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雪下のメモ帳 - update : 2019.05.05
サイトとは別に詳細設定や謎時間軸の話なんかをのせるところ


烏丸京介と伏見柊

烏丸と伏見の夏。真っ赤な林檎飴を囓る君が、眩しくて、汗ばむ手と手を重ねた。
#僕と君の夏
https://shindanmaker.com/545359



今日は唯一夏祭りシーズン中に休みを入れていた日だった。数日前に丁度先輩たちと集まる話が出ていたから、それに乗っかる形で屋台の並ぶ道の入口で待っていたのは10分程前の出来事だ。

「誘拐された感覚が否めないんだが」
「そうとも言うな」
「言ってしまうのか……」

誘拐犯に捕まったクラスメイトの女は呆れた声を発しながら周囲を見回した。歩く速さが自然と遅くなった彼女に誰と来る予定だったのかを聞くと、どうやら加古さんたちと集まる予定だったらしい。俺に振り回されないことを“今回は”諦めた伏見が先程連絡を取っていた相手というのが女性であっただけマシと言えばマシなのだが。

「言っておくが案内もなにもできないぞ」
「ああ、それは期待していないから安心しろ」
「なんだこの誘拐犯」
「お前、夕飯は?」
「まだ」
「何か食うか?」
「少しだけ」
「この夏祭り中に飯を食わなかった場合、俺が迅さんにそのことを報告する義務があるからしっかり食べてくれ」
「それは流石に嘘……だよな?」

勿論迅さんから頼まれてもいないので嘘ではあるのだが、報告すればするで褒めちぎる様子も容易に浮かぶので強ち間違ってもいない気さえしてくる。しかし伏見は思い当たる節があるのか、口許を引き攣らせて視線をそらした。夏になるとやはり食がより細くなるのか、夕食も殆ど口にしていないらしい。らしいというのは、こいつが最近防衛任務の他に出水先輩たちに訓練をつけてもらっているせいで見る機会が限られているためだ。夏期休暇の最初辺りに先輩たちと海に行った以来、ということは3週間近く会っていなかった様で、本人の俺も流石に驚いた。伏見は知らないが。
それから数分程人混みの中を歩いていると焼きそばの屋台が見えたので、方向を指差し伏見に伝える。気前の良さそうな小父さんが鉄板の上にある具を炒めながら声を張り上げて客引きしている。その人に焼きそば1つ分の小銭を渡し、箸を2つ頼んだ。小父さんはこれでもかというほどの量をよくある使い捨てのフードパックに盛り、輪ゴムで割り箸2つと共に止めてから俺に差し出した。元来この量なのか、隣に伏見がいるからサービスしてくれたのかどうかは分からないが、どうも、と出来立てのそれを受け取った。来年もこの屋台が参加していたらまた買うかもしれない。尤も、まだ食べてはいないが。



近くにあったたこ焼き屋と唐揚げ屋にも寄った後にメインの通りから少し離れると、ベンチが5席と自販機とゴミ箱が置いてある程度のちょっとしたスペースに着いた。座っていてくれと言われるがまま年季の入ったベンチに座る。伏見は500ミリリットルサイズのペットポトルを買っていた。再び小銭を2枚入れると俺の方を振り向いたので、どうしたのかを聞く。

「あんたは何がいい」
「お茶」
「分かった」

お茶のボタンを押して、受け口から取り出している伏見の様子をレジ袋から食べ物を取り出しながら見ていた。水もお茶も始めから結露していたらしく、伏見はポシェットからハンカチを取り出すと2つのペットボトルを拭いてから1つを俺に手渡した。ああ、お前はこういう気遣いが出来るんだよな。
箸を割って焼きそばをつつき始めると伏見も同様にしてたこ焼きをつつき始めた。外のベンチに座り熱を冷ましながらたこ焼きを食べる彼女は中々新鮮味がある。

「そうか。ところであんたは何時までいるんだ?」
「補導されない程度までなら何時でも」
「遅いな」
「おまえは?」
「その時のタイミングで解散する予定だったから特にないな」
「本当に加古さんたちとまわるだけだったのか」
「誰かのせいで予定が潰れたけどな」
「悪いな」
「思ってもいない癖に」

2個食べ終わったのを見計らって焼きそばと交換するが、2口か3口位食べた後に箸が迷い始めたのでちゃんと食えよと声をかける。再び手を動かし始めたのを見て俺も食べ始める。たこ焼きなら簡単だから今度家で作るのも良いな。

「烏丸、後でもう一回屋台に寄っても良いか?」
「まあそのつもりだが。何かやりたいものでもあったか?」
「林檎飴が食べたくなった」

珍しいな。だろうな。そう言って今度は唐揚げに手をつけ始めた。少しずつだが、思ったよりは食べている様なので今日は体調が良いらしい。キャップを開けてごくりと飲むと、この水はあまり美味しくないなと言う始末だ。そういえば玉狛に置いてあるミネラルウォーターがいつも同じメーカーだったことを思い出す。

