その瞳は氷のように冷たくて、大地のように優しかった。
「つちのにおい…」
件の会話から数時間ほどが経過した今、私は見知らぬ森に寝転がっていた。
森とは言ったが、実際はロビンフッドによって改装されたただの個室である。
景色も香りも、深い緑も、森そのものとしか思えないもので、少し感心してしまった程だ。
話によれば彼のマスター…ダン卿のマイルームとはまた別の個室で、邪魔者の心配は要らないらしい。
一体何の邪魔者だ…と問い質したいところだったが、何となくやめておいた。
それにしても、緑が心地よい。
たまにはこんな時間も悪くはないのかもしれない。
…軟禁状態でさえなければ。
「んー…」
瞳を閉じて、私のサーヴァントの安否を確かめる。
パスからは特に異常は感じられない。
恐らく例の状態異常から解放されたのだろう。
あとは無駄に心配を掛けて彼の胃に穴が空かないことを願うばかりだ。
再び緑を見上げようと、瞳を開いた先には。
「ご機嫌いかがだい、瑠衣ちゃん」
「ッ、緑違い…!」
「いきなりそれは無いんじゃないの?…オレのカオ嫌い?」
へらり、と緊張感の無い表情を浮かべるロビンフッドが居た。
「こんなことする人間の顔を好きになるとでも思ってんの…?」
「いやあ、もしかしたらもしかするじゃあない?」
「もしかしません」
「あら」
ふい、と視線を反らす。
いきなり軟禁されて好きになるなんて、これまた馬鹿な話だ。
普通は警戒する。
もしかしたらもしかする人もいるかも知れないが、私はそこまで頭お花畑ではない。
…このサーヴァントは頭お花畑なのか?
「…とりあえずそこ退いてくれないかな、起き上がれないんだけど私」
先程も述べたが、今私は草の上で寝転がっている状態で、何故か視線の先にロビンフッドが居て。
しかもやけに顔が近いわ薄暗いわいつの間にか両手が地面に縫い付けられているわで、まあ押し倒されているような形になっているわけだ。
「ハァ…このままはイヤなのか?」
「凄く嫌だ、今すぐ退いて」
「瑠衣はオレのモノなのに?」
ギリ、と手首が締め付けられる。
それは物理的な拘束であり、且つ精神的拘束を示唆されているようであった。
「…アンタのサーヴァントに罠引っ掛ける位オレには朝飯前なの」
「それっ、は…!!話が違う!!!彼には」
彼には手を出さないと、それを条件に…
そこまで叫んだ時だった。
「あのさあ、話が違うってのはこっちのハナシだよ全く…アンタ、勘違いしてない?オレのモノになるってんならちょっとは忠誠心見せて貰いたいモノだけど」
ぐっと声のトーンが下がり、彼の表情は一変して冷たいものとなっていた。
私はこの顔が苦手だ。
ふわふわヘラヘラしていたと思ったら急に冷める、その落差で背筋が凍って仕方ない。
決してこれが初めてではないのに。
「ハハッ、そんなにあのアーチャーが大事か……羨ましいねぇ?」
「っ、ん」
するり。
触れるか触れないか、そんな手つきで首筋を撫ぜられて思わず声が漏れる。
「結構ビンカンなのな。結構結構…そーいうコ、オレは好きだぜ?」
「私は好きじゃ、…ひっ」
首筋から耳の裏、顎の下へと滑らかに手のひらが滑ってどうしようもなく。
嫌悪だけを浮かべるにはあまりにももどかしく、甘い痺れが身体を支配してゆく。
「なあ、オレだけを見てくれよ、瑠衣……」
そのまま深く口付けられ、私は瞳を閉じて、暗闇に身を任せた。
緩やかに、けれども確実に、甘い毒は私の身体を侵してゆくのだった。
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だいぶ闇が深い緑茶氏
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