頭上に広がる緑。
足下に茂る緑。
時折揺らぐ木漏れ日。
まるで、本物の森に居るように錯覚させるこの部屋に軟禁されて早二日が経過した。
初日は色々あったものだから警戒していたのだが、二日目…昨日は特に何も起こらなかった。
丸一日警戒するだけ警戒していて、何も起こらなかった。
その事実が疲労となってどっと私になだれ込んでいた。
何もないことに越したことはないのだが……。
部屋の主、ロビンフッドは近くの木に背中を任せ、瞳を閉じていた。
無防備に見えたその姿だったが、ロビンフッドの事だ、何かを仕掛けている可能性は高い。
君子、危うきに近寄らず。
念のため、近付くことはないように心掛けよう。
くぅ──
「??」
切なげな音が腹部から響いた。
そういえば、しばらく食事をしていないような気がする。
元よりこの電子虚構空間においてさほど食事は重要ではないのだが…
精神の潤い、充足感を求めて食事をすることはままある。
恐らく、緊張の疲れを自覚したからであろう、心が食事を求めた、きっとそういうことだ。
出来ることならば購買に行きたいのだが…
「部屋からは出してやれねェんだわ、悪ィな」
ふう、とため息を吐きながら肩を竦めるロビン。
悪いと思うくらいなら軟禁するなと言い返したい。が、我慢。
「…そうだ。ちょっと待ってな瑠衣ちゃん」
なにかを閃いたのか、顔を上げたと思ったらそのままこの部屋から姿を消した。
一体、なんなのだ、あの男は。
「鹿肉と猪肉、どっちがイイ?」
「…た、食べたことないからわかんない…」
目の前で炊きあげられた火の元で脂を垂らすいくつかの肉塊。
ロビン曰く、鹿肉と猪肉…らしい。
「…そもそも毒とか入れてたりしないでしょうね、コレに何か仕込んでどうかしようたって、」
「大丈夫大丈夫、何も無いって。危害は加えないって言ったでしょう?第一オレだって毒入り肉なんか食いたくないですし?」
「どうだか…」
「…そろそろ信用して欲しいなぁ…結構優しくしてるつもりなんですけどねぇ?」
「……」
トラップやサバイバルに慣れているであろう(多分)この男のことだ、対毒耐性くらい持ち合わせているのではないかと思わず勘繰ってしまう。
そもそも優しい人間は拉致軟禁なぞしない。
どう考えてもしない。
私はそれからウンウンと頭を悩ませ、またしばらくの時間が経過した。
「そのまんまじゃニオイ気になるかもしんないから香草焼きにしてみたんですけどね…どうよ?」
「………美味しいです…」
「はぁー良かった良かった、メシまで嫌われたら流石のオレでも心折れますわ」
「ちょっとだけ見直したけど、別にほだされるつもりは無いから」
「なに?瑠衣ちゃんツンデレ属性だった?こりゃビックリだ」
「なっ、違…っ」
思わぬ突っ込みに言葉が詰まる。
ツンデレじゃないです。
断じて。
ツンデレはリンの専売特許でしょうに。
「ま、冗談はさておきだ。腹減ったら言ってくれればイイのにさ、オレだって何かしら作れるぜ?多少は頼ってくれよ瑠衣ちゃん?」
にっ、と柔らかく微笑むロビン。
その笑顔には何の裏もなく、素直な本物の笑顔に見えた。
自称イケメンのロビンだが、実際彼はイケメンだし、微笑んだら多少は、多少、は……
いや、ほだされてはいけない。
いけないのだが…
「腹いっぱいになってさ、少しは落ち着いたっしょ?……ホント、このとこ悪意は無いからさ、信用…してくんない?」
そりゃ多少乱暴なことはしたけどさ、と一言追加。
屈託のない笑顔に、裏の感じられない言葉。
どうしても、ほんの少しは、…信用してもいいのだろうか。
「ま、気長に考えてくれたらいいっすわ、まだ五日あることだし…っと」
すっくと立ち上がるロビン。
地面の草木がさわさわと囁く。
「そういえば……アーチャー……あーっと、ロビン、は…食べないの?」
「ん?ああ、食べる食べる。食べますよ…でもその前に、」
私の側に近づき、軽く額にキスを落としていった。
「オレが肉食ってからキスってのも嫌がられるかもしれないですし?」
「私は食べてるけど」
「瑠衣ちゃんはいーの」
ああそうですか。
へらりとまた軽率な笑みに戻ったロビンはそのまま私の横に座り、肉を頬張り始める。
「肉じゃなくてさー……」
「?」
もごもご。
ロビン何か言いたげにしながらも肉を頬張り、結局ロビンが何を言いたかったのか聞き取る事はできなかった。
デザートには、ウサギの形にカットされた林檎が出てきました。
6/4
のんびりほのぼの
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