殺人級料理(沖田/学パロ)

▼ホワイトデー


殺人級料理(沖田/学パロ)

「総司先輩…此が駄目だったらやめま」


総司先輩の家のキッチンで、レンジのスタートボタンを押した彼に控えめに口を開いた私だったけど…
鋭く睨まれてしまって、途中まで口にしてびくりと肩を跳ね上げて視線をさ迷わせた。

「僕に、意見する気?」

「否…」

私の言葉に笑顔に戻る総司先輩だけど笑顔の奥が笑ってない…

しゅんと肩を落とすと、焦げた臭いが充満したキッチンは粉だらけ…
そしてゴミ箱には、真っ黒の物体と見た目は良いクッキー達…

無駄にして御免なさいと心で呟いて目の前のキッチンの台の上に視線を向けた。

クッキーを作る材料と…その回りに沢山の粉。

ボールやらバターやら卵などの材料も片付けていたけど、また出す羽目になっているから、今回は学習して一応そのまま台に置いてある。

粉については…その都度片付けているけど、どうしたらそんなに飛び散るの?ってぐらいの惨劇にため息が出る。

出そうになるけど…決して吐き出してはいけない。
総司先輩に気づかれたらお仕置きは必須だから。
バレンタインにお仕置きをされてからと言うもの、何かにつけてお仕置きと言う名の激しい事を要求されている。

昼間だしね、具体的には伏せて置くけど。

電子レンジを子供のように覗いている彼は、「今度こそは大丈夫かなぁ」とレンジに向かって独り言。

その中には、オレンジ色の光が光っていてその下をゆっくり回る、丸いもの。

今日はホワイトデーだからとクッキーを作ってくれると言う本来なら嬉しい行為が、彼の手に掛かると危険行為になってしまう。

だから、一緒に作ることを申し出たんだけど…
一回目は焼き時間を間違えて真っ黒。
二回目は砂糖と塩を間違えちゃうし…
私が、電話で席を外したり、トイレに行っていたのがいけなかった。

だから、もう止めようと口にしたら冒頭のように酷く恐ろしい顔で睨まれてしまった。


さすがに三度目の正直だろうと並んでレンジを覗くと、近い距離にどきんと胸が高鳴ってしまう。

料理が殺人兵器級でも、私の為に作ろうと思ってくれるその気持ちが嬉しい…

凄く嬉しい……

…食べなくていいなら。

「今度こそ大丈夫ですよ!ほら、いい匂いしてきましたよ」

「んー」

「楽しみだな、先輩のクッキー」

レンジから視線を外さずにいる先輩が可愛くて、本当に楽しみになってきた私は頬が緩む。
今度は、私が初めから最後までベッタリ見張って…否、傍で見守っていたから大丈夫だろう。

さすがに、目分量で粉をボールに入れようとした先輩に制止は掛けたが。

これを目分量にするってことは、砂糖とかバターとかもきっと目分量だろうクッキーのお味を想像して身震いした。

二回とも私が計って、混ぜたのは総司先輩で…
だけど二回目だけは、トイレに行っていたから、砂糖は総司先輩が計ってしまったんだけど。
だから、塩入りクッキーになってしまったんだ。

”塩入りクッキー”なんて文字にしたら美味しそうだけどね、砂糖など勿論入っていないからしょっぱいだけだし、その塩辛さが半端無い。


目分量だからって…あの辛さは尋常では無かった。


それで最後にするからと、初めから一人で遣り出した三回目。


「んー、失敗しても僕はなまえを食べるからいいけど」

「ひゃぁっ!」

そう言って、シュシュで結わいている所為で出ている耳をカプリと噛んだ。
耳を押さえて、総司先輩を睨むと「なに?感じちゃった?厭らしい子だなぁ」なんて言うもんだから、熱を持つのが頬だけじゃなく身体まで熱くなってきてしまう。

「もう、そんな可愛い顔したって全然怖くないよ」

「もう、からかわないでください」

「からかってないよ、本当に可愛い」

大好きな人に可愛いなんて言われて嬉しいけど…
直球すぎる言葉にドキドキと鳴る胸の鼓動が早すぎて、気づかれないように交わっている視線を反らそうとすると、素早く近づく先輩の顔…

チュッと唇に触れた柔らかな感触に目を瞬かせた。

「あぁ、これだけじゃ物足りなくなっちゃう」

「せっ、せんぱいっ!」

焦る私の背に手を回して背中を、ツツツっとなぞるその動きに身体がびくびくしてしまう。

ダメ…このままじゃ…

焦る私とは反対に余裕そうな総司先輩…
その手が胸元に移動するのと同時に鳴ったレンジのピーピーピーと出来上がり音に一瞬緩んだ先輩の手から少し距離をとった。

「ほ、ほら先輩出来ましたよっ」

「クッキーより、なまえを食べたい…駄目?」

駄目?じゃないですよっ、なんですかその可愛く小首を傾げる仕草はっ!

