身支度を終えて戸締まり確認。
玄関を出て、ちょっとレトロな鍵を掛ける。
さて、いつも通りご近所さんへ向かうとしますか。
「おはよー、士郎」
「おはよう、瑠衣」
青い空と白い雲のコントラストが目に眩しい、そんな清々しい朝。
衛宮邸の玄関で、いつも通りの挨拶。
今日は桜は朝練で、一般生徒の私達よりも登校時間が少し早い。
桜が朝練の時は、こうして二人一緒に登校することにしているのだ。
何故桜が居ない時に、というのは。
「ね、士郎、いいかな」
「…ああ」
隣を歩く彼の小指に、私の小指を絡ませる。
手を繋ぐ事が気恥ずかしくて、つい小指だけ繋いでしまう。
こんな姿はあまり人に見せたくない、というより恥ずかしさが勝る。
それに、桜から士郎を奪ってしまったのだし、朝練のないときは譲ってあげたいというか。
上から目線極まりないことはわかっている。
それにしても。
「昔は普通に手繋いでたのにね」
「ばっ…!そりゃ、昔だからだろ!今は、もう、子供じゃないんだし、」
「付き合ってるのに?好きなのに?」
「ッ!!!瑠衣!!!朝から勘弁してくれ、ああもう!」
士郎をからかう事が楽しくて仕方ない。
付き合ってから間もないわけでもないのに、毎回こんな調子だ。
目を白黒させて耳まで真っ赤にして、すごく可愛いな、なんて思ってしまう。
もしかすると、昔より無邪気さ…いや、初心さ?が増している気がする程だ。
まあ、思春期だものね、仕方ない。
繋がった小指、ゆらゆらと振り子のように同じタイミングで揺れる二人の腕。
「今日はネコさんのとこ?」
さりげない、何の事はないいつもと同じ世間話。
「ん?ああいや、今日はバイト無いんだ。…どこか行きたい所でもあるのか?」
「んーん、特には。でも、まあ…お邪魔でなければ夕飯のお買い物付いて行きたいかなー」
「じゃあ決まりだな。なんなら夕飯ウチで食べてくか?」
ほら、ここ暫く一緒に食べてないじゃないか、と。
それに、
「実は今日…珍しく誰も居ないんだ」
「?! ほんとに珍しいね?!」
空いている方の手で頭を掻く仕草。
そして、また照れているのか、顔はそっぽを向いている。
耳が赤いのは見えているぞ衛宮少年。
…いや、もう少年って歳じゃないか。
「じゃーご相伴にあずかりますか、へへ、久しぶりに士郎のごはんだ」
「特売次第だけど、その辺考慮しつつ瑠衣の好きなもの作ってやるよ」
「ありがと、士郎」
振り子の腕が止まる。
目の前にはいつもの十字路。
ここからは人通りが少し増えてくる。
小指と小指はさようなら。
だけど隣を歩くことは変わらない。
何年も。ずっと。
「じゃ、改めて学校行こっか」
「おう」
昔と変わった所は沢山あるけれど、これだけは変わらない、一つの習慣。
何気ない、他愛もない、二人の通学時間。
毎日の、二人の、小さくも大きい、幸せな習慣だった。
8/12
小指繋ぎの方が逆に小恥ずかしい気がする今日此頃。
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