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近頃、花屋、魚屋、喫茶店…商店街の至る所で見掛ける青年がいる。
つい最近見掛けるようになったような、昔からいたような…?
それはさておき、とにかくその青年が男前なのだ。
高身長。イケメン。人当たり良し。
最高じゃないか。

そんなわけだから、当たり前のように彼に興味も沸いたし、どうせならお話してみたいしあわよくばその先も?なんて考えてしまうのだ。
今日も変わらず店先で仕事をしているだろうかと商店街に向かったが、私の期待は見事に裏切られた。
今日はあの青いイケメンのお兄さんは居ないらしい。

期待を裏切られてしょんもりしながらとぼとぼと歩く。
別に今日駄目だったのなら明日、またその先だっていいじゃないか。
そうは思えどやはり期待を裏切られるのはちょっと切ないものだ。

考え事をしながら歩いていたら川沿いの公園にたどり着く。
たまには水辺で風に当たるのも悪くないだろう。
どこか手頃なベンチはないものかと視界を広げれば、不思議かな、少し先のベンチに例の青いお兄さんが居るではないか!

考える間もなく、理性が介入する間もなく、早足かつ自然に、下心が見えないように。

「おにーさん、こんにちは。今お暇?」

さりげなく、言葉を掛けてみる。
いや、掛けていた、の方が正しかっただろうか。

「お?なんだい可愛いお嬢ちゃん。俺に何か用か?」

「ふふ、言葉が上手なお兄さん。私今一人で暇なの。もしよかったらお茶しませんか?」

本性を隠すように、少し上品な雰囲気を醸しつつ、言葉を紡ぐ。
とりあえずファーストコンタクト、成功。
好感触だ。

「これは逆ナンと取っていいのか?まあ、なんだ。可愛いお嬢ちゃんとデート出来るなら俺は構わないぜ?
…っと。お嬢ちゃん。名前は何ていうんだ?」

「名前?…そうね、神崎瑠衣っていうの。気軽に名前で読んでくれると嬉しいかしら」

瑠衣、ねえ…と、青い青年は私の名前を反芻する。
幾度か反芻した後、快活な笑顔を浮かべて言葉を返した。

「俺はランサーってんだ。変わってるってよく言われるがまあこの名で呼んで貰えると助かる」

ランサー。槍使いといった所だろうか。
…もしや、別の名前を持っているのだろうか?
まあ、それについては今回は深追いしないようにしよう。
聞かれたくないことだったら、困るし。

「それじゃランサーさん、どこか…そうね、喫茶店とかどうかしら?もし他に希望があるのならお任せするわ」

「いんや、喫茶店にしておこう。俺の勤務先に喫茶店もあって、中々いい所でな。きっと瑠衣ちゃんも気に入ってくれるぜ」

「ふふ、それは楽しみ。じゃ、行きましょ?」

ベンチから立ち上がった青年…ランサーは手を差し出し、私の手を誘導する。
優しく握られた手。
男らしく大きな手に、鼓動が速まるのを私は止める術を知らなかった。


カランカラン、
喫茶店の扉を開くとベルが軽やかな音色を奏でる。
店内は程よい気温、そして何より内装がとてもおとなしくシックで自然と心が安らいだ。
まあ、彼目当てに何度か通ってはいるのだが。

「さて。瑠衣ちゃん。何頼むんだ?なんなら俺のオススメもあるぜ」

「んー…そうね、じゃあそのオススメと…大人のビターショコラを頂こうかしら」


そんなこんなで楽しく談笑し優雅で穏やかな時間を過ごしているうちに、太陽光が傾き始めている事に気がついた。
ああ、もう夕方になってしまったのか。

「…もう、夕方になっちゃったね」

「そうだな」

「今日は本当に楽しかったわ。ランサーさんのお話も、頂いたお茶も…奢って貰っちゃってなんだか悪いわ」

「いいってことよ。女の子にお茶も奢ってやれないんじゃ男が廃れるってものよ。何より瑠衣ちゃんが楽しんでくれたのが一番嬉しい」

夕日に照らされて、屈託のない笑顔と束ねられた青く艶やかな髪が茜色に染まる。
ヘアカフスも同様に光を反射し、どこか神聖な雰囲気を醸し出していた。

なんだか、気紛れ…いや、元々狙ってはいたのだが…一日限りのナンパ、デートで終わらせてしまうのが寂しくなってしまった。
もっと、彼のことを知りたい。
そう思うと、少し胸がきゅう、と締め付けられる。

「…瑠衣ちゃん?どうした?」

「…え、…ひゃっ!?」

考え事をしていた時にうつむいてしまっていたのだろう。
ランサーが心配そうに私の顔を覗きこんできた。
端整な顔立ちに、また少し鼓動が速まった。

「大丈夫か?…体調悪いなら…瑠衣ちゃんがよければ家まで送るが」

「…えっと、」

思わぬ提案。
ここで別れてしまうのも寂しくて、だけどもう夜も近づいていて。
いくらナンパしたとはいえいきなり家に誘うのもどうかと思っていたのだが…
これは、チャンス、だろうか。
それならば。

「…そうね、お言葉に甘えて、お願いしちゃおうかしら」

「了解。退屈はさせねえし、体調悪いなら何とかしてやるし安心してくれて構わないぜ。っと。」

すっ、と。大きな手がさしのべられる。

「お嬢ちゃん。お手を媒酌。…なんてな」

「ふふっ…ランサーさん、ほんと貴方って」

優しくて、ユーモアもあって。
素敵な方ね。


そして茜い光に照らされながら、家路についたのだった。


送り狼になっていないか?
それは私とランサーさんだけの秘密だ。


8/22の
岸浪様リクエスト、「hollow時空で逆ナンされる兄貴」。
いつもよりおしとやかで肉食な夢主が書けたのと、どこか男らしいランサー兄貴が書けて楽しかったです。


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