忠誠とポリアンサ
騎士は主と城下へ
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剣の交わる音が響く。訓練所は常に誰かがいるわけではないが、今日は四人が来ていた。うち一人は知った顔で入ってきたルーウェンとエリカを見て驚いた表情を浮かべた。
「ルーウェン? あんた、何でエリカ様と?」
「一雨くるから中で剣を交えることになったんですよ」
「何で?」
「何でです?」
「何であんたが聞いてんのよ」
レイニィはルーウェンに聞いた。ルーウェンはエリカに聞く。それが分からなかった。
「久々に剣の稽古でもしようと思ってね。ルーは僕付きの騎士だし、手加減してくれないから」
「手加減……した方が良いですかね?」
「ううん。ルーは手加減なんてしたらそれが癖になるでしょ?」
「まあ、そうですね」
「だからいらない。その方が後々も面倒にならないからね」
「エリカ様。ルーウェンたちが気づかないことを良いことに言わないでいただきたい」
何を言っているのか分からないルーウェンはエリカとレイニィを見比べる。ルーウェンは感情を出さない。誤解されることは多いが、エリカとレイニィはちゃんと気づいていた。
「ルーウェンにそんな回りくどいこと言っても気づきませんよ。基本的に無関心なんですから」
「やだなぁ。そんなわけないでしょ」
「だったら良いんですけどね? エリカ様ってルーウェンで遊んでるのか遊ばれてるのかたまに分かりませんから」
「レイニィ、私はエリカ様で遊んだ記憶はないのですが?」
「勝手に遊ばれてるだけだからルーウェン、あんたはそのままでいいの」
「レイニィ?」
肩を掴まれ力説された。微笑みだがどこか黒いものが見え隠れしているようにも見える。
「レイニィさん、何でそんなルーウェンに構うんですか?」
「その言い方、貴族だからってルーウェンを見下してるの?」
「そういうわけでは……」
「言っとくけど、ルーウェンは強いわよ? ミリギアス騎士長が認めるくらいに。私よりもね。つーか、後輩がルーウェンを呼び捨てにすんじゃないわよ」
レイニィの説教が始まった。こうなると長いことをルーウェンは知っている。エリカに始めようかと言おうとした時、手を掴まれる。
「エリカ様?」
「外行こうか」
「へ?」
「今はできる雰囲気じゃないでしょ? だから」
エリカは走り出す。手を掴まれているルーウェンは後ろを走るしかない。レイニィはどうしようと振り返るがまだ説教をしている。
「あの、エリカ様!」
「だめだよ。これ命令」
「……職権濫用です」
「でも逆らわないでしょ?」
「私はエリカ様付きの騎士ですから」
それでもいいとエリカは誰かに言った記憶がある。今はその関係でも。けれど、人は貪欲だった。好きだから、ルーウェンを愛しているから、彼女を求めることもあった。エリカはそれでも彼女への想いを裏切ったことはなかった。彼女への想いは本物だったから。
――いつか、届くといいな。この想い。
それを裏切ることは絶対にしないとエリカは思う。
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