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雪下のメモ帳 - update : 2019.05.05
サイトとは別に詳細設定や謎時間軸の話なんかをのせるところ


烏丸京介と伏見柊※5/9ネタ&付き合ってる

イベント事はなにかと物が貰えるんで助かってます、とふざけて先輩に言ったことはあるが、彼女の前で見られるのはいい気がしない。友人やクラスメイトから貰ったプレゼントを見ただけで自分の分は無くても良いかという謎の結論に至らせる可能性のある奴だからだ。割とそこら辺の付き合いは下手なんだなと分かる。最初は汲み取ることを拒否していた位だから分からないこともないが、何でこいつそんなことを今言うんだ?と言いたくなる節は既に何回かあった。

「貰い物はどうした?」
「少しずつ持って帰ることにした」

あの量なら何とか一気に持って帰れるだろ?と不思議に思いながら鞄を持つ伏見は俺の意図が分かっていないらしく、そのまま教室を出る。

「伏見」
「何だ」
「…初めて渡されたのはギフトカードだったな」
「だからどうしてそんなに根に持ってるんだ?」

あの時はまだ付き合って無かったから俺が不満げに思った理由も伏見には皆目検討がつかないだろう。出来ることならお前も好きな相手から金券をはい、と軽々渡されたときの気持ちを味わってほしい。一瞬はそう考えてしまうがそんなことが訪れないようにはしたい。少なくとも俺は彼女へのプレゼントを金券で済ませようとはしない。

「何処か出掛けるか?」
「制服の状態で?」
「一々帰ってたら時間がない」

それなら、家族が夕食を作ってくれているだろうしそれまでには返さないとな、と言うのは本当に俺の彼女なのだろうか。そこを最初に考えるのか?
そもそも俺は今の時点でこいつから言葉は貰ってもプレゼントは貰っていない。律儀な奴だから後から貰えるだろうという厚かましい期待をしながら話しているのだがそれも気づかれていないらしい。

「こういう時にあんたがよくプレゼントを貰っているのを見るから、荷物にならないように今度支部に来る時に渡そうとは思っていたんだが」
「ギフトカードなら今渡せるだろ。財布にも入る」
「その話意地でも使う気なんだな…」

それともそっちの方が良かったか?と聞いてくるのは嫌味ではなく普通に考えている様子だった。やめてくれ。

「結局あの時は相談にも付き合っただろう」
「俺が呼び出したからな」
「誕生日に仕事の話を持ちかけてくる奴なのかと」
「お前が食い付くのそこぐらいだろ」
「仕事人間だと思われていたのか?」

それ以外にお前を何と表現するんだ、という目線を送っているとあんたの方が仕事人間に見える、といった言葉が返ってきたので話を強制的に終わらせた。どうやら俺には人のことを言える資格が無かったようだ。

「で、何処に行く」
「適当に」
「行き先は決めてないのか」
「先にこう言えばお前は一人でさっさと帰らないだろ」
「そうだな?」

こいつ、付き合う前に比べて鈍感になった気がする。



「プレゼントは支部に置いてあるんだよな?」
「え?ああ、そうだな」

結局何処に行くか考えるのも面倒になって(どうせなら午前中授業の日に出掛けたい)、一緒に支部に取りに行くことにした。二度手間になるなら持ってこれば良かったと呟く伏見に対して俺は感謝した。人の後悔を喜ぶ男。

「部屋にあるから待ってくれ」
「部屋にあるのか」
「ついてくるつもりなのか?まあ別に構わないが」

構わないのか。とツッコんでしまいそうになったが、支部の一室という伏見本人の感覚がうつったのか、俺も何回か出入りしているので彼女の部屋、と意識したことがあまり無い。最近は部屋を飾る様になったとはいえ、女子の部屋と呼べるには程遠い。
机にある袋を俺に手渡すと要件が終わったとでも言うかのように部屋を出ていこうとするので手首を掴んだ。さて、帰らないのか?と不思議そうな顔をする彼女をどう引き留めるか。

