▼三周年記念リクエスト企画小説 | ナノ


初夏の日差しが差し込む居間から賑やかな声がしてくる。

「おしめ、おしめどこだよっ!」

「左之もっと静かにしろよ、びっくりしちまうだろ!」

「うるせえよ、新八。そんなこと言うならおまえがやれ!」

「え、あ、お、おれは無理だ、斎藤おまえやれ!」

動揺した斎藤は手に持ったおしめをぽとっと落とした。
それをすかさず拾い上げた永倉は原田に渡すとぎこちない手つきながらもおしめを替え終え頬を緩めた。

「はあー、何度変えても慣れねぇな。壊れちまいそうだ」

「だよな、だから俺は無理だ」

そんな会話をしている二人を他所にふにゃふにゃの赤ん坊の傍に置いたおしめをさっと纏めて部屋から出て行った斎藤。

「身の回りの世話は完璧なのになんで司の世話になるとがっちがちになるんだろうな」

「斎藤が一番に器用そうなのにな」

慣れた身のこなしでおむつを片付けに行ったこの場には居ない斎藤を弄って一笑いすると、目の前の司と呼ばれたふにゃふにゃの赤ん坊に視線を落とした二人は頬の筋肉をこれでもかと言うほど緩めた。

「しっかし、赤ん坊ってのはなんでこんな可愛いんだ?」

「桜も相当だったが司も負けてねぇな」

原田が目を細めて司を見詰めながら言うと永倉はだらしない顔でつんつんと頬を突ついた。
それと同時に入ってきたのは沖田だ。

「もう、馬鹿が移るから」

「おー、総司おかえりーって馬鹿ってなんだよ」

「そのまんまの意味」

「違いねぇ」

くつくつと笑う原田に不服そうな永倉を横目に沖田は大事そうに小さな赤ん坊を抱くと「ありがとう」と彼らしくない律儀な感謝の気持ちを口にして部屋を出た。

「総司、丸くなったな」

「ああ、」

嬉しそうな優しい声音での会話が後ろから聞こえてきた沖田は知らん顔で廊下に出ると、くすくす笑う笑い声に後ろを振り向いた。
桜と手を繋いで廊下に立っているなまえが「おかえりなさい」と言って微笑んでいた。

「おかえりなさいじゃないでしょ、ちゃんと寝てないと」

「大丈夫ですよ、いつまでも寝ていたらそれこそ体が鈍ってしまいますよ」

「かあさま、ちゃんとやすみながらだから、だいじょうぶだよ!」

そう言うと桜はなまえの元から沖田へ駆け寄って嬉しそうに足にしがみついた。
その小さな頭を撫でてやれば嬉しそうに目を細める桜。
沖田はなまえの体調を心配して自分が出稽古に出ているときは桜や原田、斎藤、永倉に目を光らせていてくれと頼んでいたのをなまえは知っていた。
手の空いた時に司の世話を先程のように良くしてくれるのだ。
勿論桜の遊び相手にもなってくれる。
体調は良くなったとは言えお産を終えたうえ夜の授乳で寝不足な体には元気に駆け回る桜の相手を全力では出来ないなまえは皆の気遣いが有り難かった。
仕事でなかなか居ることのない斎藤ですら休みの日などはよくなまえと司の様子を見に来る。
沖田に頼まれたから、と言うよりは進んで司に構いたくて仕方のないといった様子だ。

「うん、ありがとう桜。今度はとうさまが疲れたから部屋で少し休むよ」

「さくらまだあそびたーい!しんぱちとあそぶー!」

そう言って居間に元気よく入っていった娘に苦笑いが漏れたなまえは沖田に手を取られて自室に連れて行かれると布団へとなかば無理矢理寝かされた。

「もう、ちゃんと寝てて」

「もうすっかりいいんですよ、動きたいです」

「…、無理しないなら、少しね」

心配そうにそう言うと胡座をかいた上に腕を乗せて抱いている息子からなまえへと視線を向けた沖田。
無理もない、出産のあの日出血が多くて気を失って心配させたのはなまえ自身なのだ。
なによりも恐れていたことを沖田に感じさせてしまったことに胸が痛くなる。
ただ、出血が多くてその後数日は起き上がれなかったが一月も過ぎた今は至って元気なのだ。
じっとしていられない性分のなまえが動きたくもなるのも仕方のないことだった。

「総司さん、心配させてしまってごめんなさい。でも…大丈夫だったでしょ?」

一月ちゃんと口にしなかった言葉を口にすると一瞬だが酷く辛そうに歪んだ顔をした沖田に起き上がったなまえは、手を伸ばして頬を包むと今度は沖田が片方の手を其処に重ねた。

「本当、だよ。生きた心地しなかったんだから」

「総司さん、」

辛そうに見詰めあった二人だったが次の瞬間"ぶりぶりぶりっ"と威勢の良い音が静かな室内に鳴り響いて同時に吹き出した。

「司、立派だねー!」

「あはは、しんみりしてる時におならしるなんて」

「ふふふ、案外ちゃーんと分かっててしたのかもしれませんよ。もう大丈夫、しんみりしなくてもって」

「そうかも、もう大丈夫」

二人合わせた顔は先程とはうって替わって晴れ渡って幸せそうに緩んでいた。

「うわあ!くちゃい!」

そう言って間に入ってきたのは桜。
いつの間に戻ってきたのだろうか、なまえの膝の上にちょこんと座ると鼻を詰まんでいる。
まだそんなに臭わないそれに業とらしくしかめた顔で耐えきれずぷぷっと笑った桜に三人で顔を見合わせながら笑った。

桜に司…

腹を痛めて産んだのは司だけだけど桜にも確かに感じる愛しい気持ちにこれから先も変わらずこうして四人で笑っていられると心から確信出来るなまえは二人の母と成れたことへの幸せを噛み締めていた。









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