モテる彼氏にはつきもの?(原田/現パロ)

▼ホワイトデー


モテる彼氏にはつきもの?(原田/現パロ)

とうとう恐れていたこの状況に青ざめた顔の私。

「ねぇ、どうなんですか?黙ってないでなんとか言ってください」


目前に立っている三人の女子。

会社の二階の広いテラスの隅で、終業後に身を縮こませる私。

彼女達の後ろには茜色に染まった空が、広がっていて綺麗だ。


綺麗だけど…


夕日が綺麗だと黄昏られない今の状況に、困ったと頭を捻った。


なんとなくしか見たことのない、言葉も勿論交わしたことも無い人たちに睨まれているこの状況。

なぜ素直に来てしまったのかと後悔しても遅い。
誰かに助けを…と思っても、退社後のこの時間は残業以外は、皆足早に帰路に着くのでこんな場所には居ないだろう。
それに誰か居たとしてなんて言って助けて貰うと言うのだ。


あ〜参った…と視線を宙にさ迷わせた。


「えっと…その」

「だから、その指輪は原田さんからなんですか?」


平穏に暮らしたい私は、女子の嫉妬の矛先にはなりたくないと、どうにかこの場を切り抜けたいと頭を捻っていた。
捻っていた時間が長すぎたのがいけなかったのか、パチンと乾いた音の後に頬に鋭く走る痛み…

あっ、ビンタされたんだと意外にも冷静な頭が告げていた。


「はっきりしなさいよっ」と振り上げられた手にもう一度くるだろう衝撃に身構えて目をぎゅっと瞑る。

何するのよなんて、髪を引っ張り合いながら喧嘩をする修羅場をドラマでなら見たことがあった。
だけど、実際自分がその立場になったら”何するのよ”なんて台詞、頭が真っ白で出てこないし、やり返すなんて事が頭の中からすっぽり抜け落ちてしまう。

停止した思考では手も足も出ずに固まった私は、次に来る衝撃に身構えた筈なのにだ。

なのに、一向に痛くない。

来る筈の痛みが来なくて首を傾げると代わりに息を呑む音がした。

ゆっくり瞼を上げると目の前にある、私を叩こうとした手を大きなゴツイ手が受け止めているのが目に入った。

「暴力はよくねぇなぁ」と開けた視界に入った左之が口にした言葉で顔を顰めた目の前の女の子。

「そうだ、あの指輪は俺がやったんだ。それと、打たないでやってくれよ?結婚するのに顔を腫らした花嫁なんて可哀想だろ?」

「えっ!」と口々に驚いている女の子達に、"俺なんかより女のお前達のが良く分かるよな?なまえを宜しく頼んだぜ?"と笑った左之。

だけど目は笑ってなくて、"ひぃっ"と小さくひきつった三人は、「お、おめでとうございます!」とお辞儀をすると慌てて硝子戸を開け社内へと消えていった。

その三人の背中を呆けて見つめていた私は、ハッと我に返り斜め前にいる左之を見た。

左之もドアの方に視線を向けていて、息を呑むほどの冷酷な眼差しが私に向けられたものじゃ無いのに背筋が寒くなった。

「ねぇ…左之」

おずおずと呼び掛けると苦しそうに歪めた顔で見つめられた。

「大丈夫か?赤くなっちまてる…」

「ん、うん大丈夫だよ。それより、左之直帰だったでしょ?」

あー…と歯切れの悪い返事。

「昼休みに、おまえが数人の女に囲まれてたって連絡が来たんだよ。だから心配になって迎えに来た」

"遅くなっちまってごめんな"そう言って距離を縮めると頬を大きくて温かい手で包んでくれた。
はっきり左之と付き合ってるといえば打たれずに済んだかもしれないのに…
何かと面倒だからと付き合いを内緒にしてきたツケだ。
左之がそんな顔しなくても良いのに。

それに、左之に言わないであの場で助けてくれたら良かったのに…

わざわざ左之を出したら楽しそうだと考えそうな人物がきっと目撃者だろう。
明日の第一声は、"どうだった?"なんて口を弧にして聞いてくるだろうな…と苦笑いが漏れそうになった。


「本当に大丈夫だから。私のはっきりしない態度が怒らせちゃったんだよ。だから、左之がそんな顔しないで?」

「…次呼び出されたら、俺に言えよ?はっきり婚約者だ、って言ってやるから」

「うん、…ん?」

そう、今度からはっきり…

「こ、こ、こ、婚約者ぁぁぁ?!」

「でけぇ声だな」とくつくつ笑ってるけどそこではないでしょぉ!

「い、いつ私たち婚約者になったよ」

「前から考えてたぜ。なまえさえ嫌じゃなかったら…なってくれるか?」

「いいの?私で…」

急すぎて頭が真っ白になった私は、感動的に涙を流して、はい!
みたいな可愛いものじゃなくて…
目をこれでもかっ!!と見開いてるから、凄い間抜け面だろう。

「おまえじゃなきゃ欲しくねぇな」

色っぽい視線に、顔が赤らむのが分かって俯いた。
だって、欲しいとか…結婚の意味合い以外も入っているであろうことは、目の前の左之の艶かしい視線が物語っていて。

こんなことを考えていた私は、左手を引き寄せられたかと思ったらすっぽり左之の逞しい腕中におさまってしまった。
慌てた私は軽く胸を押したけど離してくれる気など無いのか込められる腕の力。


「さ、左之っ!会社だよっ!」

「ん…ここちょうど、死角だから大丈夫だ」

なんで死角だと知ってるんだ…と訝しく思うけど…
死角だから、ここに呼び出されたのかなんて冷静に考えている自分もいたりする。

「死角でも、会社は会社!」

かてぇな〜なんて言いながら離れてくれた左之。

「じゃあ、今から買いに行くか、指輪」

「えっ!今から?」

「今日はホワイトデーだろ?本当は、買って驚かせようとしたんだけどよ、予定外に会社に来なきゃいけなくなっちまったからな」

私のせいだと"ごめんなさい"と口にすると、優しく微笑んで頭を撫でてくれた。

「これからは、なんでも俺に言えよ?夫婦になんだからよ」

手を引かれて一歩を出した私に振り返って微笑した彼に、頷いた私は幸せを噛み締めたのだった。


−fin−


(あとがき)

左之さん、暴走しなくてすんなり書けましたっ!
会社ですからね、ヤれませんしね…ってあとがきで何を言っているのかっ!
すみません、張り倒してくださいっ!

そして女の子に囲まれた、夢主ちゃんのことを助けずにチクった人物わかりましたか?
はい、Sから始まる、ドSな彼ですよね!
彼はかっこよく助けるより、こっそりこの状況を楽しむタイプだろうと助ける場面は省いちゃいました。

お次は斎藤さん→




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