「わぁ、大きくもなれるのね」
「ああ。ところでこれはなんだ?」

大きくなったはじーにーはテーブルの上に置かれた機械を見て、怪訝な顔をした。

「流しそうめんマシンよ」
「流しそうめんマシン?」

そう。今日のお昼は流しそうめん。楕円形の溝を水が流れる家庭用流しそうめん機は面白い物好きの旦那様が一目惚れして買ってきた物だ。

「では早速、スイッチオン!」
「わーい!そうめん、くるくる〜!」
「なるほど……」

はじーにーは控えめにけれど明らかにテンションが上がっているのが分かる声のトーンで感心している。

「ママー、そうめん、およいでるみたいだね〜」
「本当ね。流れるプールみたいよね」
「流れるプール…?」

するするっとそうめんを静かに啜ったはじーにーが何か思いついたように小さく微笑む。

「千鶴殿、まる殿、午後はこれで遊ばないか?」
「これって、流しそうめんマシンで?」

はじーにーは静かに頷いた。





「きゃー!ながれる〜!」
「うきゃー!流される〜!」

お昼を食べ終わった私達は水着に着替えて、うきわを膨らませ、水着とうきわごとお人形さんサイズの体になった。
そう!はじーにーの思い付いた遊びは、流しそうめんマシンを使ったプール遊び!
けっこう水の流れが速いので、ラフティングみたいにスリル満点だ。

「千鶴、怖くない〜?大丈夫〜?」
「だいじょうぶ〜!きゃははは!」

千鶴と私のはしゃいだ笑い声がダイニングに響き、景色がぐるぐると回る。

「はじーにーは泳がないの〜?」
「俺はよい」
「およげないの〜?」
「そうではないが……」

はじーにーは一瞬視線を彷徨わせ、「あんたたちが楽しめればそれでいいのだ」と言ったけれど、私は気付いていた。
はじーにーがずっとチラリチラリと時計を見ては切なそうな顔をしていたこと。

「はじーにー、流すの止めて」
「もう止めるのか?」
「うん」
「えー?もうおしま〜い?」
「うん、おしまい」

不満そうな千鶴を抱っこして、流しそうめんマシンのプールから上がる。

「もう、よいのか?」
「うん。もう十分、遊んだわ。だから――」
「やだ〜!ちづる、まだあそびたい〜」

千鶴は体をぶらぶらと左右に揺らせてぐずる。私は千鶴と目線を合わせて語りかけた。

「千鶴。はじーにーをおうちに帰してあげよう?ご主人様、きっと心配してるわ」
「やだ〜」
「千鶴だって、もしママやパパが急にいなくなったらすごく心配するでしょ?」
「やだ!ママもパパもいなくなったらやだ!」

あらら、千鶴、半泣きになっちゃった。ちょっと言い方を失敗したかしら?

「大丈夫、絶対にいなくならないから。でも、もしそうなったら、早く帰ってきてほしいでしょ?」
「…うん」
「はじーにーのご主人様も同じよ。きっと待ってる」
「…うん」
「じゃあ、はじーにーを帰してあげる?」
「うん!」

うちの千鶴は心優しいいい子です。




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