「本当にこれで大丈夫なの?」

千鶴の手を引いて歩きながら、私はもう片方の手に持った段ボール箱にこっそりと話しかけた。
すると、段ボール箱の中からくぐもった声が返ってくる。

「ああ、問題ない」

ご主人様の家まで送るよと言ったのに、はじーにーは「そんなに手間をかけては申し訳ない」と言い張り、「宅急便で送ってくれればいい」と言って譲らなかったのだ。
そこで言われた通り、家にあった段ボール箱にプチプチを詰めて、はじーにーの入った急須を入れて、近所のコンビニまで持って行くことにしたのだけれど。

「苦しくない?大丈夫?」
「ああ、快適だ」

一応、段ボールに空気穴は開けたけど、ちょっと心配だなぁ。

「本当に大丈夫?」
「ああ、大丈夫だ」

まあ、慎重派のはじーにーが大丈夫と言うのだから、きっと大丈夫なのだろう。

「お腹が空いたら……」
「大丈夫だ。あんたのくれたミニおむすびがある」
「喉が乾いたら……」
「醤油さしに水を入れてくれただろう。ちゃんとここにある」
「あと、プレゼント、落ちついたら開けてみてね」
「プレゼント……?ああ、この包みか。承知した。楽しみにしている」
「着いたら必ず連絡してね」
「承知した」
「またあそびにきてね、はじーにー。やくそくだよ」
「ああ、約束する」

千鶴はエアー指きりげんまんをした。きっと律義なはじーにーも急須の中で小指を立てているに違いない。
こうしてはじーにーは近所のコンビニに託され、ご主人様の家に帰っていった。





「らんららんらら〜ん」
「らんららんらら〜ん」

コンビニからの帰り道、二人で歌いながら歩いていると。

「まる。千鶴」
「あ、パパ!」
「あ、総司さん!」

後ろから声を掛けられて振り返れば、仕事帰りの愛しの旦那様、総司さんが立っていた。

「おかえりなさい!」
「おかえりなさい、パパ、ぎゅーして」
「ただいま。はいはい。ぎゅー」

「いってらっしゃい」と「ただいま」のハグは総司さんの考えた我が家の毎日の習慣だ。

「ママにもぎゅー」
「そ、総司さん、こんな往来で!」
「いいじゃない。夫婦なんだし。おつかいの帰り?」
「うん、まあそんなとこ。コンビニに行ってきたの」
「はじーにーをたっきゅうびんでおくってきたの!」
「はじーにー?」

千鶴の説明に総司さんが目を丸くする。それはそうだよね。事情を知らないのだもの。

「あのね、としぞーにたべられてるはじーにーをたすけてね、それで、ママもわたしもちいさくなって、みんなでいっしょにあそんだの!ながしそうめんマシンでおよいだのよ!」

千鶴、パパはきっと何の事だか分からないと思うよ?
総司さんはきょとんとした顔で千鶴の話を聞き、やがてクスリと笑って、

「へぇ、面白そうだね。もっとお話聞かせて?」

と愉しげに目を細めた。





二日後、はじーにーから無事にご主人様の家に帰れたというメールが届いた。
メールにはご主人様である大学生の女の子と一緒に写っている、はにかんだ笑顔のはじーにーの写真が添付されていて、本文にはお礼と共に、しつこかった茶渋は私がプレゼントした激○ちくんでキレイに取れたと書き添えられていた。



fin.

→まるさんへ





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