snoitoved

雪下のメモ帳 - update : 2019.05.05
サイトとは別に詳細設定や謎時間軸の話なんかをのせるところ


烏丸京介と伏見柊

※安定の書きなぐり&中途半端

街から随分と離れた林の中に教会があった。そこは古くからあり、数十年前までは街の人々が半日かけてまで訪れていた程だったが、街中に教会が新設されると多くの人々は足を運ばなくなっていた。教会には神父と一人のシスターがいるのだが、後者は以前見かけた女性とは違う容姿をしていた。何処と無く雰囲気が似ている為、恐らく前に見た女性の子孫か何かであろうと踏んでいる。
ある日寄り道がてらに教会を訪れ換気の為に開かれている入口の扉の外から中を眺めていると、若い女性は掃除をする手を止めて通路の端に寄った。掃除中で入るのを躊躇っていると思われたのか、どうぞ、と俺を招き入れた。招かれたのならととりあえず入ってはみたものの信仰の無い俺にとって無意味な行動に等しかった。その日はこの若い女性と会話するだけで終わらせ、食糧を調達してから何時もの様に家に帰った。



「最近よく訪れますね」

神父様は本日休まれています。お尋ねしたいことがあるのでしたら後日お伺いください。そう言い布巾を持ち外に出ようとする彼女を引きとめる。何か他に物言いたげな視線だけを寄越したがそれに気づかない振りをして再び口を開いた。

「来る度に思っていたが、お前たち以外に人が見当たらないな」
「街中に新設された教会をご存じないのですか」
「この辺りに住んでないからな」

昔から慣れ親しんだ此処で祈りを捧げている老人たちも若干いたと記憶しているがあれはもう死んだのか。そういうニュアンスがあるのだが質問された本人は分かる筈もない。それから話をしていく内に彼女の口からとうとう教徒が全く来なくなってしまったこと、二人とも街中の教会の方へ向かうことが決まったということを聞く。
それと同時に、教会は教皇の許可が無いと取り壊せない決まりであるからそれまでは交代で此処を手入れしに行こうという話があったことも教えてくれた。信仰が殆ど無い教会に彼女一人だけで赴くのはあまり良くないのだが忠告を出来るような身元でもない。神父はともかく若い女性の方は実体の無い悪魔までも見える分人間以外に対する危険性も跳ね上がる。そのことを二人は理解していないようにも取れるのだが、ともすると目の前の女性は神父に対して何も話してはいないのかもしれない。彼女の行動を見る限り自身が実体を持たない種族までをも見ることができるということ自体には気づいている。一方で容姿が人間と変わりない種族に対しては見分ける判断がつかないのか、基本的に粗相の無い様に人間として扱っている節がある。実際、俺への対応がそうだ。他にも色々な可能性を考えたが自身を過信しているようにしか見えず、自分のことを棚にあげて彼女の危機感の薄さを案じた。

「どうして俺にそれを伝えたんだ?」
「此処に思い入れでもあるのかと思いましたので」
「確かに無いとは言い切れないな」
「そうですか」

それだけを言うと彼女は再び外に出ようとするので思わず腕を掴もうとすれば、何かを悟ったのか、顔を歪ませ俺と距離を取った。彼女は舌打ちをすると俺を睨んでくる。まあ、強行手段を取ったところで俺に一応の不利は無いのだ、此処で喰ってしまっても問題は無い。無いのだが。そう思いながら口許を隠す。
そんな本人の前で神父様が居ない時にだけ訪れるとは思っていたが違った意味で厄介だ、と言い放つ彼女に思わず笑ってしまう。あの男は居ても居なくても別に構わなかったが、あいつがいるとお前は仕事に集中してばかりで話ができないからな。人間でも吸血鬼でも考えることは同じだ。

「しかしなぜ此処に」
「神の使いから招かれたとでも答えればいいのか?」
「……あの時のことか」
「ああ」

距離を詰め寄る時に聖水をかけられるがただでさえ純血でもない俺にとっては却って無害に近かった。しかし肩に手をかけようとした時、あと十数センチの所で手が跳ね返される。
貴方が只の悪霊なら祓えたのだが、と言いながら首元にあるロザリオを両手で握り詠唱を始めようとする彼女を見た。

「エクソシストか」

エクソシストは実体を持たない悪霊たちを祓うことができるが、吸血鬼のような不死身の魔族を完全に祓うほどの力はない。しかし現代の吸血鬼は誰もが昔の吸血鬼のように何千と生きるような種族では無くなった位に弱体化しているのだ、殺されないとしてもある程度の返り討ちに合う可能性もある。全く、俺を厄介だと言う割に彼女も思いの外面倒な相手の様だ。降参のポーズを軽くとると彼女は少しだけ警戒の色を緩め、尋問のような問いかけをしだした。

