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春の陽気が心地好い。

鳥の囀ずる声、やわらかな風、ふわりとした陽の光。

「いい天気だね、セイバー」

「ええ、そうですね、ルイ」

昼過ぎの衛宮邸で、私達は日向ぼっこをしていた。
昼食も済み、おなかもふくれ、そしてこの陽気でゆるやかな眠気に襲われる。

眠気に眼を細めつつ隣に眼を遣れば、セイバーの髪が陽を通してキラキラと輝いて見える。
その美しさと癖毛がふよふよと風に揺られているその可愛らしさのギャップがまた愛おしい。

「…?どうかしましたか?ルイ?」

あまりに見つめすぎていたのだろうか。
先程まで青い空を眺めていたセイバーがこちらを振り向く。

「んーん、なんでもないよ」

あくまでなにもないように取り繕う。
そうですか、とセイバーは応え、また空を見上げた。
私には、彼女に直接可愛いだとか美しいだとか、そういった言葉はまだ掛けられずにいる。
普通に女の子同士であれば可愛い位は言えるのだろうが、私は少し違う。
確かに女の子同士ではあるのだが、どうやら私はセイバーに惚れていたらしい。
故に、変に意識してしまうのだ。

どこに惚れただとか、どこが好きなのか等と聞かれたとしても私は答えることはできないだろう。
なにせ、気が付いたときには好きになってしまっていたのだから。
そうなってしまえば、もう全てが愛しく見えてしまうのだ。
どこが、だなんて答えようがない。

ぼんやり、また春の陽気に身を任せる。

「桜、咲いてるんだろうなあ」

何気なく呟く。

「サクラ…??ああ、花の方ですね。シロウが近々お花見に行こうと言っていました」

「そっかあ、楽しみだね。きっと美味しいもの食べれるよ」

「はい、私も楽しみにしています」

ふわりと微笑む。
その笑みは何に対してのものだろうか。
セイバーの笑顔は、誰に向けられるのだろう。
しかしまあ、何に対してであれ今この笑顔を見ているのは私だけだ。
私だけの、セイバーの笑顔。

と、ふと眼が行ったのはセイバーの手。
あの大きな剣を持っているとは思えないほどに繊細な、少女らしい手であった。
思わず自身の手をそこに絡めたいなんて、いや、流石に、無理か。
好きとも、それどころか可愛いとすら言えないのだ。
手を繋ぐなど、私には出来そうもない。

「…ルイ?どうしたのですか、手を泳がせて」

「…へ?……あっ、これは、えと」

無意識のうちにセイバーの手に触れようか触れまいかと手が泳いでいたらしい。

ああ、なんて恥ずかしい。
誤魔化すに誤魔化しきれず、しどろもどろになってしまう。

「大丈夫ですよ、」

「ひゃ、」

そっと、手のひらを重ねて優しく握られた。
セイバーに。
あの、可愛らしく美しい、私が想うセイバーに。

何が大丈夫なのか何が大丈夫じゃないのかわからないが、セイバーが言うには大丈夫らしい。
私は大丈夫じゃないのだがセイバーが大丈夫と言うからにはきっと大丈夫なのだろう。

…いや、大丈夫じゃない。

先程から動悸がおさまらない。

それでも手は離さず、そのままでいる。
大丈夫ではないが、手を離すのはどこか勿体無くて、離すことができない。
そんな私の心中を見抜いたのか、セイバーは

「しばらく、このままでいても良いでしょうか?ルイが嫌でなければ、私はこのままでいたい」

なんて。

ああ、彼女は少女でありながらも騎士だった。
そうだった。
しかし、少女でもある。
私はなんだか訳がわからなくなっていたが。

「う、うん……嫌じゃ、ないから…このままで、いい、かな?」

「ええ」

また、ふわりとした笑顔。
そっと、春の昼下がりに、小さな恋が揺れていた。



4/6
こまき様リクエスト「アルトリアと手を繋ぎたい女主」。


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