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『やだやだやだー!!!むりむりむりー!』

「こら!静かになさい!目立って仕方ないわよ。逆に恥ずかしいわ」

放課後の生徒が帰っていく校門の横に在る電信柱に抱きついて、首を振りまくる私。
その私の腕を振り解こうとしている千の言葉で、声を上げるのをやめた。

『だってぇ!千、お茶しようって言うから!なのになんで薄桜学園の校門なのさ!』

そうなのだ、校門って言っても我が校ではなく、薄桜学園の校門の前に居るんです私達。
最大限に声を潜めて、千に抗議するとギロっと瞳が鋭くなった。
やだ、この視線。何かを決めた時の力強い意志の表れなんだよー!
長年の付き合いから分かるけど、何かを企んでいる千に一歩退くと腕をガシッと掴まれて変な声が上がってしまう。

「なまえ!あんた、ずっと独り身のままでいいの?今日こそ愛しの彼を見つけるわよ!!」

『え、やだいいよー!』

「ちゃんと出来きなきゃ、今年の夏の別荘はなしよ」

だんまりした私に、機嫌よく頷くと「そこのコンビニで飲み物買ってくるから、逃げるんじゃないわよ」と去って行った。
あー!くそー!ああ言われてしまったら、何も言えないじゃないか!
千の家はお金持ちで、毎年夏には別荘にお呼ばれしてバカンスを満喫しているのだ。
それが、今年はお預けなんて夏のビッグイベントを自分から棒に振るなど出来ない!

ぎりぎりと拳を握り、決意を固めた私は電信柱の影へと身を潜めた。
じりじり照り付ける太陽に、額を拭った。
夕方と言えど、西日がキツくて日陰でも無いそこはまだまだ暑い。
少し冷静になった頭で、校門を見ているけど、疎らに出てくる生徒にもう帰っている可能性だってある。
だって、私達だって学校が終わってからすぐ帰ってきたわけでもないし。
少し教室でお喋りをして出てきたのだ。
もしかしたら、会えないかもしれないと思ったらガッカリした自分に驚きつつも、千が飲み物を買いに行ったコンビニを見た。

『まったく、千のやつ。なにしてんだか。遅いわって、…わぁ!!』

独り言を呟いていたら、スピードを出した黒い高級車が私の前でぴたりと止まった。
吃驚して一歩退くと、助手席から黒いスーツの人が出てきて後部座席を開ける、スマートな動きに呆気にとられて電信柱に手をついた私。
次いで、白色の学ランに身を包んだ男が出てきて私の手を掴んだ。

『ひゃっ!!え!な、な、なんですか?』

「お前、みょうじだな」

『え、そ、そうですけど!こ、この手離してください!いだだだた!』

力強く手首を掴まれた所を見た。
ちょい、なんですか!すっごい力!

「女、煩い。お前千の友人だろ。其の様な冴えない外見で、彷徨くな」

『千…あー!風間さん?』

「きゃんきゃん煩い。良いから乗れ。俺様が、外見をどうにかしてやると言っているのだ」

『へ?何?外見?良く分からないんですけど、千なら今コンビニに行っていますからっ!』

この白の学ラン、偉そうな口調の風間さんは薄桜学園の生徒会長で、千の彼氏なの。
一度だけ会ったことがあったけど、急に腕を掴まれてパニックになったのも手伝って、分からなかった。
ってそんなことより、冴えない外見ってなんだ、久々なのに失礼やしないか…
それに何で私、車に乗せられそうになっているんだ。
千が来ますから!と叫びながら、抵抗していると、風間さんに掴まれている反対の手をぐっと掴まれて後ろへと引かれた。

「嫌がって居るようだが。校門の前で問題を起こされては困る」

低い声が耳に届くと同時に、風間さんの手が離れてよろけた私は後ろの助けてくれた声の主に、後ろから抱きとめられた。
振り返って御礼を言おうとして、開いた口が塞がらず二度見したいのを耐えた…耐え抜きました!
よく耐えれたぞ!自分!と褒め称えてあげたい!
だって、後ろで私を抱きとめて居るのは、電車の彼だったのだから!

