忠誠とポリアンサ
緑の淡光と刃の光
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賑わう市街地では大道芸を行う者が多い。見回りに回されることの多いルーウェンは露店商に声を掛けられていた。
「ルーウェン! レモンパイ好きでしょ。持って行きなさい!」
「何の! こっちは好きなもの貰っていいぞ!」
「いえ、お言葉に甘えるわけには……わ!」
押し付けられ、背中を叩かれる。足元を蹌踉めかせて男にぶつかった。
「すみません」
「いえ、大丈夫ですよ」
「お怪我はありませんか?」
「はい。ありがとうございます」
「それは良かったです」
ルーウェンは男の顔を見た。端正な顔立ちに金色の髪と赤い瞳が合っている。自分の瑠璃色の髪と藍白の瞳も珍しいが、金色の髪と赤い瞳も珍しい。それが似合っているからかルーウェンは男をじっと見つめた。
「見つめられると恥ずかしいんですが」
「あ、すみません。珍しい髪と瞳の色なのでつい」
「あなたもこの国では珍しいですよね?」
「この国だとそうですね。それでも私、リカシアの民なのですよ?」
男は微笑った。侮蔑でも嘲笑でも無くただ見つめていた。
「どうかしましたか?」
「楽しそうに笑うんですね」
「そうですか?」
「ええ。愛国心が強いだなって思います」
ルーウェンは頬を赤らめた。
「そう、ですね。私は好きですよ、この国」
「名前をお聞きしても良いでしょうか?」
「ルーウェンです。ルーウェン・リート」
「良い名前ですね」
「ありがとうございます。明日は月星祭なので、楽しんでくださいね」
男は儚な気な印象を与える。男は優しく微笑った。それが余計にそう思わせた。市街地を行く女は男を見ては頬を赤らめる。ルーウェンとは違う意味で、だ。
「ルーウェンさん」
「私のことはルーウェンとお呼びください。皆そう呼びますから」
「ではルーウェン、またお会いしましょう」
「え?」
男はルーウェンを引き寄せ、髪に口づけた。ルーウェンは男を凝視する。
「また」
男はその場から去った。甘い残り香だけが、そこにあった。
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