太陽のような笑顔(藤堂/学パロ)

▼バレンタイン


太陽のような笑顔(藤堂/学パロ)

『平助に会えない…』

放課後、ポツリと幼馴染みの名前を呟いた私の落胆は酷い物だろう…

ホームルームも終わり超ダッシュで平助のクラスの前まで来た筈が、既に居なかった。
クラスメイトの男の子に聞いたら、もう部活に行ってしまったようだ。
何時も、ダラダラ下らないことを話ながら帰り仕度をするから部活に行くのだってギリギリの癖に。

隣のクラスのドアの前で不貞腐れた様に両頬を膨らました私は、避けられてるのはチョコレートが欲しくないからなんだと剥れっ面を晒して、自分の教室に戻った。


部活が終わるまで待とうとも思ったけど、折角待っていてまた避けられても堪える。
だから、家に帰って帰りを待つことにした私は、メールを送ることにした。

”今日なんの日か知ってるでしょ?帰ったらうちに来て?来なかったらもう口きいてあげないからっ!”

ここまで言えば平助の事だ、慌てて来るだろう。
そう余裕ぶっていた私だったけど…



ベッドに寝転がって何度目か分からない寝返りを打った私の、顔はだんだん雲って、先程の余裕なんてもう微塵もなくなっていた。

もうすぐ19時になる壁に掛けてある時計を睨んだ。

『おそいっ!幾らなんでも、おそいっ!』

もう、部活も帰ってきている時間の筈なのに一向に姿を現さない幼馴染みに悲しい気持ちから、腹を立てていた。
腹を立てないと悲しくて泣いてしまいそうだから。

『私を待たすなんて……生意気なんだ…。平助の癖に』

苛つく私は、刺々しく口に出した言葉にため息を吐いた。


本当、生意気なんだもん……


小学校までは、私の方が遥かにおっきかった背も中学に入り同じぐらいになって、いつの間にか…
私より10センチも大きくなってしまった。
気づかなかったその身長差に、気づいた時の胸の高鳴りは今でもはっきり覚えている。

何時も一緒に居るのが当たり前だった幼馴染みが、高校に入っても入った部活は剣道部で学園のマドンナの雪村千鶴ちゃんと楽しそうに話す姿を見て…
高一になってもお転婆な私に、千鶴を見習えよと言う言葉を聞いて…
どんだけ傷ついたか。

当たり前だった幼馴染みを、いつの間にか男の子として見ていたんだ。

でも…
毎年当たり前のように渡していたチョコを避けるように貰ってくれないのは、千鶴ちゃんが好きだから?

今年は何時もの、毎年あげているからあげようと思うような義務的なものから、初めて意味のあるチョコを渡そうと頑張ったのに…
机の上に置かれたチョコの箱に視線を向けると、自然と溜め息が出た。

そして、携帯を手にとると、メールを打ち出した。

”もう、来なくていいから。あと、明日からは、先に行くから”

何時も遅い平助に合わせて一緒に行っていたけど、もう明日からは待たない。
千鶴ちゃんが好きなら、そんな平助の横に居たら辛いだけだからと携帯を枕に投げるとベッドでうつ伏せにしていた顔を枕に埋めた。

さよなら出来るかな…私の気持ちと。
まだなにも伝えてないけど、今の関係が崩れるぐらいなら、さよならするしかないんだ。
そう決意をしていた私に、けたたましく階段を駆けあがる音がする。

ママもパパもまだ仕事だし……

なっ、なに?何事?!

