頭を撫でられて、またウトウトしだした僕に、「ふふふ」って穏やかに笑うなまえの声が聞こえて…
目を細めて見上げると、頬を緩めたなまえ。
「総ちゃん、やっぱり猫みたい。機嫌のいい時はこうやって触らせてくれる」
「そう?いつもなまえにはこんな感じでしょ?」
「…そうかな。最近は…女の子と遊んでばっかりで構ってくれなかった」
少し寂しそうに瞳を揺らしたかと思ったら口を尖らせた。
確かに忘れるために遊んだけど…やっぱり忘れるなんて無理だと気づいて無意味なことはやめることにしたんだ。
だから冒頭のように、化粧の濃いい女の子に付きまとわれて正直うんざりしている。
僕の対応を見て、一君には自業自得だなんて言われちゃったけど。
僕の長年のやり場の無いこの気持ちなんて分からないよね。
でも、なまえの反応を見たら少しは僕のこと男として意識してくれたのかな。
それとも、幼馴染として寂しかっただけ?聞きたいけど…やっぱり僕は君のことになると臆病みたいだ。
「ねぇ、どこか痛いの?お腹?頭?」
「ん…」
頭やお腹じゃなくて、痛いのは胸。
それも、なまえがずっとそばに居てくれたら治っちゃうものなんだ、なんて心の中で思っているって知ったらどんな顔をするかな。
「山南先生に少し様子を見てほしいって頼まれたの。熱はかろうか?」
「山南先生、出張?」
「ううん、仕上げなきゃいけないものがあるとかで職員室で作業してるよ」
「そう。僕は、少し寝たら良くなったから大丈夫」
保健委員長だから休み時間の今頼まれたんだろど、山南先生の事だから僕が悩んでいるのはなまえのことだと分かって頼んだんじゃないかな。
体温計の蓋を開けるのを手で止めて首を振って起き上がる僕に、心配そうな視線を向けた。
「でも、夏風邪は拗らすと怖いし」
「風邪じゃないから大丈夫」
薄いタオルケットを剥いで起き上がると伸びをした。
「あっ!ちょっと待って」
「なに?」
「せめて、もう一個留めなよね」
ベッドから降りようとした僕の肩を軽く押して、座らせるとワイシャツの第二ボタンを留めるなまえ…
窓から入ってきた生暖かい風に靡いたカーテンと、なまえの長く綺麗な黒髪が揺れて、少し汗ばんだ僕の頬を掠めていく。
釦を真剣に見つめて留めている彼女が「もう…総ちゃんは、はだけ過ぎてるから風邪をひくんだよ」なんて、口を尖らせた。
そんな彼女との近さと、真剣な表情に魅入ってしまって、段々頬が熱くなっていくのを感じた。
「よしっ!出来た……って、やっぱり熱があるんじゃないの!?」
なんて、鈍い君は赤くなっているであろう頬の僕を見て慌てて額を触るけど…
鈍感だから気づかれなくて良かったと思う僕と…
もう少し君が鋭かったら僕等の関係も少しは違ったのかな、なんて思う僕も居たりするんだ。
君には…
本当に大切な君には、好きだなんて言葉到底言えないと思うんだ。
おかしいよね、君を忘れるために女の子とは遊べるのに、なまえには自分でも可笑しなぐらい真っ白で純粋な僕なんだと思う。
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