「…ここで開けても?」
「…どうぞ?」

掴んだ手を離してから一度ベッドの上に座り袋を開けてみると中には紺色のカーディガンが入っていた。取り出して広げれば薄くて肌触りが良い。夏用のものか。消耗品を渡されると思っていた俺は伏見の方を見たが、彼女は気恥ずかしいのか目をそらした。

「あんた、こういうのは持ってないだろうから」
「確かに普通の冬の分しか持ってないな」
「朝晩とか少し羽織る分に丁度良いと思って」
「ありがとう」
「…好みが分からないからシンプルなものにした」
「お前が俺用に選ぶんだから、俺に似合わないことはないだろ」
「いや、まあ、そういって貰えるのは良いんだが」

褒める度に言葉に詰まる様子を見ながらほくそ笑んでいると伏見は趣味が悪いと言って距離を取ろうとする、が俺が再び腕を掴んだので彼女は仕方なさげにこちらを見てから壁掛け時計を一瞥した。まだ部屋に入ったばかりなのに時間を気にしてくるのはあまり嬉しくない。とはいえゆっくり移動していたのもあって長居する時間が然程無いのも確かだ。

「まだ何か欲しいものでも?」
「貰えるものは全部貰っておく」
「強欲か」
「それならプレゼントはわ・た・し位言ってくれてもいいんじゃないか?」
「言ったら動揺する癖に」

からかい半分のそれを冷ややかな視線と共に拒否した伏見に対してよく分かってきたなと返す。すると伏見は腕を組んで考え始めた。嫌な予感がするが話を続けさせる。

「ほら、こっち向け」
「きゃーイケメンに襲われるー」
「茶化しているつもりなのは分かるが、あんたが私をイケメン扱いするのは無くないか?」
「…」

伏見が少しだけ拗ねた声色で呟くので俺は思わず寝転がった。時間が許せるなら彼女のスカーフを解いていた。いや流石に嘘ついた。心の準備ができてない。そんな無茶苦茶な俺の心中とは裏腹に寝るなよ?と問いかけてくる彼女の声を無視して顔を覆えば肩をゆさゆさと揺すってくる。そうじゃない。

「今のは可愛かった」
「あんたのツボがよく分からない」
「分からなくていい」

悪用されても困る。可愛さの悪用ってなんだ。それを世間はあざといと呼ぶ。なるほどな?
抑揚の無いやり取りを続けることでいつもと変わらない雰囲気を装っている間にも顔にあてた両手を剥がしてくるので謎の攻防を繰り返す。すると単純な力量差では無理だと諦めたのか、隣で広げたままのカーディガンを適当に畳んでラッピング袋の中にしまい、俺の鞄の中に適当に入れながら再び帰るぞコールをし始めた。俺なら丁寧に畳んで入れた。渋々立ちあがり鞄を手に取るともう片方の手を伏見の肩に置く。ほらこっち向いたぞ。

「伏見」
「、…まだあげるとは言っていなかった」
「奪えるものは奪っとく」
「さっきの発言より悪化してるな」

そう言って再びキスするときのお前のその表情が扇情的だと言ったらどう反応するだろうか。終わった後のふ、と笑う挑発的に取れる仕草も嫌いじゃなくて俺も口角を上げた。そして肩に置いていた手を彼女の頬に添えよう…としたが伏見はパッと離れて部屋の外に出そうとする。

「もういいだろう」
「ムードもへったくれもないな」
「はいはい雰囲気ぶち壊して悪かったな。こんなところに屯ってないでさっさと家族に祝われてこい」

祝われる内は祝われておけ、と俺の背中を押す彼女に従って仕方なく部屋から出た。そうだな、家族に祝われるのも今の内だ。俺とお前が想像している理由は恐らく違うだろうが、確かにそうだと思ったので大人しく祝われに行くことにする。

「烏丸。改めて言うが、誕生日おめでとう」
「ああ。また明日」
「また明日」

片手を上げると伏見もつられて片手をあげた。以前のままだったら俺を見届けずにさっさとドアを閉めただろうな、と予想できる位にあっさりしていたのに、今は随分らしいことをしてくれるようになったなと思う。嬉しい誤算だ。柔らかい表情でこちらを見る彼女はいつもの大人びた様子とは違って年相応に見えた。



5/9 Happy Birthday

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