「おまえは…斎藤か…。教師の犬が。俺はそいつに用が在るのだ。貴様は下がっていろ」

「俺には嫌がっているようにしか見えぬ。退くわけにはいかん」

なっ、なんだか…私を挟んで火花が散っているような気がするのは…気のせいじゃないはず!
オロオロしだした私に、聞き慣れた声がするとホッと胸を撫で下ろした。

「風間止めなさいな。なまえが怯えているわ。斎藤さん、悪いんだけど、その子頼んだわ。私はこの男をどうにかするから」

そう言って、あっという間に車に引っ張り込んで、去って行く高級車を唖然と見送った。
なんだ…今のは…

呆けて、車をが去って行った方を見ていたら後ろの気配が動いた。
そ、そ、そうだった!
電車の彼…元い斎藤さんに、だ、だ、抱きとめてもらっている…の…だ。

「さ、斎藤さん…。あの…ありがとうございます!」

ぎこちないながらも、数歩前に出てくるりと斎藤さんの方へと向き直ると、腰を折って顔を上げると、頬を赤くした斎藤さんが視界に入った。

わあ!斉藤さん真っ赤!私も頬が熱いから真っ赤なんだろうけどそれにしても…
斎藤さんって照れ屋なのかな?彼の知らない面を見れて調子に乗った私。

『さ、斎藤さん!助けてもらった御礼!』

そう言って傍に在る自販機にお金を突っ込んでジュースを渡した。
なんだか斎藤さんが可愛く感じてしまって、ちょっと大胆な行動へと移して自分でも吃驚した。普段の私なら逃げていたな。この状態。
そんな事を思いながら並んで歩き出す。
どちらから何を話すわけでもなく、過ぎていく景色は新鮮で勿論、薄桜学園の生徒でも無いからこんな道は通らない。
でもそれより何より、斎藤さんが隣に居るという事実が信じられない。
緊張しながらも確かに感じる頬の緩みを感じながら歩いていると、ふと立ち止まった斎藤さんに、首を傾げた私も立ち止まった。

『斎藤さん?』

「…電車…。毎朝一緒だ」

『電車…って、覚えていてくれたんですか?』

口ごもりながらも、急に発した斎藤さんの言葉に驚きを隠せない私は声を荒げてしまった。

「ああ…。同じドア側だ。あんたは朝が早いのだな」

『はいっ!斎藤さんに会いたくて!』

あっ!なに、ちょっと待て!私!斎藤さんが覚えていてくれて嬉しすぎて思わず口走ってしまったけれど、これって…
これって!好きだから会いたいって、遠回しに言っているようなものじゃないか!
案の定、目を見開いて見る見るうちに顔を朱く染め上げた斎藤さん。

『あ、否、その…違くて!って、違わないって、そうじゃなくて忘れて下さい!』

今度こそ居た堪れなくなった私は頭をガバッと、下げると走り出そうとして手を握られた。
はへ?手…斎藤さんが手を握って…私、斎藤さんに引き止められてるのでしょうか!
パニックになる頭で思案しようとしても、そんなこと、今はもう無理で。
只、斎藤さん掴まれた手を見下ろしていた。

「…その…。俺もあんたが乗ってくるのを毎日待っていた」

『へ?待ってくださっていた?それはどういった意味で…』

頭が真っ白な私は、疑問符だらけの頭でぼんやり斎藤さんの麗しいお顔を見上げていた。
あー、もう私ネジ何本か吹っ飛んでるかも。
斎藤さんからの言葉を待っていると、彷徨わせていた視線を私に定めてしっかり見つめて言ったんだ…

「好きだからだろうな」

ただ見つめるだけで幸せだった、恋が実るなど予想外でした。


(明日からは、同じ左側のドアに立とう)
(え…)
(もう見つめているだけなど、出来ん。傍にいてくれ)
(は、は、は、は、は、はいいい!)



―終―


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