脱・幼馴染(平助/学パロ)

▼ホワイトデー


脱・幼馴染(平助/学パロ)

「平助、お昼何食べたい?」

「へ?あ…えぇっと…」

なんだこの歯切れの悪い返事は…

学校も半日で終わるから、毎日お昼は平助と食べていた。
いつもの会話と変わらないものだけど、平助の態度が明らかにいつもと違うんだ。
いつもなら、あれ食べたい、やっぱりこっちがいいと楽しそうにリクエストしてくれるのに。

学校帰りの閑静な住宅街を並んで下校していた私が、訝しげに横を歩く平助に視線を送ると、益々視線を彷徨わせて落ち着きがなくなる。

「あ、あれだよ。成績が落ちたから勉強しろって親が煩くて。だ、だから、今日は自分ちで食べるよ」

「ふーん?昨日おばさんに会ったけど何も言ってなかったけど?」

「そ、そうか?きっと言い忘れたんじゃねえか?…じゃ、また明日な!」


話しているうちに家の前まで来ていたようで、捲し立てる様にそう言うと家の中へ入って行ってしまった。

逃げるように…






「何なのよ、バカ平助!」

ダイニングテーブルにチンで暖めたチャーハンとスプーンを置くとそう吐き捨てて乱暴に椅子を引いた。

お互い両親共働きで付き合い出したこともあり大体は、一緒にお昼を食べて夜までどちらかの家に居る毎日を送っていた。

先程の態度を思い出して、一緒に居るのが嫌になっちゃたのかもしれないと不安になってきてしまった。

成績が落ちて勉強をしろと親に言われる時は絶対、平助のお母さんから教えてやって欲しいと直に言われてきたし。

チャーハンを掬うと、口に入れたけど益々気持ちが塞いでしまう。

「ひとりで食べても美味しくない…」

平助と付き合う前は、一人で食べる食事なんて当たり前すぎて寂しいなんて思ったことも余り無かったのに…
平助が居てくれる空間が当たり前になりすぎてしまった。

さっきまで一緒にいたのにもう会いたいよ、平助。

久々の一人の空間が広すぎて感じてしまった私は、それを紛らわすかのようにテレビのボリュームを上げた。



リビングでテレビを見ていると来客を知らせるインターフォンの音に、居留守を決め込もうとリモコンで消音を押すと途端に静まり返る室内。
次いで、ピンポンダッシュのように連打されたインターフォンに顔を顰めた。

だ…だれ…怖いんだけど…

連打されるインターフォンなど聞いたことのない現象に、戸惑っているとピタリと止まったことに胸を撫で下ろしたのも束の間、"ブーブー"とバイブの振動が響いて肩を跳ね上げた。

学校でバイブに設定したままだったことを思い出して床の隅に放り出されているバッグの中からスマホを出せば、平助の文字に肩の力も抜けて、"もしもし"と出た声は涙声だ。

『お、おいっ?泣いてるのか?』

押し当てたスマホから大好きな人の声がして、なぜか泣いてしまった私にオロオロする平助。
ピンポンを連打した人に怯えた所為だけじゃなくて、きっといつもと違う余所余所しい平助の態度に不安になってたから…
だから、いつもと変わらない平助の気配がスマホからして安心したんだ。

『平ちゃん…』

『な、な、なんだよ!どうしたんだよ!今、なまえの家の前に居るから開けてくれよ』

『へ?』







「もう、信じられない!平助が、ピンポン連打の犯人だったなんて」

「だから、謝ってるだろ」

ギロっと睨めば、押し黙る平助を横に平助の家のキッチンに二人並んで平鍋の中身を見ていた。

なんでも、急用で電話をしたんだけど全く出ない私に家まで訪ねて来たらしい。と言っても近所だけど。

それで、なかなか出ない私に痺れを切らして連打をすることに至ったというわけだ。

急用と言うのは目の前のこの鍋。

中身はきつね色に変色してきて、プツプツ泡がたって良い頃合いだと知らせていた。

「本当は一人で作りたかったのに…」

そう言ってしょんぼりと鍋を見下ろしている平助は怒られた仔犬見みたいで、耳がぺたんって垂れ下がっているのが見えるようだ。

「なんで、べっ甲飴なんて急に作ろうとしたの?」

アルミホイルを敷いた上に爪楊枝を並べてそこにスプーンで掬ったべっ甲飴を落としていきながら疑問が口をついた。
平助のべっ甲飴は水の分量が、砂糖より遥かに多すぎたから固まらなかったんだ。

「…」

だんまりを決め込んでいる気配を感じて、すべてのべっ甲飴を置いて鍋をガスコンロに置くと平助の方へと向いた。
罰が悪そうに私を見てから、台に並べられたべっ甲飴を見た。

「今日は、ホワイトデーだろ?買ったものより手作りをあげたかったんだ」

そう頬を染めた平助に胸が暖かくなる。

「毎年買った物だったのに…なんで今年だけ手作りなのよ」

嬉しいのに、恥ずかしくて素直にありがとうと言えない私は、伏し目がちに言葉を繋ぐとガシガシ頭を掻く気配がした。

「今年は特別だろ?両想いになれたんだから…だから、今までとは違うお返しをしたかったんだよ」

「平助…」

私の瞳には、頬を染めながらも至極優しい眼差しで見つめてくれている大好きな彼が居て…

高鳴る胸と同時に触れたくて仕方なくなった私は…

「平ちゃんぎゅってして?」

遠慮がちに口に出すと、ぼんっと音が鳴ったかのように真っ赤になった顔に笑うと、口を尖らせた平助は少しムキになりながら、ぎゅっと抱きしめてくれた。

「平ちゃん、幸せでどうしよう…」

「俺だって幸せすぎてやべぇよ」

平助らしい返しに小さく吹き出すと、背中に回した手にぎゅっと力を入れた。
すると、返事をするかのように私の背に回した彼の手も力を込めて返してくれることに幸せがじんわり胸に広がった。

「なぁなまえ…その、平ちゃんってやべぇなくる」

そう言って、抱きしめる力を緩めるとぎこちない動きで、私の唇に押し当ててきた平助の唇の温もりに心臓が壊れちゃうんじゃないかってぐらい早くなる鼓動。

…応えているけど些か長いそれに苦しくなった私は、平助の胸を押すと名残惜しそうに離れた。

「ぷはぁっ!へ、平助っ、長いっ!」

「だって柔らけぇんだもんっ!なっ!もう一回いいだろ?」

「はぁ?」

ムードも何もないおねだりに、呆れたと言わんばかりに眉間に皺を寄せたけど、本当はドキドキして嬉しくて仕方なかったんだ。

べっ甲飴のことなどすっかり忘れて、キスに夢中になる私たちは、甘〜いホワイトデーを過ごしました。


−fin−

(あとがき)

最後のお話は平助でした。
彼には、ピュアな青春な恋が似合うのに、最後は少し頑張っちゃいました♪

いつもお預けばかりじゃ可哀想だとw
ご褒美です、平ちゃんにww

そして、夢主ちゃんが「平ちゃん」と所々呼ぶのは、小さな頃の呼び名にふとした時に戻ってしまうんです。甘えたい時とかね。だから無意識!
決して平ちゃんの理性を壊す為に狙ったわけでわ無いんですよ!!(私は狙いましたが。うふふふ)

平助が作ったべっ甲飴。
この間長男が学校で作ってきたのを思い出して平助っぽい!!と勝手な管理人の妄想で平助に作らせてしまいました。

クッキーとか洒落たものより素朴な感じが彼らしいと感じたのは私だけでしょうかww



そして、最後まで読んでくださりありがとうございました。




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