枕を抱えてベッドに座る形で身構えた私はドアを蹴破りそうな勢いで開けた、人物に目を見開いた。



『へっ?平助?!』

「おまっ…明日から一人で行くとか…なんで…だよっ!?」

息を切らした平助は、肩で息をして所々詰まりながら捲し立てるように言葉を吐き出すと、ベッドの横へとどかっと座った。

『それよりなんで入ってくんのよ』

「鍵あいてたんだよ、危ねぇからちゃんと閉めとけよ。それより俺の質問に答えろよ」

『そのままの意味だよ。』

「そのままじゃ分からねぇ。なんで急に。」

『バカ平助!あんた千鶴ちゃんが好きなんでしょ!私となんか居ないで千鶴ちゃんと居なよ!』

あっー、もう嫉妬もいいとこ。
これじゃ八つ当たりだ。
ガバッと布団を被った私に押し黙った平助。
私の部屋の中はしんと静まり返って居たたまれなくなる。

布擦れの音がして平助が立った気配がした。

きっと呆れたんだ。
沈む気持ちで枕に押し付けた顔をもっと力強く押し付けた。
さっきから変な形の枕に顔を押し付けているからジッパーか当たって痛いけど…
泣きそうな今は此の痛さが丁度いい。
胸の痛さを頬にあたるこの痛さで紛れさせられるから。

「これ、俺にだよな」

布団を頭まですっぽり被っているから分からないけど多分、机の上のチョコの存在に気づいたんだ。
私を避けるぐらい欲しくないなら気づかないフリをして欲しかった。

『いらないなら、あげない』

「誰がいらねぇなんか言ったよ」

ずかずか私のそばまで来た気配の後に、布団を剥がされて一気に口を尖らせて不貞腐れた平助と目があった。

『朝練だとかいってその後も、避けてたくせに。』

「…」

『千鶴ちゃんに見られたくなかったんでしょ。私に渡されるとこ』

睨んだ私に目を見開いた平助。

「だから、なんで千鶴なんだよ。其処から離れろよ、一回」

『嫌だよ。好きなら千鶴ちゃんに貰えば?好きでもない私のチョコなんて要らないでしょ。返して!』

がばっと起きて、ベッドの横でチョコの包みを見つめていた平助の傍で立ち上がると其を奪い返そうと手を伸ばした。

「やだよ、俺のだ」

『食べれれば、誰のでもいいっての?食いしん坊っ!』

「ち、ちげーよ!って…おい!」

無理矢理奪い返そうとする私の手を避けるべくチョコの包みを頭上高く上げてしまう。
ピョンピョン跳ねて奪い返そうと必死な私。

「おい、危ないってっ!」

『あっ!』

バランスを崩した私を抱き止めてくれる形で抱き締めた平助。
幼い頃、普通に触れていた身体はいつの間にか触れることもなくなっていて、記憶の奥底にある平助のものとは遥かに違う筋肉質な身体に心臓が爆発するんじゃないかと思った。

『ご、ごめん!』

慌てて離れようとした私は、背中に回された力強い手に離れる事は叶わなかった。

『……平助?』

「俺が欲しいのは、なまえのだけだ」

『えっ、だって千鶴ちゃん…』

「何を勘違いしてるか知らねえけど、俺が好きなのは…なまえだ」

力強く、平助の胸を押すと背中に回された手の力が少し緩んでたようで、少し出来たお互いの隙間に平助の顔を見る事が出来た。
真っ赤な顔は…嘘をついているとは思えない……
本当真っ赤かで笑える。
でも、私もきっと真っ赤だろう。顔中が熱いから。

『平助、私も…大好き!それ、本命だからね』

「まじで?」と目を瞬かせたと思ったら、満面の太陽のような笑顔を向けて、にぃっと笑った。
そう、このポカポカする笑顔が大好きなんだ。
私も自然と目尻が緩み笑顔になる。

『あっ、でも平助。なんで朝から避けてたの?』

「あっ…。あー…。なまえが本命あげてるとこなんて見たら、生きてけねぇもん。俺てっきり総司が好きなのかと思ってたから」

歯切れが悪い平助に目を瞬かせた。
確かに、沖田先輩には付き纏われているけど。
それは面白い反応をするからとかで。

『ふふ、お互い勘違いしてたね』

そう言って、平助の頬にチュッと唇をくっつけると真っ赤にして口をパクパクさせた。

『小さい頃は、沢山したでしょ?』

小首を傾げると、"それは、反則だーっっ!"と踞り、頭を抱えた平助の手にはチョコの包み。

幼馴染みの関係は今日でおしまいだね、平助。






−fin−


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