとお呼びください。皆そう呼びますから」

「ではルーウェン、またお会いしましょう」

「え?」


男はルーウェンを引き寄せ、髪に口づけた。ルーウェンは男を凝視する。


「また」


男はその場から去った。甘い残り香だけが、そこにあった。

16
16
.
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -