※流血&少し痛い表現有り※
ぶつり、と穴があく音。
それは私の耳から決して遠くはない場所から聞こえてきたものだった。
「ふっ…くぁ……ん…」
肩首に突き刺さる刺々しい歯。
白い歯が赤く染まり、赤い舌がより赤く染まる。
それら全ては私の情欲を煽るのにはあまりにも充分過ぎるものであった。
扇情的にも、程がある。
黒い彼は何も言わず、ひたすらに傷口を舐めては傷を刻み、傷を刻んでは啜ってゆく。
言葉は発さずとも、彼の瞳もまた情欲に融けていた。
愛あっての、咬為。
互いに欲を高め合い、互いに欲をぶつけ合う。
性行為ではない、その事実もまた、淫靡だとすら錯覚させる。
このまま、融け合ってしまえたら、そう、思った。
「…なあ」
私の身体中に牙をたてていた彼はふと私を見据えた。
欲に融けつつも鋭く赤い瞳。
ああ、真っ黒なのに、なんて赤いのだろう。
「神埼は。お前は何も望まないのか」
「…、なにが?」
「されるがままで、いいのかって聞いてるんだよ」
かつて狂王と呼ばれた、かつてそう在れと願われた彼は召喚者である私に尋ねる。
望まれてかたちづくられた存在の彼は、少なからず今でも"望み"というものにひきずられているようだ。
「私はね、何も望んでない訳じゃ、ないよ」
「……」
黙って、次の言葉を待つ、かつての狂王。
「クーに好きにされたい、傷口すらも愛でてほしい、痛くても、それでも」
それを愛と、錯覚していた。
いや、錯覚ではないだろう。
そうでなければこんな行為に情欲を煽られる事など無い筈だ。
棘だらけの身体を抱き締め、愛を呟く。
「だから、これが私の望み、…今幸せだよ、もっと好きにして…?クーが満足することが、私の幸せ。痛みすら愛おしい…」
「……そうかい」
長い爪で髪をすいてゆく。
時々、爪が皮膚を掠めて、小さく浅い傷が増える。
そして彼はその傷へ、律儀にもそれら全てにキスを落としては舌で愛撫する。
時々与えられるぶつり、と穴の増える感触に身を震わせずにはいられない。
ぎゅう、と強く身体を抱き締めれば、返事を返すかのように、甘く柔らかく皮膚を食んできた。
それがたまらなく気持ちよくて、幸せで、愛しかった。
「ねえ、」
「ああ、…ん、む」
「んっ…ふぁ、……は、んちゅ」
キスをねだろうとすれば、何も言わずとも唇を重ねられ、私の口元も赤く染まる。
鉄の味と、彼の味と、欲の味が私の意識を融かしてゆく。
そのまま、私達は深く、深く、情欲の海へと身体を沈め、また深く愛して。
海が赤く染まりきるまで、愛し続けた。
この身が果てるまで。
5/6
もけもけ様リクエスト、オルタニキにでろでろに甘やかされつつがぶりといくお話。
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