「幼い頃から毎年一つ買っていたんだ」
「習慣化したようなものか」
「ああ。食べきれない癖に買ってしまうから、最終的にはいつもお母さんや迅さんに食べて貰っていた」

俺の妹と同じだなと言うと反応に困るんだがと困惑顔で返された。俺的には褒めてる。
そういえばあんたの妹たちは祭りに来ているのか?と聞かれたので全員遊びに来ていることと弟なら唐揚げを買っていたときに隣を通ったことを伝える。

「ああ、道理で連絡が」
「誰から」
「あんたの妹から」
「何て?」
「先輩たちと行くって言っておいてどの男とほっつき歩いてんの、って」
「お前の兄貴とだけどな」

数秒の間の後、笑いを堪えきれなかったらしい伏見が口許を抑えたので態とらしく大丈夫かと心配そうにレジ袋を渡してみると馬鹿と叩かれた。兄としては連絡先まで交換している程妹と仲が良い理由を聞いてみたいものだが、介入するのもどうかと思い、話を打ち切るようにしてベンチから腰をあげた。お茶は殆ど残っていなかったから飲み干してしまうことにし、ゴミをレジ袋の中に入れてから、ゴミ箱の中に入れる。再びベンチの方に戻り伏見の方に手を差し出すと半分程残っている水を渡された。そうじゃないとは言いづらかったので、ああよく分かったなと言いながら水を飲んでやった。そして空にしてしまったもう1つのペットボトルを捨てに再びゴミ箱の方へ向かうと伏見も口許を拭いたティッシュを捨てに着いてきた。スマホで連絡を軽く確認した後、戻ろうと俺に声をかける姿を見ると悪い気はしなかった。



フルーツ飴を売っている屋台に着くと普通の大きさの林檎飴を選ぼうとしていたので、小さい方をすすめる。伏見はわかったと言って小さい林檎飴を取り、小母さんにお金を渡した。人混みからずれるようにして建物の側に寄る。袋を外して飴を舐め始める姿が普段よりも幼く見えたのは恐らく以前妹や国近先輩が力説していたギャップ萌えとか言う奴に適するからだろう。成程、といった風に伏見を見ていると飴の部分がある程度薄くなったのか今度は果実の部分を食べて始めている。

「小さいものでも案外美味しいんだな」
「そうなのか」
「食べてみるか?」
「……硬いな」
「既に齧っている所ならまだマシだと思う」
「キャー間接キスだなんて」
「今更な反応止めてくれないか」
「確かに今更ではあるな」

俺は気にしないがお前は少しでも気にしろ。つん、と渡してくる右手を掴んで林檎飴を齧るとまあ確かに甘い。十分甘いな、と言ってもう一度齧ってから手を離した。飴をがりがりと噛みながら再び食べ始めている伏見に飴が付くぞと言いながら髪を耳にかけてやると、嫌な顔をしながら身動いだ。換装体にはある赤色のピアスは勿論無かった。

「烏丸は夏祭りに来たら何をするんだ?」
「メインは食べ歩きだが普通に金魚すくいや射的辺りもするな」
「ならそうしよう」
「お前なら毎年何する?」
「屋台で食べ物を買ったら、さっさと帰ってボーダーの屋上で花火を見る位だな」
「……まあ、折角なら遊ぶか」

何かやってみたいものがあるかを聞けば射的は前からやってみたかったと言われたのですぐに目的地は決まった。勝負でもするかと続けて提案するとやったことがあるない以前にあんた銃手でしょうと断られた。バレたか。
本当は俺が約束していた先輩たちや伏見が一緒に行く予定だった加古さんたちとは極力顔を会わせたくないのだが、伏見が祭りで殆ど遊ばないと聞けばこいつのやりたいことを最優先せざるを得ないよなと自己完結する。伏見が右手に持ついらなくなったゴミを丁度屋台に隣接しているゴミ袋に捨てから自分の左手で引っ張ってやる。

「さっきから年下扱いされている気しかしない」
「数え年なら年下だから安心しろ」
「何処を根拠に安心しろと」

全く……と呆れながら笑う表情が可愛いと言えばどう反応するのだろうか。また年下扱いしたなと拗ねるか急にどうしたと心配し始めるのかのどちらかに違いないな、と思わず弛んだ口許を空いた右手で隠すとまた何か変なことでも考えいるのか?とため息をつかれた。お前は呆れるかため息をつくかそればかりだなと言い口許から離した手で今度は伏見の眉間を指先で押してやると今日は自棄に上機嫌だな?と不思議そうに返される。好きな奴と遊ぶのに上機嫌じゃなかったら何なんだと逆に聞いてみたかった。

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