「貴方は吸血鬼であっているか」
「ああ」
「同族が何処にいるか心当たりは」
「無いな。俺が来たのはつい最近だ」
「……教徒に危害は」
「誰が教徒で誰がそうでないかは知らないが、ここに来ていた奴らをどうこうしたことはない」
「そうか」
「ただお前の母親については心当たりがある」

そう言うと彼女は必死の形相で貴方は私の母に手をかけたのか、と言いながら苛立ちを抑さえるかのようにロザリオを握りしめた。勘違いをされていることに気づいて、俺が彼女の母親を傷つけたことは一切無いということ、そいつから時折俺と同族のにおいがしたということを伝える。彼女は視線を下ろすとため息をついた。

「やはりそうだったか」
「ああ」

どうやら彼女は母親が吸血鬼の餌にされていたことを感づいていたらしく、母親が姿を見せなくなったのもそのせいだろうと踏んでいる様だった。

「私の母は、生きていると思いますか」
「どうだろうな、生存している可能性はあるんじゃないか。そいつが人間でなくなってしまっているのならの話だが」
「――でしょうね」

敵対する意識が殆どなくなったのか、ロザリオから手を離し、落ち着いた様子で神壇を見上げた。俺も当初の目的を忘れて、目の前の身寄りの無い彼女を憐れんだ。自分が人間に甘いということを自覚していたが、この理性的側面をある意味尊重したくなるのは、目の前の彼女を只の餌であると認識したくないからだ。こういう時、人間に歩み寄れない己の立場を少し不満に感じる。

「貴方は血を求めに訪れていましたね。それも教会に」
「俺が人間的だと言いたいのか」
「ええ」

まあいい、来なさい。そう言い彼女は俺を横切り入口の扉まで歩いた。それを呆然と見届けていると、何をしているのです、と発破をかけられた。彼女の元まで歩いてからそういえば、と名前を今更ながら聞いた。教会に何年も訪れたのなら私の名位聞いたことがあるのではと怪しそうな表情をする彼女に、まあ勿論知っているが形式的な自己紹介位やってもいいだろうという視線を送る。彼女は呆れたような態度をしたが気にせず言葉の続きを促す。

「……伏見柊。貴方は」
「烏丸京介」
「そうですか」

素っ気ない返事の後、再び歩き始めた伏見についていく。以降何の会話もないまま、離れの家のような建物に着いた。裏口からリビングに通されると此処で待てと言われたので大人しくテーブルに座って待つことにした。質素な造りの家は部屋数が多く、子供用の椅子等も見れた。恐らく此処は孤児院として機能していたのだろう。今でこそ少し埃くさいが、かなりの人数がいたのではないかと推測できた。


大体十分が経った頃に伏見がリビングに戻って来た。彼女は俺に二百ミリリットル程度の血が入った小瓶を渡し、これでいいだろうと確認を取ってきた。俺が小瓶をまじまじと見ていると、壁に凭れた彼女はこれが本当に人間の血であるということを念押しした。羊の血で誤魔化そうとしていないと言いたかったのだろう。まあ、言われなくても匂いで何の血か位は分かるのだが、もう敵視はしていないと伝えたかったのかもしれない。伏見の家であるのにも関わらず我が物のように椅子に座るよう伝えたが拒否をされる。彼女の左腕を一瞥してから未だ生暖かい小瓶に視線を戻した。

「瓶で貰うとは思わなかったが、この状態で渡されると俺以外にも飲ませることができるから丁度良い」
「先程、同族に心当たりはないと」
「家族以外はな。弟と妹が二人ずつ。一番下はまだ幼いから助かる。元々俺が貰うつもりだったが、出来るだけ弟妹を優先してやりたい」
「……本当、人間の様な方ですね」

言外に吸血鬼として生きていくには苦労しそうな性格だと人間に言われている様な気がしてならない。事実、否定はできない。あくまで主観的な主張なのだが、人間の血の割合が大きい混血種である俺は体格や体質が吸血鬼のそれなだけで基本的な性格は人間とほぼ等しいと思っている。故に血を必要とする吸血鬼特有の症状も然程好んではいない。
とはいえ気にならない訳でもないからと今回試みたもののこんな結果になったのだ、やはり俺は生身の人間の血を吸うのは向いていないらしい様だった。


なんちゃってな設定
烏丸京介 種族:吸血鬼(人間との混血種)
最近(人間の言う最近ではない)隣街に引っ越してきた吸血鬼。普段は人間社会で普通に働いている。
伏見柊 種族:人間
街外れにある古びた教会のシスター。魔族が見えること以外は極力普通に暮らしている。

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