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「ほう…これはこれは」

淡い光の下で厭らしい笑みを浮かべるその男。
言峰綺礼。

振り返らずとも背後から二つの嫌悪感が伝わってくる。
ランサーはもちろんのこと、もう一人のランサー…いや、キャスターまでも嫌悪感を抱いているようだ。

「俺はあの言峰とかいう男の記録は持ってはいないが…アイツとは仲良くできねえわ、確実に」

「だろうな、俺もそうだからな」

妙な所で意気投合する二人。
やはり元が同一人物なだけはあるようだ。
趣味嗜好等も似通っているらしい。

「…で、えーと…本題なんだけど、」

「そのサーヴァントのことだろう?大方興味本意であの本の詠唱を読み上げてソレが現れたのではないかね?」

「…ご名答でございます…」

「理由も聞きたいだろうから教えてやろう。あの本には特別な魔力が宿っていてな、本の至る場所に利用可能な術式が組み込まれている。一般人が手にしたところで何の意味も持たないがある程度…人並み以上の魔力さえあれば発動が可能だ」

お前は魔力だけはあるからな、と。
嫌味ったらしい笑みを浮かべてこちらを見下ろす。

「でも、サーヴァントって聖杯戦争が無ければ召喚出来ないんじゃ…枠も依代も無いし…」

「モノにはいつでも例外があるというものだよ、神崎瑠衣。理由はなんであれ、召喚できてしまったのだ。その事実は変わるまい」

そう言われてしまったら最早何も言うことができない。
背後に立つ二人目のキャスター、かつ二人目のクーフーリン。
彼は今、確かに存在しているのだから。

「そういうわけだ。諦めろ神崎。多少負担は掛かるだろうが想い人が増えたのだ。精々楽しめ」

「んなっ…!!!」

一気に顔が熱くなる。
確かに私はランサーのことが好きだし、周知の事実だ。
しかしこうも面と向かって、何も知らないもう一人のクーフーリンの前で言われると妙な気持ちになる。

「さあそろそろ出ていけ。日付もとうに変わっている。聖杯戦争をするわけでもあるまい、さっさと寝ろ。私もいい加減寝たい」

しっし、と追い払うジェスチャー。
ああ言われずとも出ていきますとも。ええ出ていきますとも。

「おやすみ!!!!」

「よい夢を」

そんなことちっぽけも思っていない癖にそんなことを言う言峰。
まあ、いつものことだ。いつもの挨拶だ。癪ではあるがいつものことだ。
諦めて部屋に戻ろう。



「なーんか、気に食わねえなアイツ」

部屋に戻っての第一声。
キャスターは余程言峰が気に食わなかったようだ。
顔を合わせた途端にあれだったのだ、当たり前と言えば当たり前ではあるのだが。

「んで?瑠衣はどうすんだよ。コイツ」

くい、と親指でキャスターを示すランサー。

「どうすると言っても…どうしたらいいんだろう」

「俺はマスターに任せるぜ、聖杯戦争も無いらしいしな。やることがあるとしたら精々釣りとナンパ位だ」

ああ、あと槍の調達か?なんて溢しながら大振りの杖をコンコンと鳴らす。
さっき聖杯戦争は無いと言ったのにもう忘れたのだろうか、この男は。

「俺としちゃあコイツが街に出るのは反対だ。同じ顔が彷徨いてると考えたら気味が悪いし何より厄介なことになりかねん」

「それもそうか…うーん…」

と、すると、教会に引きこもってもらう他無い。
申し訳ないがそれが一番安全だろう。

しかし…

「俺が?引きこもる?そいつは勘弁だ。マスターに任せるとは言ったができればそれは避けたい。暇で仕方ねえ…いや、待てよ」

ちらりとこちらに視線を移す。

「マスターがここに居るってんならそれも悪くは無いかもな…この可愛いマスターさんを口説き倒すのも楽しそうだ」

「はぁ?!お前何言ってんだ瑠衣は俺の彼女だ、そんなことは俺が許さねえ、絶対にだ」

「あ?そんじゃお前はかわいこちゃんにカレシが居たらアタックしないってのか?いつの間にそんな腑抜けになったんだ、俺じゃない俺は?」

「ンな訳ねえだろ!惚れた女は確実に俺の女にするまで粘るわ!!でもな、俺の女を他人に盗られるような事は絶対にさせねえんだよ…!」

立て板に水。
売り文句に買い文句。
二人の口論は苛烈を極めていた。
論争の中心となってしまった私は少々居心地が悪い。
ランサーが私を想ってくれているのはとても嬉しい(この際少々言葉が乱暴であることは気にしないこととする)がこの状況は如何なものか。
この場から逃げようかとも思ったのだが、二人はそれを許さないだろう。
時々逃げるなよとでも言いたげな視線が刺さるのだ。
実に難儀である。
正統派ヒロインであれば"私の為に争わないでっっ"なんて言うのだろうが、生憎私にそんなことを言う勇気も無ければそんなキャラでもない。

あれこれ考えながら目の前の論争をやり過ごす。
しかしまあこうやって並んでいるとこれまたそっくりな二人だ。
同一人物だから当たり前なのだろうが、それにしてもよく似ている。
キャスターの方が少し大人びた雰囲気を持ってはいるなど所々違いはあれど、やはり似ている。
妙な感覚だ。


「瑠衣!!!」
「マスター!!!」

「はいっ?!」

急に大声で呼ばれる。

「「俺とコイツのどっちがいいんだ??!!」」

「はい???!!!」

なんだなんだ、急に何が起こった、何を言い出すのだこの男たちは。

「ど、どっちがって、一体何が…っ」

「コイツをブッ刺すか!!」

「コイツを火に焚べるか!!」

「いやいやいやいきなり物騒過ぎるよ二人とも落ち着いて?!」

「「これが落ち着いていられるか!!」」

「ひっ」

ものすごい剣幕である。
二人の発するオーラはどんどんどす黒く染まっていき、私はどんどん萎縮していく。
あの、おふたりさん、その、ものすごく、こわい、です
体勢は保ちつつも、内心は生まれたての子ジカの方がまだ力強いのではないかと思うほどに震えている。

どうしよう、めっちゃこわい、こんなランサーみたことない、キャスターはそもそも殆ど見たことがないが、いやしかしこわい

冷や汗が額を伝い、手の甲へ落ちた。
そして私は思い出した。
今の私には令呪がある。
私はマスターだ。
それならば。
ぐっと目をつむり手に意識を集中させる。

「…ッ」

「「さあ!どっちが!!」」


「…少し…落ち着けこの色男共がぁああーーーー!!!!!!」


教会に響く私の声と、強力な魔力の波動。
目の前のクーフーリン達は、先程の剣幕が嘘のように静止していた。

…あれ?
クーフーリン、"達"??

「なんで、ランサーまで固まってる…の?あれ?私ランサーの令呪は持ってない、よね…」

「持ってない、な… …俺もよくわからんが、なんだ、何故かものすごい強制が掛かっ、て」

しばしの沈黙。
その場の全員が落ち着きを取り戻し、強制が解けた後も、全員沈黙し続けていた。



一体、何が起こったのか、誰もわからなかった。



9/12
終わらせるつもりだったのに終われない(X3_ヽ)_


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-雨夜鳥は何の夢を見る-