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雪下のメモ帳 - update : 2019.05.05
サイトとは別に詳細設定や謎時間軸の話なんかをのせるところ


伏見柊と烏丸京介 2/14 ※大学生

※未来捏造、非公式CP要素(駿双)あり

「あの、伏見先輩」
「黒江か。どうした?」

報告書を提出するために本部を歩いていると、懐かしい濃紺のセーラー服をはためかせた黒江が可愛くラッピングされた箱を私に差し出した。どうぞ、と言う彼女に思わず笑みを溢しながらありがとう、と箱を手に取る。全日で任務が入っていると誰からも貰わないだろうと思っていたのは良くなかったのかもしれない。

「申し訳ないが、今年は作っていないんだ」
「だと思います」

え?と思わず聞き返すと、黒江は自身の目元を指差した。化粧で隠していたつもりだが、間に合っていなかった様だ。舞台用の濃い化粧をする機会が多かった反動で、どうも普段用の加減が上手くいかない。今度文香に教えてもらうのもいいかもしれないと考えていると、黒江がまたオーバーワークを疑っているらしく、怪しげに此方を見ていた。弁解として、シフトは以前より減らしていると伝えたが、納得していない様だった。事実を疑われても困るのだが。
素直に演奏会前の音合わせと保育所や幼稚園の訪問が多かったことも併せて告げると気をつけてくださいと返ってきた。加古さんが敢えて黒江に言わせているのを分かっているとはいえ、後輩に自己管理がなってないと言われると流石に堪える。繁忙期は任務の数をより抑えるよう気を付けるようにするとして、黒江から貰ったそれを見る。

「緑川には渡したのか?」
「ふ、伏見先輩」

直ぐに頬を染めた彼女を見て口元を左手で隠した。私が笑うと此方を恥ずかしげに睨むので、悪いな、と頭を撫でた。高校生相手に失礼かとも思ったが、邪険にされなかったのでそのまま続けた。数年前の自分と比べては可愛らしい二人だと思った。

「そういう先輩は、どうするんですか」
「都合が合わなかったったんだ」
「他の日は」
「以降なら空いているんじゃないか?」

そう答えると此方を見つめるので、スマホを取り出して彼奴のシフトを開く。画面を見ていたらしい黒江が彼奴が空いてそうな日付を指差したのは良いが、直近かつ休日でもあるので今でも予定があるかどうかは怪しい気がする。それでも連絡をした方がいいと言うので、分かったと伝えれば、黒江は何やら満足気にしていた。


結局あの日の休憩中に連絡をしてみた所、午前中のバイトが終わったら後は空いていると返ってきたので、黒江の言う通りだなと思いながら待ち合わせ場所で珈琲を飲んで待っていた。私自身、何週間か振りの休暇だったため、喫茶店のテラスで飲むのも久しい。自宅用に買っている珈琲豆も挽いて淹れる時間さえ惜しくなり、途中で使わなくなっていたのを思い出す。もう酸化してしまっているだろうから新しく買い直さないといけない。目を閉じてじっと椅子の背に凭れる。
それにしても休日特有の騒がしさを聞いているだけでも案外落ち着くものだ。疎ましいと思っていた時もあったが、文字通り言葉の無い音だけを聞くのも不思議と飽きが来る。子供の声と先生の声ばかり聞いていた数週間だったなと耳を傾けていると急に指か何かで頭をつんと突かれる。突かれた方向を見ると待っていた相手が居た。私服を見ることさえ珍しいと感じる。高校の頃とは違ってもう支部には住んでおらず、そもそも学校も違うため、当然と言えばそうなのだが。

「久しぶり」
「ああ」

何か飲むかと注文場所を指差すと、いらないと言った癖に私の珈琲に手を伸ばした。態々人の物を飲むくらいなら頼めば良いだろうとは思ったが、待たせて悪かったなと言われて気づく。早朝にレッスンがあったからそのまま来ただけだ、という言い訳は通じそうにない。

