▼太陽な人



今日のなまえちゃんは何時も以上にハイテンションだ。
茶屋での休憩も済ませ今は下山しているがやはり何時もよりペースが速いのが気になるんだよな。
でも、彼女の楽しそうな笑顔を見てしまうと'まぁいっか'とおもっちまうんだ。
それにさっきは、抹茶の入った茶碗を差し出されて間接キスだなんて考えちまったら心拍数上がっちまっていい年してガキみたいだ。

登山仲間の一人のなまえちゃんに想いを寄せる俺だがどうも恋愛対象に見られていない…と思う。
女心の分かる左之に相談しても兄貴としてしか見られてねぇって言われちまうし。
確かに、良くなついてくれているとは思うがさっきの間接キスといい、恥ずかしいこともさらっとするところを見ると男として見られてねぇな…
恋愛の事となるとどうしていいのか全く分からなくなるんだよ。
女心なんかちっとも分からねぇ。
どうしたら良いのかも分からない俺は今の仲間と言う位置感から抜け出せずにいた。
今日だって、なまえちゃんからの誘いで二人で出掛けられたのだった。
男の癖に情けないと眉尻を下げた。
あー、これじゃ兄貴止まりで終わりだ。


『新八さん、綺麗ですね?』

振り返ったみょうじちゃんと俺は互いに顔を見合わせ固まった。
考え事をしていた事で思いの外近くに立って居た様だ。
距離が近すぎて焦る。
上目使いのみょうじちゃんの可愛さに抱き締めたくなっちまうじゃねぇか…

『さ、さあ!早くしないと日が沈んじゃいますよ』

踵を返そうとするが小石に躓いてよろけたなまえちゃんの手首と腰に手を回し引き寄せると抱き締める形になっちまった。
小さな身体が俺の腕の中にすっぽり収まり思いの外小さな身体に愛しさが込み上げた。

「だ、大丈夫か? 」

『…はい』

俯いたなまえちゃんの顔を見ることは出来なかった。
ああ、此のまま抱き締めててえなぁと抱き締めたままの俺に"あの…もう大丈夫です。"と控えめな声が聞こえてきた。

「お、おう。気を付けろよ!」

『はい。ありがとうございます』

その後、なんとなく気まづいような空気の中…
そんな状況でも眠気が襲ってきた俺は必死に眠気と戦い下山した。
昨日仕事でトラブルがあり一睡もしてない事と、さっきからのハイペースが堪えたと体力だけは自信がある俺だったがさすがにこの年でオールはキツいようだ。


………



駐車場まで来た時には、空が茜色に染まっていてそれがまた紅葉に映えて綺麗だった。

(新八さんさっきから、こっちを見てくれないけど…何か気にさわることでもしちゃったのかな……)

下山する途中までは和やかな雰囲気だったのに…と肩を落とす私。
考えてもみたら転びそうになったのを助けて貰った後からだ。
新八さんが上の空になったのは。
幾ら話しかけても"ああ"だとか"そうだな"とか合図ち程度しか反応がない。
嫌われてしまったのかと泣きたくなるのを我慢し、助手席に乗り込んだ。

車が走りだし、無言の新八さんに怖くてなかなか見れなかった顔を伺い見ると目が真っ赤だしなんだか眠そうだ。

『新八さん…眠いですか?』

「ん?…ああ。昨日トラブルで寝てねぇんだ」

『え?寝てないの?だったら、断ってくれて良かったのに…』

「…お、おれが断りたくなかったんだ…。なまえちゃんと二人で登れるのすげぇ楽しみにしてたからよ」

自分と同じように二人で登ることを楽しみにしていてくれた新八さんに嬉しくて胸が一杯になってしまう。

『新八さん、眠いと危ないし何処かで仮眠しませんか?確かこの近くに小さな公園の駐車場があったはずです』

「でも、いいのか?帰るの遅くなっちまうぞ?」

『いいんです。このままじゃ危ないし………それに新八さんと一緒に居れるなら嬉しいです』

「それって…」

『あっ!新八さん、入り口そこみたいですよ!』

「あ、ああ」

慌てて駐車場に入ると一番奥に止めた。
夕方だからか、停まっている車も数台だ。

『新八さん、私の事は気にせず寝ちゃってくださいね』

「お、おう。」

満面の笑みを向けると、顔が少し赤くなったような気がする新八さんは顔を逸らしシートを目一杯倒し横になる。
携帯を弄じるフリをして視線を携帯へとむけた私に"悪いな"と聞こえてきた。
座席に視線を向けると腕を組み横になる新八さんは目を閉じてすでに寝息を立てていた……

早っ!とくすりと笑うと其の寝顔を何時までも見つめていた。



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