中庭から夜空を見上げる。
月も星も無く、ただひたすらに暗い空だった。
まるで、ぽっかりと穴が空いてしまっているように。
どこまでもどこまでも暗くて、落ちたらきっと帰って凝れないだろうと考えてしまうほどだった。
もちろん、重力のお陰でそんなことは起こり得ないのだけど。
「…すごく、静か」
ぽつり、独りそう呟く。
ここ数日は非常に賑やかで、静かに空を見上げることも出来ていなかったように感じる。
そりゃあ、あんなことになったら静かにはいられないだろうけども。
それでもたまには静寂が恋しくもなる。
そんな夜。
ぼんやりと、ただ見上げていた夜空に紅い光が走る。
流れ星だろうか。
ちょっとはいいことが…いや、待て。
今日は月も星も見えない夜だ。
流れ星だけが見えるだなんて、そんなことはおかしい。
ではあれは何だ?飛行機?いや違う。速すぎる。
瞬間、手の甲に焼け付くような痛みが走る。
まさか。そんな。そんなことが。
「よお。…お前が俺のマスターか。……随分、明るいな、お前は」
「…、……っ!」
一瞬、呼吸が止まった。
それはあまりにも突然の事で、何もできなかった。
突然目の前に現れたその物体は、あまりにも見慣れていて、あまりにも知らない、私の恋人だった。
「……陽の俺もいるのか、ここには。随分面倒な所に出たもんだ。なあ、マスター。………おい」
「は、はひっ?!え、ます、たー?」
「お前以外に誰がいる」
それは確かに、その通りだけれども。
いや、万が一に言峰という可能性は…、
駄目だ。何もわからない。
「まあいい。なんであれ、俺はお前の槍だ。それ以上でも、それ以下でもない。多分な」
「…たぶ…ん?」
幾分も狂暴で虚ろな瞳が私を品定めするかのように捉える。
「お前は俺のマスターになるにしては、明るすぎる。どうにも違和感が拭いきれない。お前はマスターか、或いは…いや、止めだ。」
或いは、何なのだろうか。
マスターでないとしたら、…ではないとしたら?
それに、明るすぎるとは何なのだろうか?
全く検討もつかない。
疑問は深まるばかりであった。
*
「「三人目だとぉ??!!」」
「いや…まあ、はい、たぶん?」
すっかり息ぴったりとなってしまったランサーとキャスターが異議を唱える。
私にもよくわからないが、先の令呪への痛み、幾ばか感じる魔力の流れからして三人目、ということになっているのかもしれない。
「随分と沢山の武器を持ってるんだなお前は」
冷めた目で、彼ら二人を一瞥するバーサーカー。
(彼のクラスがバーサーカーであるということは先程聞いた)
その発言には何も裏はなく、ただ彼の思う事実そのものであった。
…彼は、本当に自分も彼らも武器としか認識していないのではなかろうか。
それは、なんだか少し寂しい。
「武器じゃ、ないよ」
「……」
気がつけば、そんな言葉が漏れていた。
「確かに、サーヴァントは武器として召喚されたに近いかもしれない。だけど、皆には人格があるでしょう?同じ名前でも、どこか違うくらいには」
貴方と、あの二人と。
あの二人も、それぞれ異なる性格をしている。
それを武器としてだけ見るというのは、私にはできなかった。
「…さっきも言ったが。俺はお前の槍だ。それ以上でも、それ以下でもない。それだけだ」
そしてバーサーカーは長い尾を翻し、霊体化した。
その間際、…もしかしたら、何か変わることもあるかもしれないけどな、なんて小さく聞こえた気がした。
「…おい、瑠衣。あれどうするんだ?」
バーサーカーが消えて少しした後、ランサーにそんなことを問われた。
「どうもしないよ。皆と同じ。それぞれとして扱うよ」
「瑠衣がそう言うならいいけどよ」
ランサーにはいつものように思ったままのことを伝え、キャスターの顔を伺ってみた。
キャスターは何か思うところがあるのか、肘をついて眉間に皺を寄せている。
霊基がどうの、揺らぎがどうの、等とぶつぶつと呟いている様は少し神妙なようであり、そして何故か不気味にも見えた。
それはランサーには持ち得ない雰囲気だった。
*
深い闇と現世の境…教会の屋根の上でバーサーカーは独り佇んでいた。
突然喚び出されたこの場所。
契約者は特に深い欲望もなく、聖杯を求めるでもない、ただ少し芯があるだけの何の変哲もない女だった。
何故、自分が引き寄せられたのか。
明らかに自分とは属性が異なるであろうあの人物に。
戦い以外にここまで興味を抱くのはいつぶりだろうか。
下手をすれば"この自分"には初めてなのではないか。
「ハッ…阿呆らしい」
そんな自分が滑稽で、柄にもなく自嘲の笑みが溢れた。
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匿名様リクエスト、イレギュラーズオルタニキ参戦案。
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