我慢は身体に毒?(斎藤/現パロ/チョイ裏)

▼ホワイトデー


我慢は身体に毒?(斎藤/現パロ/チョイ裏)

「うっせ〜総司!付き合いわりぃなぁ!」

「ちょっと、なまえ…いい加減にしなよね」

そう言った総司の、引き攣った笑顔を最後に私の記憶は闇に落ちた。






ん……

気怠い身体にぼんやりする頭…瞼を押し上げたのは良いけど、自分の家ではない天井に顔を顰めた。

家では無いけど…見たことのある大好きな人の家の天井だった。

本来なら、落ち着く筈の彼氏の部屋だけど今日はそわそわしてしまう。

なぜかって言ったら、冒頭の総司との自棄酒のせいなのだ。



遡ること…数時間前。


「でね、聞いてる?」

「聞いてる。もう同じこと何回も言ってるよ。いい加減飲むのやめなよ」

「やだっ!総司が付き合ってくれないなら一人で飲むからぁぁぁ」

涙と鼻水でベチョベチョの顔をいくら気の合う総司の前だと言っても平気で晒してる時点で既に酔っているであろう私の顔を、おしぼりで拭いてくれる。
なんだかんだで優しいんだ、総司は…と思ったらそれだけでまた涙が出てきてしまうんだからいい加減飲むのを止めないとヤバイかもしれない。

「でもさ、一君だって好きで毎日残業してるわけではないんだしさ」

「分かってるよ、分かってるけど、寂しいものは寂しいんだもん!
それに今日はホワイトデーだよ?デートぐらいしたかったぁ」

「だからってさ、毎日自棄酒に付き合わされている僕の身にもなってよね」

"なまえの絡み酒が日に日に酷くなる"なんてボヤいているが無視だ。

バレンタインデーに両思いになってからというもの毎日残業ばかりで休日出勤も少なく無い彼とデートらしいデートなんて一回ぐらいしかしていない。
イケメンで社内でも人気の彼と両思いになれただけでも奇跡に近い事なのに、もっと一緒に居たいとどんどん欲張りになってしまう。
寂しさを紛らわすかの様に毎日総司を誘って飲み歩いていた。


そして、会えない愚痴を吐いてはじめ君の前では、寂しいとも言わず、いい女を演じていたんだ。








ぼんやりする意識の中、はじめ君の寝室のベッドで寝返りを打った。
フカフカの毛布を口元まで引き上げると大好きな匂いがして、はじめ君のことを思うと胸が一杯で…

目尻から次々に流れ落ちる涙。

彼を思うだけで涙が止まらないのは自棄酒の所為だけでは無いと思うんだ。
それなりに恋愛をしてきたけど…好きすぎて涙が出るなんてことは無かった。
ずずず、と鼻を啜ると後ろでドアが開いた音がした。

「…なまえ…起きているのか?」

壁側に向いている所為でドアの方に背を向けている私は、泣いているのを悟られないように静かに目を瞑った。
だって、気づかれたらなんで泣いているか聞かれるだろうし。
好きすぎて、泣いているなんて重たい女だなんて思われたくない。

そういえば…
総司と飲んでいたのに、なんではじめ君の家の彼のベッドで寝ているかなんて疑問がぼんやり浮かんだけど…

まだ完全にお酒が抜け切っていない頭では、まぁいっか…なんて思えてしまうからお酒の力は恐ろしい。

音のしない空間にベッドが軋む音がやけに大きく響いて、びくっと肩が跳ね上がりそうになるのを堪えると、背中に温もりを感じた。

だけど、くっつくわけでもなく少しの距離を開けた私の背中とはじめ君の距離が、今の私たちの距離感の様で悲しくなってしまう。

「あんたは…総司を好いているのにな…手放してやれなくてすまない」

確かに聞こえてきた、苦しそうに吐き出す様な言葉に一気に酔いも醒め…ては無いが、醒めたような感覚がした。


…総司が好き?私が?はじめ君は何を言っているのだろうか。

よく働かない頭を捻りながら、はじめ君のほうへと寝返りを打つと、目を見開いた彼。
闇に慣れていたのと近いお互いの距離に彼の表情はよく見て取れる。

固まってしまったはじめ君の代わりに深呼吸をすると聞いてみた。

なんで総司の事が好きだと思うのかと。

「二人で、毎夜飲みに行くではないか」

そう苦しそうに顔を歪めたはじめ君。

待って!はじめ君の残業の寂しさを紛らわすために総司を駆り出しているのに…と言ったら酷いけど。

勿論気心知れた友人だから、甘えて愚痴っぽくなってしまうけど…
今日も、ホワイトデーに一緒に居れないことの愚痴を総司にぶちまけていたことに罪悪感で一杯になってしまった。
だから私の頭からは、はじめ君が勘違いをしている最も重要な、私が総司を好きだと言う誤解をしていることがすっぽり抜け落ちてしまった。

本来ならその誤解を最も先に解かなくてはいけないのに…

「はじめ君…ごめんなさい…」

目の前にある端正な顔を見ていられなくて俯むいて続きを言おうとすると、背中に手を回されて抱き締められてしまった。

次いで、早急に彼の薄い唇が私のそれに押し付けられて…

なんで今…キス…?と冷静に考えられたのも最初だけで深い口付けの濡れ音に聴覚を刺激されて夢中で答えた私は、ずっとこうして欲しかったんだと思う。

只、抱きしめてくれるだけで頑張れるんだ。

暫くして、服の上から胸を揉みながら"やはり、手放したくない"と告げた言葉に我に返った。

そうだった!
なぜか総司が好きだと勘違いされたままだったんだ。

「は、はじめ君!!私の好きな人は、はじめ君だよ?」

いつの間にか、たくし上げられていた服の胸元から顔を上げて、私を見上げたはじめ君は信じられないと言いたげな顔だ。

「では、何故謝罪など口にした…」

「はっきりはじめ君に寂しいって言わないで総司に自棄酒を付き合わせていたことで、勘違いをさせてしまったことに…」

「では…なまえが好きなのは…俺なのだな?」

そう言って顔を赤らめたはじめ君が可愛くて力いっぱい頷くと"では、容赦はしない"と胸に顔を埋めてきたはじめ君に幸せで一杯になった。

なったけど……

はじめ君の容赦しないは、本当に容赦ないから私の身が持たない。


「は、はじめ君!容赦しないのは、明日起き上がれなくなっちゃうからっ!…っあ」

「明日は休み故、心配要らない。なまえが起き上がれなくなったら、喜んで世話は俺がする」

「…あっ!…も、もう!」




重くないならない様にいい女を演じるのは今日でおしまいにすることにした。

我慢して勘違いされるたびに手加減なしのはじめ君に抱かれては身が持ちません。




翌日、酔が醒めた私は総司に吐いた暴言を思い出し青くなったのは言うまでもない。



−fin−


(あとがき)

はじめ君どうだったでしょうか。


微裏に知らぬ間にいってしまわれましたはじめ君でした。
彼がね、どうしてもというので…(はじめ君に責任転嫁するとは。張っ倒してください)

因みに、本編では書かなかったのですが、はじめ君と夢主ちゃんを心配した総司が酔った夢主ちゃんをはじめ君の家へと送り届ける強硬手段に出たわけです。

その時に、「しっかり繋ぎ止めとかないと、貰っちゃうよ?」と爆弾を投下して帰るのですね〜。
だからはじめ君余裕がなくなり、自分のものだと抱こうとしてしまったというわけです。

いつも冷静な彼ですが愛する人にはかっこ悪く縋ったりして欲しいなと思い出来たお話です。



最後は、平助→








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