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バスから降りて、横のテントでジュースとお菓子を貰おうと思い歩いて行くと、ふらっとしてバスの車体へと手を付いてしまったことに自分でも驚きを隠せません。
あれ、貧血ですかね?何回もしていますがこんな事今までありませんでしたよ。
目を瞑ってやり過ごしていると、心地のいいけれど、どきどきと胸が高鳴ってしまう声が聞こえてきて、目を開けた私はその物体が視界に入って、益々のぼせ上がりそうになってしまいました。

「どうしたのだ。具合が悪いのか?」

『…否、少し立ちくらみがしただけ』

最後まで言わせてもらえず、「では、知らせてくる」といった、彼の腕を掴んだ。
やん!細身なのに、腕…筋肉の塊ですか?かちんこちんです。
気分が悪い癖に場違いだろう感想が頭を過りデレてしまうであろう顔を、必死で押し隠す術を私は知りません。

『だ、大丈夫です。休めば』

「では、テントに」

『うーん…テントまで無理かもです。もう少しこうしてから行きますので。有難う御座います』

そう言って、立ち去るであろう斎藤さんを見上げたが一向に動く気配は無くて、何やら思案顔です。
首を傾げた私は次の瞬間傾いた身体に吃驚して、変な声が出てしまいました。

だっ、だっ、だって!
あろうことか斎藤さんにお姫様抱っこというメルヘンな横抱きをさせれているんですから!パニックになるなと言ったほうが無理ですよね?はい、無理です!
自信満々に断言した私の頬はきっと真っ赤かもしれません。
あぁ、顔が熱いです。否、体中熱くて仕方ありません。
脳内独り言を繰り返していた私は、歩きだした斎藤さんを思わず呼んでしまった。

『さ、斎藤さんっ?』

「黙って抱かれていればいい。落ちる」

そう言って、ぎゅっと腕に力を入れるものですから、心臓が思わず口から飛び出てしまうのでは無いかと思いましたよ!
私今斎藤さんって言ってしまいましたが、不審がられやしなかったでしょうか。見ず知らずの女が自分の名前を知っているなど。
不安に思い、近すぎる距離の斎藤さんのお顔を見上げたけれど、普段の斎藤さんです。
私を運んで下さるのに精一杯で、其れどころではありませんよね。
申し訳ないと、不安定な身体を支えるように遠慮がちに彼の腕を掴ませて貰いました。

『あ…テント?』

「テントより、此のベンチの方が近いだろう」

私を近くの、屋根付きのベンチへと座らせると去って行く斎藤さんの背中をぼんやり見つめました。
あ…御礼…。でも、叫ぶほどの力など今の私にはありません。ごめんなさい。そして有難う御座います、斎藤さん…
あまりにも怠く此のベンチに寝転んでもいいだろうかと思案して、辺りをきょろきょろ見渡していると、テントから出てきた斎藤さん。
今入ったばかりなのに出てくるのが早いですね。
十分は少なくとも休憩しますものね。
斎藤さんに釘付けになっていると、私の腰掛けているベンチまで来てジュースとお菓子を差し出してきました。

『へ?これ』

「あそこまで行けぬのだろう。持ってきた」

『あ…ありがとうございます』

なんて、気の利く方なのでしょう。親切で泣けてきます。
私を見下ろして立っている斎藤さんも、献血したばかりなのですよね。機敏に動いていらっしゃるからすっかり忘れていました。

『あの…良かったら座りませんか?休憩しなきゃです』

「ああ…。すまない」

斎藤さんも何故か、自分の分のジュースを手にもって立ってらっしゃるので、私の椅子の横をぽんぽんと叩いて勧めると目を丸くしてから、腰を落とした。
私にジュースを渡したら、献血ルームで休憩すればいいのに、わざわざ近くにいて下さるのは心配してくれているからなのでしょうか。
斎藤さんの優しさに触れて、心がほっこりした私はふぅと息を吐き出した。
ほっこりですが、気分は優れません。

「みょうじまだ顔色が悪いようだが」

『はい。座っているのが辛いです。酔ってしまった世のお父様みたいにベンチに寝転ぶか迷っていました』

「…其処まで気分が悪いのか」

『はい。…って、斎藤さん、何故私の名前を…!し、し、知っているのですか!』

「あ…か、会社が同じなら普通だ」

『でも部署も違うし話したことも無いです』

そんなに突っ込まなければ良かったと後悔しました。だって、困惑顔の斎藤さんは黙りしてしまったんですもの。

「総司が…」

『沖田さんですか?』

「ああ。あんたが献血マニアだと聞いたんだ。それで…その…気になっていた」

『ふぇ!気になって…って、そ、そうですよね!献血をしたがる人など周りにいませんものね』

気になったと、言う言葉に舞い上がった私は、がばっと立ち上がって力強く力説しようとして、よろけそうになってしまいました。あー、お馬鹿です。気分が悪いのにそんなに急に立ち上がっては倒れる事など必然ではありませんか。
後悔が押し寄せていた私は斎藤さんの前で、無様に倒れる事を覚悟しました。
だけど、斎藤さんの逞しい腕に引かれて又、ベンチへと無事着席できたのです。
でもですね、引っ張られた所為で斎藤さんに凭れ掛かるような体勢になってしまってるんです、今。あぁ、またご迷惑を…

「気分が優れない時に急に立つな。危ない。それにあんたの顔色は悪すぎる」

そう言って、膝をぽんぽんとした斎藤さんは、「此処に転がれ」と言い放ったのです。

『い、否。斎藤さんにこれ以上ご迷惑は…』

「早くしないと午後の始業時間が始まってしまう。遅刻をして鬼の部長に怒られたくはないだろう」

『う、そ、それは…』

うちの部長が鬼のように怖くてスパルタなのを出されてしまえば、従うしかありません。
だって、部長にカミナリなど落とされたら即死です。
部長を言い訳に、躊躇いがちに斎藤さんのお膝へと頭を置いた。
硬くて、とても寝心地がいいとは言えないですが、とても美味しいです。
斎藤さんの膝枕!何処を見たらいいのか困った私は目を瞑ってみました。
だって恥ずかしいではないですか。でも何故横を向かずに真上を向いてしまったのでしょうか。これじゃ斎藤さんに不細工な顔が丸見えです。
半泣きになりながらも今更、横を向くなど緊張してガチガチの身体には無理でそのまま目を瞑っていると、ふわりと頭を撫でられてまたまた口から心の蔵が、飛び出そうになりました。

「少しは楽になったか?」

『は、はい…』

本当はドキドキしすぎて、嘔吐いてしまいそうですけど。
そんな下品な返答はできません。

「みょうじ…次回からは一緒に献血をしよう」

『へ?』吃驚して目を見開いた私は、見下ろした斎藤さんの優しく細められた瞳とかち合った。

『毎回?』

「あんたが嫌ではなければな。こうして介抱するのは俺だけにしてほしい」

後頭部が斎藤さんの腿をごりごり刺激していることなど気が回らずに必死に頷いた私が、彼の言った意味に気づくのはすぐのこと。



(斎藤さんも献血マニアだったんですね!一人より二人のほうが楽しいですものね)

(…)

(斎藤さん?)

(俺は献血マニアではない…好いている女子の気持ちに寄り添いたいと思った故)

(っ!)

(ど、どうしたなまえ!目を開けろ!だ、誰か!)


終―


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