▼三周年記念リクエスト企画小説 | ナノ


寝たからなのか良くわからなかったけど左之に起こされた時にはすっかり良くなった体調に何だかずる休みしたかのような後ろめたい気持ちで家に帰るとなった着信。
手を洗っていた所為で出るのが遅くなれば切れてしまって確認するとトシさんからだと告げているスマホに出れなくてよかったとどこかホッとした自分が居て折り返すこともなく下においた鞄に突っ込んでソファーに座った。

「やだな、話したらまた喧嘩腰になっちゃいそう…」

感情のコントロールができない今顔を合わせたら確実に喧嘩になって最悪泣きわめきそうな自分に怖くなった。



「だからってなんでうちー?!」

今日の出来事を一通り話し終えてココアの入ったマグカップに口を付けると里奈はため息とともに呆れたように言った。

「そんなのちゃんと話さなきゃいけないでしょ、」

「だって喧嘩しちゃいそうなんだもん」

「喧嘩しちゃいそうなんだもんじゃないわよ。なに可愛く言ってるのよ。めでたい事なんだからね!…て、あ!おめでとう!!!」

呆れかえっていたとおもえば思い出したかのように手をパンと叩いて思いっきり笑顔になった里奈に噴き出すとお礼を言った。
あ、初めておめでとうって言われた。
ってトシさんと里奈にしかいってないんだけどさ、なんか嬉しくてトシさんのことで燻っていた胸が温かくなっちゃったじゃない。
どっちかなー、とか絶対イケメンか美女が産まれてくるわ、とか一人でぶつぶつと楽しそうに気の早い事を言っている里奈に頬が緩んでいくのを止められない。

「ちょ、なに笑いながら…泣いてるのよっ」

「は?」

は?じゃないでしょ!なんて慌てだした里奈がティッシュを押し付けてきた。
どうやら勝手に涙が出てきちゃったみたいだ。

「妊婦は情緒不安定になるから仕方ないか」

「そうなの?」

「そうよ、妹が妊婦のとき酷かったんだから…ってなまえも私に当たらないでよ」

なんて楽しそうに笑うからつられて笑って親友の存在に気持ちが落ち着いて来た。
今夜一晩里奈と馬鹿笑いしたらトシさんとも喧嘩腰じゃなく話せそうだ。




「で、なんでまだいるわけ?朝には帰って話合えっていったわよね?」

一夜開けて気分も大分晴れてきたのに親友の家が心地良すぎるのと休日というのも手伝って、だらだらと帰る時間をずらしていれば空が橙色に染まって綺麗な時間になっていた。
言い訳を考えているとタイミング良くインターホンがなった。
リビングを出て行く里奈の後姿を見ながら言い訳を考える時間が増えたとほくそ笑んだのも空しく直ぐに戻ってきた里奈。

「迎えに来たわよ」

「…」

だんまりしていた私に鞄を押し付けると帰らないなんて言わせないわよ、と耳打ちされて頑張ってと背中を押された。
頷いてお礼を言った私もいつまでもトシさんと顔を合わせないなんてことは出来ないと腹を決めて玄関から出ると壁に背を預けて腕を組んでいるトシさんが居た。
気まずさから何を言ったらいいのかわからなくなった私に何も言わずに肩から掛けた鞄に手を伸ばして持ってくれると歩きだした彼の背中をぼんやり見て居た私も彼と同じ道を歩き出した。
車に乗った後もお互い一言も話さず家まで着いた今も部屋に響くのはテレビの声のみ。
静まり返る空間に気まずくなった私が点けたものだ。
微動だにしないでソファーに座ってテレビのほうを向いている背中をキッチンから見てそろそろ夕飯の準備をしないといけないなと冷蔵庫の前に立って止まってしまった。
夕飯の匂いで気分が悪くなったらどうしようか…
その前にちゃんと話した方がいいよね、赤ちゃん本当に居るって。
なんで信じてくれなかったのかな、確かに何度も何度も違っていたら今回もって思いたくなるのも分からなくないけどさ。
そんな自分もぬか喜びにならないように期待しないように気を引き締めて検査薬したぐらいだし。
少しだけトシさんの気持ちも分かるけど、それでも一発目で喜んでほしかった。
トシさんらしくないほど盛大に、って期待しすぎなのかな。

「なぁ、」

考えあぐねていると急にトシさんが口を開いて冷蔵庫に手をかけるのをやめて振り向いた。

「昨日の朝言ったこと…本当か」

「え?」

「玄関で言った、あれだよ、」

濁して言っているけどあれって赤ちゃんが出来たって話のことだよね。
急に確信に触れた会話を始めたトシさんに戸惑いながらも向き合う決心をした。

「冗談で言えるわけないでしょ、」

「お前、昨日何日か知ってるか、」

「何日って、4月1日…」

あ、エープリルフールか…
全然気にしてなかったから気づかなかったけど、
って……
え、うそ、まさかエープリルフールだからって信じなかったってオチ?!
うそでしょ?
そんな子供みたいなものに警戒しているトシさんが想像できなくて振り返ったまま目を見開いた。

「すまなかった。お前がそんな嘘つくわけねーよな。総司に毎年くだらない嘘つかれてたら4月1日ってだけで過剰に反応しちまった」

テレビの方を向いたまま申し訳なさそうに言うトシさんの顔が見たくて隣に腰掛けて覗き込んだ。
彼の表情は見たことのないもので目を見開いた私の瞳に移り込んだのは潤んだ瞳のトシさん。

「ト、トシさん…」

「見るんじゃねーよ」

そう言って抱きしめられたのはきっと顔を見られたくないからで。
意外な一面を見た私は可愛いななんて思ってくすくす笑うと「笑うんじゃねぇ。嬉しいんだからしかたないだろ」とふて腐ったようにぶっきらぼうに言うトシさんの背中に手を回した。

「でもトシさんの子か信じてないんでしょ」

「は?」

少し虐めたくなった私は極力冷たく言い放つと強張ったトシさんの体に笑いを堪えるのに必死になった。

「誰の子だよって言った」

「…悪かったよ」

「…」

返事をしない私の顔を腕を緩めて覗き込むトシさんの紫の瞳に見下ろされた。

「…何したら許してくれんだよ」

「……、…ネズミ―ランド、連れてってくれたら許す。この子が産まれてからも沢山連れて行ってくれなきゃ無理」

「そんなこと…」

混む所は大嫌いなトシさんなんだからできるわけねぇと続くのかとおもえば「もう飽きたっていうぐらい連れてってやらぁ」と頬を緩めてまだ何の変化もないお腹を優しく撫でてから、

「こん中に俺となまえのガキが居るなんて不思議だな」

至極優しい顔をしたトシさんの顔は慈愛に満ちていて私よりさきにパパが板についちゃうんじゃないかって少し幸せな焦りを感じた。



end



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