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溜まった洗濯やら片付けなんかをやっているうちに昼なんかとっくに過ぎちまった。
何処か出掛けたいって言ってたのは今度になっちまったな。
慌てて準備をして、駅前にある世話になっている不動産屋に足を踏み入れると、奥から出てきたのがたまたま担当者で軽く挨拶をして、椅子へと腰掛けた。

「本日はどういったご用件で」

「物件を探しにきたんだが」

「物件ですか…」と俺からちらりとなまえの顔を見ると、「じゃあ、お二人別に案内したほうがいいですよね?」そう言って立とうとした営業マン。

「否、同じ物件に越すから必要ない」

「同じ物件…あ、ああ。そうですか!では、物件案内させて頂きます」

少しの沈黙の後、何故かすげぇ嬉しそうに笑う営業マンに少し居心地が悪くなりながらも希望を伝えた。
だってよ、そのうち出てくからと言っていたのに、二人で同じ物件探してるなんて出来ちまった!って言ってるようなもんだろ。
営業マンの嬉しそうに弾む声に気恥ずかしくて居心地が悪い。
黙りする俺に代わりになまえが応答してめぼしい物件をチェックし後日見学する日を決めて店を出た。


『トシさん、なかなかいい物件があって良かったね』

「ああ。これで結婚も近づいたな」

『そ、そんなに結婚願望が強いように見えないのに』

焦りながらも、何処か嬉しそうななまえを見ていると幸せが胸に広がった。

「なまえとだからじゃねぇか。結婚っていいもんかもなって思えるようになったのは」

確かに結婚なんざ、縛られるだけで好きなこともできねぇ面倒な事だけだと思って生きてきた。
だがなまえと一緒に住むようになって、自分の回りをちょこちょこと動き回って世話して来るこいつに居心地の良い物を感じた。
このままずっと、側にいて欲しいなんて柄にもなく思っちまうんだな。

夕陽に照らされた幸せそうに微笑む横顔を見て繋いでいる手をそっと握った。
この真ん中にその内ガキが増えるのかと思うと、胸が暖かく擽ったくなった。

家に帰ってきても、洗濯物を取り込んだりと忙しなく動くなまえは、夕飯の支度へとキッチンに立った。

ダイニングテーブルでパソコンを開きながらそんななまえの様子を伺いながら、少し纏めておきたかった仕事をすることにした。

『ねぇトシさん?』

呼びかけられて手を止めてキッチンを見ると、玉ねぎを切っていたなまえが目を少し潤ませて手を休めて此方を見ていた。

『仕事なら部屋でやったほうが捗るんじゃないの?』

「…」

確かに何時もは寝室のデスクでやることが殆どだが、なまえと同じ空間に居たくてわざわざ此処に持ってきたなんて言えねぇな。
無言の俺に不思議そうに首を傾げてから、何も言わずに包丁を進めた。
とんとんとんと軽快に音を鳴らすまな板の音に耳を傾けながら、キーボードを叩いていると呻き声とダンっと叩きつける音の後に、ジャーっと水道を勢い良く流す音が聞こえてきた。

驚いてキッチンに目を向けると、シンクに顔を突っ込んで嘔吐く姿が視界に入り、慌てて立つと背後に回って背中を擦った。

「ど、どうしたんだ?急に!」

『ううっ』

必死に背中を擦りながら慌てて聞くも返事もままならないのか、シンクに向けた顔を此方に向けようとしない。
斜めから見えた顔は青白く、体調が芳しく無いことを告げていた。
今迄元気だったじゃねぇか…急にどうしたってんだ。
胸に手を置いて唸っているなまえを見ていたら一つの答えが俺の中にポンと浮かんだ。

「っ!なまえ!でかしたぞ」

でかしたぞなんざ、自分の口から出る
可笑しな称賛する言葉に違和感なんざ抱く暇もなくなまえの両手を握った。
ビクリと肩を跳ね上げるなまえが『何が?』と口にする顔は青ざめていたが、片手を腹に置いて撫でた。

「悪阻だろ!その気持ち悪さは」

『はあ?』

「はぁ、じゃねぇよ」

嬉しさが込み上げた俺は此れでもかと言うほど、腹を撫でながら父親になる喜びを噛み締めた。
だが、『トシさん…多分違う』と気まずそうに壁に目を逸らしたなまえ。
その後の『だって、さっき生理きたし』の言葉でがっくし肩を落とすことになった俺の落胆なんざ誰も分かっちゃくれねぇだろ。

前の時は父親になる覚悟もそんな自分の姿も想像できなかったが、結婚を意識するようになった俺の落ち込み具合は半端ねぇもんだ。





(何で中出ししてんのに出来ねぇんだよ!)

(そ、そんなの知らないわよ!それにそんな胸張って言わないで!)

(くそっ、これから毎日出すぞ!)

(えっ!そんな宣言いいからああ)




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