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トイレに立って帰ってきた私は、今し方まで自分が座っていた席を見て、眉根を寄せた。
誰アレ!綺麗な女がトシさんの隣、私の席に座って飲んでいるじゃないか!
イラッときた。
イラッときたって言葉じゃ表し切れないぞ!
大人の色気で格好良くて自分がいなければああやってすぐ女が寄ってくる。
私ばかりやきもきして馬鹿みたい!
私だって、私だって!もてようと頑張ればモテるんだから!!
そうヤケになって、トシさんからは見えない、カウンターの端に座って酒を煽りだした。
幸い肝臓の方も深刻ではなくて数値も戻って、沢山飲まなければとお許しが出た。
だけど、あんなに好きだった酒を飲んでも良いと言われても、飲みたいと思わなくなったのだ。
だから、パイナップルジュースを飲んでいたけれど…こうなったら自棄酒だ!
このバーに惹かれたのも酒が飲みたかったからじゃなくて夜景と、ただ単にトシさんと大人なデートがしたかっただけ。
彼に釣り合うように、大人な女になりたかったんだよ!
久々に口にした酒は思いの外、身体を浸食したようで、少し呑んだだけでほんのり熱くなってきた。
おっかしいな!あんなに強かったのにな!上に羽織ったラメのカーディガンを脱ぐと、カウンターに頬杖を付いた。
「ここ、いいですか?」
『ん?』
声を掛けられて、横を向くと少しワイルド系のイケメンが立っていた。
ほらっ!トシさん!私だってまだまだイケるんだからね!
今度は、トシさんがやきもきする番よ!鼻息荒く、頷こうとすると頭を掴まれて頷くことが出来なかった。
「悪いな、こいつは俺の連れだ」
メキメキ食い込む馬鹿力で頭を持たれた所為で、後ろに立ったこの痛みを与える人物を確認することは叶わなかった。
叶わないけれど…不機嫌なこの声の主は、紛れもなく愛しのトシさんだ。
『いだだだ!痛いよ!トシさん!』
「痛いじゃねぇ。おせぇから見に来たら、なんでこんなとこ座ってんだよ」
『ふん!綺麗な女と美味しく酒でも飲んでなさいよ』
「はあ?」
『はぁ?じゃないわよ』
ぷりぷり怒る私を余所に、会計を済ませたトシさんに腕を引かれるまま店を後にした。
もう、折角の誕生日なのに最悪。
まだ腹の虫がおさまらないのと、悲しくなる気持ちで引きずられるようにエレベーターに乗ると、地下の駐車場ではなく、一階で降りたトシさんに此処で待っとけとロビーのソファーへと半ば押されるように座らされた。
『ちょっ、何処行くのよ』
「一服だ」
私なんか見ずに歩いていってしまうトシさんに溜息を吐いた。本当自分勝手なんだから。自分は声掛けられも私が声を掛けられるのは気に食わないなんて!あんた中心に回ってるんじゃないっつうの!
ロビーに放置されたことも手伝って、イライラが募った私の元に現れたトシさんは「いくぞ」と短く口にするとスタスタエレベーターの方へと行ってしまう。
仕方なしにゆっくり立ち上がると彼の後へとついて行った。
エレベーター待ちをしている数人の人に紛れて立っていると、ポーンと到着を知らせる音。
上の矢印が点灯しているから関係ないと突っ立っていると、腕を引かれた。
『え、上だよ?』
他の人も居るので、トシさんにしか聞こえないように近寄って囁くと「いいから黙ってろ」と掴まれている手をぐっと握られた。
いったいし!何でこんなに俺様なの!
でもこれって相当ご立腹だよね…
無言のまま、ドアを見つめるトシさんの横顔を見ながら縮こまる身体を感じて浅く息を吐き出した。
何でトシさんが怒るのよ。先に声掛けられていたのはそっちなのにさ。
解せないけれど、そんなこと口に出したら今ここで強姦されそうな勢いだからやめておいた。
これ以上機嫌を損ねるのは得策ではないよね。
トシさんが、エレベーターから降りたのは40階。
無言のまま付いていくと、一室のドアの前でカードキーをスーツのポケットから出してスライドさせた。
『トシさん?こ、』
ドアが開くなり強く引っ張られて室内引き摺り込まれた私は疑問を最後まで口に出せずに、最初から激しく深い口付けをされた。
逃げる私の舌を執拗に追い絡めると飲み下せなかったどちらの物か分からない唾液が、喉を伝って流れて行く感覚に背筋がゾクリとした。
『はぁ…はぁ…と、トシさん…』
「お前は俺のもんなんだよ。何容易く声掛けられてやがる。分からせねぇと駄目みたいだな」
『え、…あぁっ!』
いつの間にか外されたブラウスの釦で肌けた胸元に顔を埋めたトシさん。
『っ!こんなドア先でー』
「此処じゃなければいいんだな」
そう言って、太腿を持って担ぎ上げられた私は簡単にベッドへと運ばれてしまうのだった。
やきもちを妬くのはいつも私だから偶にはトシさんにも妬いてもらおうとした私が馬鹿でした。
(ちょ、トシさん激しいー!)
(お前が変な男に現抜かしてるからだろ)
(現なんて抜かしてな…って、トシさんそれってヤキモチ?)
(うるせぇ!黙って鳴いてろっ!)
(ひゃっ!)
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