「何かしたいことでもあるのか」
「特には。何かあった方が良かったか?」
「いや、無いなら無いでいい」

欠伸をしながら周りを見渡す烏丸に労いの言葉をかけてやると、お互いにな、と返ってくる。要望を聞いた所、家でご飯が食べたいと所望したので、それなら買い物をしてから帰ればいいかと手を引くと確かに烏丸の手の方が暖かかった。



帰る前に花屋に寄ってくると言えば、あの道路脇にある店のことかと聞かれたのでそうだと答えた。食材が入った買い物袋を肩にかけ直して行きつけの花屋に入る。花の香りがふんわりと体を包んできた。
以前は切り花を買うことが多かったのだが、家の庭の一部を使ってガーデニングをするようになったので、種や球根も併せて買うようになった。目当てだった花苗を見つけ、状態が一番良さそうなものを選んでレジに持っていく。久しぶりに会った店の人と話をしながら支払いを済ませていると、烏丸が花の方を向いたまま私を呼んだ。

「ミモザはこの時期のものなのか」
「丁度今ぐらいから出回る」

視線の先には馴染みのあるミモザが売られていた。支部にいた頃、私が先輩たちによく贈っていたし、リビングに飾ったこともあったので知っていたのだろう。花屋でバイトしていたから知っているという可能性もないことはないが。
懐かしそうに一束を手に取ったのを見て、ふと、高校の時にバレンタインの返しとして烏丸からハーバリウムを貰ったことがあったのを思い出す。貰ってから一年以上も綺麗なままで保っていたので、改めて良いものを貰えたのだと嬉しくなったのを今でも覚えている。形に残るものは極力飾りたくなかった癖に、あれだけは机に置いていた。

「すみません、これください」
「あんたが花なんて珍しい」
「でもお前、この花好きだっただろ」

そう言い店の人から受け取ったそれを私の手に握らせると、何故かさっさと出ていってしまった。急な態度で驚いていると、店の人がある一角に置かれている商品を私に見せてくれる。私を見て出ていってしまわれたのもそういうことなのでしょうねと笑いながら私が手に持つミモザを微笑ましそうに見るので、羞恥でどうにかなりそうだった。
店を出て追いかければ彼奴も走って逃げていたので無駄に体力が消費した。

「馬鹿!本当に恥ずかしかったんだが!」
「さあ何のことか」

行きつけの店だったが当分あの人には会えそうにない、と烏丸を睨めば、珍しく赤面した顔を背けられた。呼吸を落ち着かせながら、花は大丈夫だったかと確認する。腹が立つので当分は目の付きやすい玄関にでも飾ってやろう。時期が終わったらブリザードフラワーにしてもいい。
そこから十数分程歩き、家が見えてくるようになったので、鞄から鍵を出す。門と家のドアを開けて一気に疲れた、と呟くと、同じ所で買っていたとは思わないだろと言いながら鍵を閉めていた。それはそうなのだが、とヒールブーツを靴箱に戻す。土で汚れないように花苗を玄関口に、ミモザを花用のディスプレイに置き、ダイニングの電気をつけた。

「久しぶりに来た」
「だろうな」

買い溜めした食材を烏丸に片付けてもらっている間、鍋に水と塩を入れ沸かし始める。具材を切りフライパンを取り出して火をつけると、横からオリーブオイルをいれられた。テーブルで待っていてもいいと伝えたが、早く食べたいからなと言いながら缶切りでホール缶を開けていた。
ベーコンとニンニクを強火で炒め、白ワインと鷹の爪、トマトホールを入れてアルコール分と水気を飛ばす。塩やコショウ等で味付けしたそれを木ベラで混ぜていると、サラダを準備している烏丸がワインを飲みたがっていた様に見えたので、料理用とは別の白ワインを出せばラベルを見始めた。イタリアから送られてきたものであるから読めないとは思うが、とパスタを半分に折って沸騰した湯の中に入れていると、ぽつぽつと単語を読めているのが聞こえたので思わず烏丸の方を見た。ん?と此方を見返してきたので、読めるのかどうかを聞けば、勉強中と言われた。言われてみれば以前にイタリア語を二外にしたと聞いたような気もする。

