snoitoved

雪下のメモ帳 - update : 2019.05.05
サイトとは別に詳細設定や謎時間軸の話なんかをのせるところ


二宮隊と伏見柊

「三雲隊って所、隊長だけぱっとしないよな」

そのようなC級隊員達の談話が伏見の耳に入った。彼等は彼女に気づくとしまった、という表情をしたが、本人は何の反応も起こさず横を通り過ぎる。彼女が廊下を曲がった後、胸を撫で下ろした一人が話題を転換させた。

「あの伏見って人、お高く止まってるように見えて嫌なんだよな」



「やっほ」

伏見が曲がった方向の先に居たのは洋菓子店のロゴが入った袋を片手に持つ犬飼だった。彼は伏見の腕を掴むと強引に隊室へ案内する。中には既に二宮隊の3人が座っていたが、犬飼は伏見を氷見の隣に座らせ、自身は辻の隣に座った。

「全部違う種類買ってきたけど柊ちゃんは何がいい?」
「突然言われましても」
「連絡したけど見てないでしょ」

そう言われた伏見はスマホを起動させSNSを開くと確かに彼からの連絡があった。彼女はすみません、と謝った後、用事は出来るだけ電話で伝えて欲しいという旨を同時に話した。

「伏見さんは普段スマホとか触らない方なの?」
「基本的に電話とスケジュール確認以外の用途では使ってないです」

氷見がそうなのね、と言いながらフルーツタルトを自身のプレートに置く。それを皮切りに犬飼と辻は各々の好きなスイーツを選び始めるが、取ろうとしない様子の伏見をみて、氷見はイチゴのケーキを伏見のプレートの上に置いてあげた。直ぐに帰れそうにないと諦めた彼女は礼をしてフォークを手に取った。


それから小一時間後、伏見は元々の用事である資料を届けに隊室から出た。犬飼は洋菓子の入っていた箱を眺めている。

「元々あの子は優しいんだよ。ねぇ二宮さん、イチゴのケーキ見てちょっと悩んだでしょ。あの子甘いのあんまり食べないから」
「…」

え、そうだったの?と伏見にケーキを取り分けた氷見が申し訳なさそうにしているのを見た辻がそれならば知っている犬飼がその時に言えば良かったのでは、と答える。伏見が使っていた白いプレートの上には少しだけクリームがついたフィルムとフォークがあるだけだ。

「生きづらい性格してるよね」
みんな、詰め込もうとするんだ



「柊ちゃんって誹謗中傷されるのに馴れちゃってるんだよ」

あのね辻ちゃん、となんの脈絡も無く話し始める犬飼に対して反応が遅れる。昨日犬飼がC級隊員達の話を盗み聞きしていたことを辻は知らないし、そもそも伏見に関する情報をこれといって持ち合わせていなかった。適当にそうですか、と返事をするがそれでも構わないらしく話を続ける。

「感覚が麻痺すると人間ああなるんだなって」
「感覚?」
「あの子はイヤなことに一々心を削る時間が惜しくなってる」

伏見は何か悪口でも言われてるんですか。辻は直球に犬飼に質問した。模擬戦でなら顔を会わせることができる自分よりも年下の女性隊員が、嫌われるような言動を起こすとも考えにくかったからだ。彼女が大人びていて無意識に近づきがたい雰囲気を漂わせているのは否めないが、話してみれば普通の女の子である。彼はそう思っていた。犬飼は辻の表情を見ると少しだけ目を細めた。

「柊ちゃんはもうあのスタンスで行くのかな。辻ちゃんはどう思う?」
「スタンスとは」
「無痛症のフリ」
「…無痛症」

まだ辻ちゃんにははやかったね、と話をぶつ切りにしてゴミ箱に捨てた犬飼はにこりと笑ってから隊室に戻った。辻はそれをぼんやりと眺めてから自分も同じように隊室へ向かった。次彼女と会ったときに、どのように顔をあわせればいいのか分からなくなってしまった。犬飼の言う“無痛症のフリ”をしてこちらを見るのだろうか。

back
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -