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雪下のメモ帳 - update : 2019.05.05
サイトとは別に詳細設定や謎時間軸の話なんかをのせるところ


小南桐絵と迅悠一と伏見柊

あたしのひとつ下に伏見柊っていう女の子がいるの。あたしより少し背が高くて少しだけ料理ができるけど、戦いはあたしの方が断然強いわ。まあ、そんなのは当たり前よね。周りは強くてかっこいい伏見柊くんが良いみたいだけど、本当は。
あの子はおっとりしていたけれど、元から物静かな子だった。伏見さんに連れられて部屋の中で宿題をしていたり、私たちが戦っている様子をじっと見ていたりしてた。空いてる訓練室でヴァイオリンを弾くのは今も変わってないわね。たまに皆で集まってそれを聞いていたりもした。
…なのに、あいつがあの後、あの子をボーダーに入れたから。しかも戦闘員として。弓を握っていた手がトリガーを握る手に変わっていく姿を、夢を見ないあの子の姿を、見たくなかった。どうして入れたのよ。せめて一般職員にさせてほしかった。

「あたし、あんたが何を考えているか分からないわ」
「お前が思ってることは全部あってるよ。だけど、それ以上に柊は使い勝手がいい。トリオンも申し分ないし、育てたらうちの主戦力にもなる」
「…どうしてもあたしが強いだけじゃダメなの」
「こればっかりはな」

仕方がないよな。そう言って自傷気味に笑ったあいつを見た。伏見さんのお願いだから。その台詞は免罪符として使っているつもり?だとしたらあたしは許さない。いくら伏見さんのお願いだからって、受け入れられない。あたしがどれだけあの立ち位置にいたあの子に救われたか。



そんなあたしの思いとは裏腹に柊は本当に強くなっていった。一時期は同じ隊にいたり、あいつとペアを組んでまあまあそこそこな連携も出来るようになったし、今は射手に転向してるけど、出水に教わってるらしい合成弾も短時間で撃てるようになってきた。この4年半、どれだけ訓練に集中してきたかも知ってる。
けれどあたしが柊に望んだのはあたしの横に並ぶような強い仲間じゃなかった。わがままなのは分かってるつもり。それでも柊はあの頃のままで居て欲しかったのよ。
ほら、またあんたはそんな風に笑うの。

「ねえ柊」
「なんです?」
「…あんたは昔から変わってないわね」

喋らないところと、今もヴァイオリンが好きなところ、後は私たちを大切にしてくれてるところ位かしら。そういう意味を込めた皮肉をひとつ下の後輩に投げつけた。

「それはどちらとも受け取れますね」

態とらしくどちらの意味かを考えあぐねている柊を見てあいつと重なった。嫌なところが似ていくのね。私は柊に嫌味で言ってんのよ、と返した。でしょうね、と言った柊はどうしようもなさ気に微笑んだ。本当、あんたは変わったわ。

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