「ねぇ…おねーさん?なんで抵抗するんですか?」
「だからっ…!だ、…駄目だよこんなの…っ!ンッ」
白熱灯から発される仄かな橙色の光と同化するように少年は優しく微笑む。
さながら太陽のような、しかし月のようにも見える耀きを時折ちらちらと瞬かせる。
大人の彼とは大きく違う優しさ、そして驚くことに、私よりも幾分も幼く小さな身体に私は組敷かれていた。
こんなことはいけない、それこそ犯罪だと主張すれば、そっと瞳を細めて私の身体に悪戯をする。
「…もう諦めちゃいません?」
「そんな…っ、はァ…だ、めっ!」
優しく融かすかのように、じわじわと快楽を注ぎ込まれる。
心よりも先に、身体が堕ちてしまいそうだ。
「もー…諦めが悪いなぁ………仕方ない、」
小さなギルは身体を起こし、私の身体から手を離した。
ようやく、折れてくれたか。
これで安心だ、と。ため息をついたその時だった。
「ほんとは嫌だけど…コレ。使っちゃいます」
「ッ!!!」
私に見せつけるかのように目の前で小瓶が揺らされている。
光を受けて、色を変えるその液体は、
以前、
それは、
確か、
「ッッ!!駄目、それは、本当に駄目…っ!!!」
「駄目ですよーこうなったらおねーさんにはとことん気持ちよくなっちゃってもらうしか無いかなー、って…諦めの悪いおねーさんが悪いんです」
本当はこんなの使いたく無いんだけど…なんて溢したギルは、自らの口に液体を含ませて私の口へと流し込んできた。
じわり、じわり。
口から広がる仄かな甘味はあまりにも残酷な程に、確実に身体へ熱を広げてゆく。
小さな王様は、はふぅ、と小さく息を漏らしながらパーカーを脱ぎ捨てた。
「ねえ、おねーさん……いや、瑠衣さん。瑠衣さんは以前、僕のことを好きって言ってくれましたよね…」
私の上に覆いかぶさり、ギルは小さく、ぽつり、ぽつりと心の裡を溢し始めた。
「…僕は嬉しかったです。でも、その"好き"は母性愛ですか?男と女としてですか?」
掠れた、心の声。
「僕は子供です。こんなに身体も小さいし、ひ弱とすら思えます。でも、瑠衣さんの言う"大人"…僕が大人に、大人の僕を知っていますよね…
それはもう、僕であって、僕ではない。僕が瑠衣さんを愛せるのは、今だけなんです」
一言一言溢す度に、熱を帯びた紅の瞳に哀色が重なってゆく。
「大人になってからでは、大人になってしまったら、僕は、今の僕が瑠衣さんを抱くことは叶わないんです。
だから、許してください。
今の僕に、…貴女を愛させてください」
切なげに愛を、哀を唄う言葉に、私は何も言う事が出来なかった。
ただ、そっと抱きしめることしか、できなかった。
それから暫くして、二人の体温が同じになった頃。
「…私もね、好きだよ、ギルのこと。すっごく好き」
それが、何を意味するのか。
私が、何を想って、何をどうするのか。
正直、私も、よくわからない。
でも。
「大好き、だけど、私も大人だから、駄目かなって、思ってた。大人になったら、ギルがギルじゃなくなる事も、わかってた」
小さな、熱い身体を強く抱き締める。
「でも、だけど、」
言葉が、紡げない。
そこから先は、わからない。
「…瑠衣、さん」
優しい、キスが額に降ってきた。
「いいんです。これは、僕の我儘です。貴女が背負うことは、何もありません。」
全て、僕のせいだから、大丈夫。
だから、全て僕に身を任せるだけでいいんです。
と。
「…ギル……ん、」
そっと重ねられた唇。
柔らかくて、小さな、子供の唇。
不意に舌を差し込まれ、思わず肩が震えた。
…身体が、熱い。
ギルの瞳は少年のものではなく、私を射止める紅の瞳は、獲物を狩る瞳だった。
哀色の海に溺れていた熱がぶり返し、どこまでも熱は高まってゆく。
「……今夜だけなら、」
その願いを、その罪を。
赦してあげることを、のぞませてください。
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小さな罪のお話。
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