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「言峰ー言峰ー言峰神父ー神父ソンー」

教会に響き渡る私の声。
お目当ての人物が見当たらなかったがためにこんなことをしている。
普通、教会で大声は出さないものだ。
ここ冬木教会には例外が何名かいるが、それは気にしないものとして。だ。

「言峰ーッ!!!!」

呼んでも呼んでも見つからない。
出てこない。
教会内を回っても回っても出てこない。
見つからない。
神父行方不明である。

「言峰ぇ…」

流石に歩き回り、走り、叫び続けていたものだから、喉が乾いて声が掠れてきた。
心拍数も上昇している。
この辺りで諦めるのも手だが、それはそれで癪なもので。

(まあ、とりあえず水だけでも飲もう…)

水分不足はよろしくない。
幾分か気の抜けた足取りで冷蔵庫へ向かう。
水道水よりもペットボトルの水のほうが美味しいと知ってしまってからは、ずっとペットボトル水を愛飲している。

…冷蔵庫にたどり着いた所までは良かった。
ストックは必ず用意している筈なのにペットボトル水が見当たらない。
私のオアシスは何処へ。

「探し物はこれかね?」

背後(頭上?)から私のペットボトルと低い声が降ってきた。
勢いよく振り返ると、そこには威圧感を発する壁…言峰がそびえ立っていた。

「わぁい探し物ふたつ見つけたー…
…って、ねぇ!!何故笑っている、何故言峰がそれを持っている、そもそも言峰あんた何処に居たの!!!」

早口でまくし立てる。
言峰の笑顔がやけに腹立たしい。
それもそうだ。なんだってこいつは

「なに、必死な顔で神崎が奔走しているものだから眺めていただけのことだ。
望みのものはこれだろう?神崎」

「相ッ変わらず性格悪い…!この外道…!!」

悪態をつきながらペットボトルを奪い取る。
ああ、やっぱり水は美味し…

「………ん?」

水を口に含んで違和感に気付く。
目の前(頭上?)には不敵な笑み。

「ッ、水道水じゃないのこれ!!!!」

「おっと、それは失礼した。なにぶん私には水の味がわからないものでね」

「っぐぅ…!!!!」

思わず洩れる唸り声。
白々しいにも程がある、この外道神父め。
顔に「ああ愉快愉快」とハッキリ書いてある。私には見える。
上手いこと言い返せない自分にも腹が立つ。
うううと唸り声を上げていると、ふと大きな腕の中に包まれる。

「…瑠衣、」

「ッ…!!!!」

暖かくもなければ冷たくもない、大きな身体。
耳許で囁かれる私の名前。

「…ずるい」

こうされると私はもう何もできない。
普段は名前なんて呼んでくれないくせに。
ほんと、腹立たしい。

「いいのかね?言いたいことがあるのではなかったか?」

「もういいよめんどくさい…どうせばかにされるし」

言峰のばーか。そう小さく溢して温度のない腕に身体を委ねた。


言峰に惚れたが最期。
こうやって玩具にされて、ほだされて。

それも案外気持ちいいと感じてしまう私は、もう手遅れです。


3/12
嫌がらせ好きな人


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-雨夜鳥は何の夢を見る-