「イタリア語学習の感想は」
「英語に似た単語もあるのは良いが文法が難しい」
「確かに」

英語に比べて時制が複雑なのでその辺りは私も苦労した記憶がある。母国語の人と会話する機会が多かった私が改めて学んだ時でさえそうだったから、大学で初めて学ぶ人にとっては更に大変だろう。尤も、大学の考査範囲にもよるが。
芯が少し残ったままのパスタをザルにあげて、ソースの中に入れてもらう。程よく絡めて皿の上に盛りつける。パセリはいるかと聞くといると言われたので、二つの皿に同じ様にかけた。ランチマットとフォークを取り出し、テーブルの上にセットする。まだ昼なので、ワインは飲み過ぎないようにキッチンでグラスに注いだ。私も彼も割と酒に強く自制もできるが念のためだ。パスタに加えてサラダとバゲットもある昼食も休暇らしく思える。課題に追われていたときは手軽に済ませられるものやメイン一皿だけの食事も続いていた。グラスで乾杯した後に一口だけ飲めば、自然とため息が出た。フォークを手に持ち、パスタを巻き付ける。

「一日オフは久しぶりだったんじゃないのか」
「まあ」
「だから連絡が来るとも思わなかったし、それでいいと思っていた」

一々聞くのならと始めから互いのスケジュールを見せているので、休みが合っているかどうかはどちらも気付ける。連絡する回数は烏丸の方が比較的多いとはいえ、私は今日に限っては連絡しないつもりでさえいた。だからそう思われたのも無理はないし、恐らく、体調を心配されている。電話する前に黒江にすすめられたと言えば、彼奴に弱いよなと生暖かい目で見られる。

「それもあるが、あんただって休みが無かったでしょう」
「伏見よりはあったぞ」

まあ十四日に連絡が来ただけでも良しとするか、と先程の発言とは矛盾する様なことを言ったので、話を切り替えようと茶化したつもりなのだろう。ただ、私だけが何も渡していないことに気づかされて複雑になる。渡し方はアレだったが、烏丸から花を貰ったのは確かだった。
烏丸。ん。欲しいものとかはないか?夜。馬鹿。
そんな会話が続いたのでテーブルの下で足を蹴ってやると、それは流石に冗談だがと返ってくる。明日も早朝にレッスンがあるのだから、冗談であってくれないと困る。

「気にしてるのなら、三月に期待しとく」
「三月か」
「どうした?」
「いや……また遠出したいなと思って」

シフトの関係もあるから三月は無理だろうと思いながら口にしたのだが、今度は烏丸から軽く足を蹴られた。次いでに旅行雑誌でも買えばよかったな、と言いながらワインを飲んでいる。三月の目立った予定を聞かれたのでスマホで年間の行事予定を見せる。この辺りなら二日で取れそうだな、と指すので、それなら、と言葉を切ってサラダを口にいれた。良かったな、とニヤつく彼の減らず口にパスタを突っ込めば、平然と咀嚼している。

「彼女がつくる料理はうまいな」
「あっそう」

そう言い此方をいとおしそうに見つめてくるので、変に漂う甘さを辛口のアルコールと共に流し込んでやった。







【おまけ】二月上旬
買い物に出掛けると、入口の特設コーナーに置かれているチョコレートが目に留まった。十四日はどうだったかと手帳でシフトを調べてみれば、全日で入っていたことに気づく。ここ数年は夜勤が多かったのを記憶していたために今年もそうかと思っていたのだが、どうやら違っていたらしい。スマホを取り出し、トークアプリを開いて、送られてきたシフトを確認する。彼奴も午後は授業と任務で忙しい様子だった。まあ今年位は何もしなくても良いのかもしれないと思い、夕食の献立を考えながら、野菜コーナーを見回った。
ただ、レジの近くにある製菓コーナーを確認してしまった自分に居たたまれなくなったのは誰にも知られていないといい。

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