あの後、心配して食い下がるなまえに大丈夫だと説得して六時間目に出た僕は、チャイムの音で目が覚めた。


「総司ー!寝てんなよっ。本当よく寝るなぁ」

「平助とて前半は寝ていたではないか」

「えっ!はじめ君、俺の前なのに何で分かんだよ!エスパーか?エスパーなんだな!」

「…馬鹿か」

隣の席の平助と、その前のはじめ君が騒がしく話しているけど、って騒がしいのは平助だけなんだけどね。
今は会話に入る気になれない。

保健室でのなまえに留めてもらった釦が擽ったくて…

窮屈なのは好きじゃないから、いつも二つ開けている釦は今は一つ。
なまえが留めてくれたと思ったらそのままにしておきたいなんて女々しいことを考えて今も合わさったままの二番目の釦。

「総司!何ぼーっとしてんだよ?」

「うるさいな、少しは黙りなよね」

「って、なんかいつもの総司じゃねぇ」

顎に手を当てて考えるポーズをしている平助に溜息を吐くと制服のポケットが震えた。
手を突っ込んで携帯を出すと同時に口を開いたはじめ君。

「釦」

「へ?釦?…あっ!本当だっ!釦!どうしたんだよ」

きゃんきゃん五月蝿いと睨めば、しゅんと語尾を小さくして、はじめ君の腕にしがみついた。
僕今、そんな気分じゃないんだから。

怯えている平助は、はじめ君に任せて携帯を開くとなまえからのメールだった。





*






「総ちゃん、二切れぐらい食べれる?」

なまえの家のキッチンから掛けられた声に頷いた。

メールは、スイカを沢山貰ったから食べに来てと言うものだった。


縁側に腰掛けて、薄暗くなった空に薄く染まった茜色が遠くの方で綺麗に色付いていた。
日が落ちるのももうすぐだろう。

「はい、おまたせ…ってあれ。また寝てる」

昼間みたいに前髪を横に流すように撫でてくれるのを期待して…
柱に凭れて寝た振りをしてみた。
だけどいっこうに触ってくれる様子もなくて諦めかけた頃…

「総ちゃん…本当に寝てる?」

遠慮がちに掛けられた声。
悪戯心に火が付いて、寝ている振りをしておどかしてやろうなんて思っていると…

ふわりと風が動いた気配がしたと思ったら柔らかい感覚が唇にした。

この感触は……

慌てて目を開けると、吃驚したなまえが後ろに退いて「ご、ごめん」と呟いてストンと正座した。


「…なんで…謝るのさ」

「…え?」

「僕に触れたかったからしてくれたんじゃないの?」

「…そっ、それは」

「僕は…なまえに触れてもらえて嬉しいよ」


ほんのり朱に色付いた顔は、僕の言葉を聞いて首まで染めあげていた。
僕だって、多分彼女の事を笑えないぐらい真っ赤だと思う。

だけど…

伝えたいことは、きっと…口にださなきゃ伝わらないと思うんだ。


「なまえ…僕はずっと前から君が好きだよ」

見を見開いて、俯いたから…聞きたく無い答えかもしれないと脳裏に過ぎったNoと言う言葉。
俯いた顔を上げるて、はにかんだように笑うと「私もずっと好きだったよ」と言った言葉に今度は僕が目を見開いた。

「弟としてしか…みてくれてなかったんじゃないの…?」

「私は年上だから…総司を弟として見ることで気持ちに蓋をしてたの。でも、寝顔を見てたら…その、抑えられなくなっちゃった。触れたいって」

我慢していた分の大好きって気持ちが溢れてきちゃって…

頬にチュッと唇を付けると、頬を抑えて「そ、総司っ!」なんて慌てるから抑えられなくてもう片方の頬にも唇を寄せた。


「今まで我慢した分、沢山なまえの事可愛がっちゃうからね。年下とかもう関係ないから」

そう言った僕は、なまえの柔らかそうな唇目掛けて近づくと、視界に入った赤いもの。


「た、食べてからっ!食べてからね」


スイカを僕の口に押し当てて叫んだけど、そんなに押し付けたら…ほら…

僕の口の周りはスイカの汁でベチャベチャで……それに気づいたなまえが小さく謝るのが可愛くて。


「悪いと思ってるなら舐めて綺麗にして?」


「そ、総司の変態っ!」


顔をぐっと近付けると、肩を押されてしまった。

そっか、弟じゃなくて…

ずっと僕を思っていてくれたんだ。

もう弟なんて引け目を感じないで好きって言うからね。

伝えられなかった想いを沢山これから君に…





−fin−


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