「駄目と言うか…余熱で固くなっちゃいますよっ!焼き加減見ましょう!ねっ?」

負けずに小首を傾げて見上げると、頬をほんのり染めた総司先輩は"その顔反則"と呟いて私の頬に軽く唇を触れた。

あぁ、総司先輩の方が反則。
然り気無くくっついてきたり、こうしてキスをしてきたり…
その一挙一動に翻弄されてしまう。

「ほら、何ボーッとしてるの?そこの鍋つかみとって」

「あ、はっはい」

赤く染まった頬で総司先輩を見ていた私は慌てて指を指した先にあるミトンを手渡した。

先輩は独り暮らしで、食生活も荒んだものだったからバイトがない日は、時間が空けばご飯を作りに来たりしていた。
そのお陰で今では、ちゃんとキッチンらしいキッチン用具や食器が揃い何不自由なくご飯を作れる。

「見た目は、いいねぇ。」

「そうですねぇ、見た目は美味しそうですねっ!」

キッチンの台の上に、取り出したレンジ台を置いて嬉しそうな総司先輩に、つい本音が出てしまい様子を伺いみると口を弧にして私を見た。

この顔…何かを思い付いた時にする楽しそうな顔…ですよね…せ、ん、ぱ、いっ。

何を思い付いたのかとゾクリと身体を震わす横で、焼きたての湯気のでるクッキーを一つ掴むと、フゥフゥと息を吹き掛けだした。

「美味しいかどうか味見してもらわなきゃね。ほら、あーん」

「え…えっと…。あ、あーん」

「感想聞かせてね?」

あーんとか、照れてしまうけど此処で拒めばお仕置きが…
と遠慮がちに口を開ければ私の顔の前に出した総司先輩の手にあったクッキーは、彼の手によって彼の口の中へと消えていった。

あーんと私の口の中に入る筈のものが、彼の口に吸い込まれるように消えて呆けていると、後頭部を大きな手で包まれて引き寄せられた。


「…っ!…んっ、、っ」


彼の突飛な行動に、抵抗する間などなく重なった唇。
呆けて少し開いていた隙間から、舌をねじ込まれ、甘いクッキーが舌先で送り込まれてきた。

ほんのり口の中に広がる甘さに、肉厚な彼の舌…
もう、クッキーの味なんか味わっていられない状況に総司先輩の胸に手を当てた。
それに、気を良くしたのかどんどん激しくなって行く口付けになんとか応えていくと、暫くしてやっと離して貰えて息を大きく吸い込んだ。

私は、肩で息をしているのに、先輩は余裕そうに唇に着いたクッキーをペロっと舐めた。

「なに?物欲しそうな顔して。もっと欲しいの?」

クッキーを手に持ち、ニヤリと口角を上げた彼に、首を目一杯横に降った。
艶かしく微笑した総司先輩に次キスしたら、それだけでは離して貰えないと思った私は彼から一歩退く。


「そっ、総司先輩っ、焼きたて食べましょ?紅茶いれるので」

「うん。で、味はどうだった?感想聞かせてねって言ったよね?」

彼のお望み通りな返答を返さなかったら…
きっとお仕置きだろうことは、彼のこの笑顔が物語っていて…

「えっえっと…美味しかったです」

「僕はキスの味を聞いたの。美味しかったなんてなまえはエッチだね」

"じゃあご褒美に…"と又しても、クッキーを口に含んだ総司先輩との甘いキス……

お仕置きじゃなくて、ご褒美って言われたことが嬉しいなんて相当彼色に染められてしまった私。



勿論、この後総司先輩が食べたのはクッキーではなく私でした。



−fin−  

(あとがき)

途中、二、三度暴走する総司を引っ張り戻すのに大変でしたっ!

放置したら確実にクッキープレーに走りますからね、彼。

裏なしで、蜜度高め(つもり)に書いてみましたが萌えて頂けたら嬉しいですっ♪
 

お次は、新八さん→



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