×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -



身支度を終えて戸締まり確認。
玄関を出て、ちょっとレトロな鍵を掛ける。
さて、いつも通りご近所さんへ向かうとしますか。


「おはよー、士郎」

「おはよう、瑠衣」

青い空と白い雲のコントラストが目に眩しい、そんな清々しい朝。
衛宮邸の玄関で、いつも通りの挨拶。
今日は桜は朝練で、一般生徒の私達よりも登校時間が少し早い。
桜が朝練の時は、こうして二人一緒に登校することにしているのだ。

何故桜が居ない時に、というのは。

「ね、士郎、いいかな」

「…ああ」

隣を歩く彼の小指に、私の小指を絡ませる。
手を繋ぐ事が気恥ずかしくて、つい小指だけ繋いでしまう。
こんな姿はあまり人に見せたくない、というより恥ずかしさが勝る。
それに、桜から士郎を奪ってしまったのだし、朝練のないときは譲ってあげたいというか。
上から目線極まりないことはわかっている。
それにしても。

「昔は普通に手繋いでたのにね」

「ばっ…!そりゃ、昔だからだろ!今は、もう、子供じゃないんだし、」

「付き合ってるのに?好きなのに?」

「ッ!!!瑠衣!!!朝から勘弁してくれ、ああもう!」

士郎をからかう事が楽しくて仕方ない。
付き合ってから間もないわけでもないのに、毎回こんな調子だ。
目を白黒させて耳まで真っ赤にして、すごく可愛いな、なんて思ってしまう。
もしかすると、昔より無邪気さ…いや、初心さ?が増している気がする程だ。
まあ、思春期だものね、仕方ない。

繋がった小指、ゆらゆらと振り子のように同じタイミングで揺れる二人の腕。

「今日はネコさんのとこ?」

さりげない、何の事はないいつもと同じ世間話。

「ん?ああいや、今日はバイト無いんだ。…どこか行きたい所でもあるのか?」

「んーん、特には。でも、まあ…お邪魔でなければ夕飯のお買い物付いて行きたいかなー」

「じゃあ決まりだな。なんなら夕飯ウチで食べてくか?」

ほら、ここ暫く一緒に食べてないじゃないか、と。
それに、

「実は今日…珍しく誰も居ないんだ」

「?! ほんとに珍しいね?!」

空いている方の手で頭を掻く仕草。
そして、また照れているのか、顔はそっぽを向いている。
耳が赤いのは見えているぞ衛宮少年。
…いや、もう少年って歳じゃないか。

「じゃーご相伴にあずかりますか、へへ、久しぶりに士郎のごはんだ」

「特売次第だけど、その辺考慮しつつ瑠衣の好きなもの作ってやるよ」

「ありがと、士郎」

振り子の腕が止まる。
目の前にはいつもの十字路。
ここからは人通りが少し増えてくる。

小指と小指はさようなら。

だけど隣を歩くことは変わらない。
何年も。ずっと。

「じゃ、改めて学校行こっか」

「おう」


昔と変わった所は沢山あるけれど、これだけは変わらない、一つの習慣。
何気ない、他愛もない、二人の通学時間。

毎日の、二人の、小さくも大きい、幸せな習慣だった。



8/12
小指繋ぎの方が逆に小恥ずかしい気がする今日此頃。


back








-雨夜鳥は何の夢を見る-