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キラキラと眩しい太陽、暖かくなった春の陽気に包まれた外へと出たのは、お昼休みのことだった。
誰よりも早く保存とバックアップをして、誰よりも早くフロアを出て会社のエントランスを歩く私は、今にもスキップをしだす勢いでご機嫌です。




マニアで良かったです!―





何時もなら同僚と食堂にランチに行くのだけど、今日はどうしても外せない大事な用があるんです。
最初は同僚を誘っていたのだけれど、皆この言葉を聞くと揃って眉間に皺を寄せてしまい痛そうだとか、怖いだとか腰抜けな事しか言わないんです。
確かに…私も、怖いし痛いとは思いますが。矛盾していてもいいんです。
小さなバッグを持った手に力を入れて、ふんっと荒く鼻息を吐き出した。

仲の良い同僚達の反応に、最近じゃ聞くこともなく"アレだから!"とその言葉だけで通じてしまう言葉を口にして一人でこうして昼休みに出てくるのです。
アレとか言うと、お月のものみたいですけどね。
ぶっと心の中で笑って、暖かな日差しの中会社を後にした。

会社から程近い、広場になっている開けた一角に大きなバスとテントが張っている。
ふふ。あれあれ、アレが私の目当てのものです。
大々的に掲げられている、目に止まる十字マークで見る人はすぐ気づくと思います。
そう、"献血車"ですね。
ふふふ、と頬が緩むのが自分でも分かってしまう私は、小走りに其処へと走って行くと、バスの横から出てきた人に、どんっと当たってしまった。

『はぁ!す、すみません!』

「…否、大丈夫か」

『はい…っは!』

「あんたは…」

ぶつかってしまったのは、なんと我が社員なら知らぬ者はおらぬと言うほどの見目麗しい、イケメン…斎藤さん!
部署が違うので、接点もない彼とはエレベーターの相乗りで何階かを聞かれる時に話したことがある。
そのような程度で、彼はきっと私のことを知らないでしょう。
でも、私は貴方のことをお慕いしているんです。
私の部署からエレベーターに乗るのに斎藤さんの部署を通らなければいけないのですが、私が残業をすると決まって、斎藤さんが残業をしている姿を見かけました。
最初はなんの気無しに通っていた貴方様の部署の横も、何時しか今日も頑張っておられるのかと、その姿を探している自分が居たのです。
恋って不思議ですね。いつしかあなたで一杯なんです、斎藤さん。って、私が彼を気になりだした馴れ初めなどどうでもいいですね、其れより今は…何故、此のような所に。

おろおろと視線を彷徨わせた私に送ってきた視線を、バスのドアへと向けると、「あんたもか?」と問いかけてきた、お声がまた低くて素敵いいいい!
ってまた脱線するところでした、ぶんぶん首を上下に振りまくる私を見た斎藤さんは少し目を見開いて、「先に」と一歩下がってくれた。
先にと言うことは、貴方様も献血にいらしたのですか!
同類です、私達!献血が好きだと言えば、決まって若干の温度差を感じてきましたが、遂に私のこの気持ちと共感して下さる方が現れたのですね!
喜びでフルフルする身体を抑えながらバスに乗り込むと、後から斎藤さんも乗り込んでくる気配に、ニンマリとだらしなく顔が緩んでいることでしょう私はその顔を晒しながら椅子へと腰掛けるのでした。

問診を受けると、リクライニングの椅子へと通され、後ろを見ると斎藤さんも移動しております。
ひゃ!これは、斎藤さんと献血が行えるということでしょうか!
大好きな献血と、恐れ多いながらも陰ながら大好きだとお慕いしていた斎藤さんとダブル大好物を目の前に、鼻血が吹き出しそうですよ!

ニタニタが止まらない心境の私は、案内された見慣れたリクライニングする椅子へと腰掛けると、私の横を通り越して、隣の席へと腰を掛けた斎藤さん。

採血をするために準備をする看護師さんを目の前に、隣に向けていた意識を目の前の看護師さんへと向けた。

ひゃー!あの針がブシューっと!

刺さる瞬間目を思い切り瞑って怖さを逃しました。
ジュースもお菓子も無料で頂けて、人様の為になるなら、やらないなんて選択肢はないんです!
決して注射が快感とか変態な要素がある訳では無いのです。
やはり、異物が身体に入るのですからね、不快です。
だけど、今日も見知らぬ誰かの為になれたと思うと幸せです。
目を瞑って幸せを噛み締めますが、やはり隣の斎藤さんが気になりますね。
そうこいしているいちに、終わりを告げた大好きな献血と斎藤さんとの同じ空気を吸える時間に、少し寂しさを感じて席を立つと、斎藤さんも又同じく席を立った。

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