──突然連れられたのは洋風のちょっと豪華な建物で。
紅い絨毯を姫抱きで駆け抜けて。
気がつけば真っ白なドレスを着ていて。
控室を出たそこにはそれまた真っ白なタキシードを着た彼が居て。
白銀に輝く指輪が薬指に。
二人で愛を誓う。
庭園へ抜ければ鮮やかな緑と底抜けに青い空。
不意に頬に温かい雫。
幸せで、涙が止まらない。
どうしようも愛しくて、嬉しくて、うまく言葉が出てこなくて。
ただただ一言、
"あいしてる"──
「…と、いう夢を見たんだ」
「夢オチか」
「誠に残念ながら夢オチです」
そう、夢オチなんです。
ふわふわと曖昧で、幸せな、ただの夢でした。
夢には願望が現れると言うが、やはり私もそうなのだろうか。
所謂、結婚願望。
「─で。相手は誰だったんだ?」
「それは…そりゃ、アーチャーだったよ」
そんな夢を見たと他人に報告できるほど私の精神は広々としていない。
伝えたのは本人にだけ。
ちょっと照れくさいけど。
「それでね、その結婚式?みたいなのはサプライズだったの」
「結婚式が?サプライズ?それまた随分無計画というべきか、サービス精神旺盛というか…その私は随分と大胆な事をする人間だったんだな」
「まあ夢ですし。ちょっとくらい矛盾があっても仕方ないでしょ?」
「ふむ…それもそうか」
私だって何が起こっていたのかちょっと理解に苦しむ所もありましたとも。
そして、顎に手をあてて小首を傾げるアーチャー。
今日も眉間の皺は健在です。
「夢で終わっちゃったけどさ、すごく幸せだった…みんな笑顔で、ほんと」
幸せで、幸せで。
「──あれ?」
ぱたり、ぱたりとスカートに水滴が落ちては跡を残す。
なんだか頬が生暖かくて、それで?
私よりも大きくて無骨な指が私の頬をそっとなぞる。
「泣かないでくれ、瑠衣。君に泣かれたら、私はどうしたらいいかわからない」
どうやら私は無意識のうちに泣いていたらしい。
夢を思い出して幸せ?嬉しい?寂しい?悲しい?
「現実では、式をあげる事は難しいかもしれないが…オレは、何があろうとも、何もなかろうとも瑠衣のことを愛しているから。だから泣かないでくれ…」
「そんなこと、言われたら、余計、ぁぅ…う、うああ…あぁ…」
「ッ!ちょ、瑠衣、瑠衣!!何故そんな、余計に泣いて…!!」
「だって嬉しいんだもん…そんな、だって、…ぅうぁあ…上手く言えないよ…うぇっ」
ぼろぼろと大粒の涙が袖を濡らす。
寂しかったけど、嬉しくて、やっぱり好きで、そんな優しい言葉を掛けられたらもう泣くしかない。
声をあげて涙をながす私を見て冷静さを欠いてしまったアーチャーが面白くて、大好きで、
嗚呼。やっぱり涙が止まらない。
ぐずぐずと子供のようにしゃくりあげながら、彼の逞しい身体に抱きつく。
彼の無骨で優しい手のひらは、私をなだめ続けてくれた。
「──いつか、指輪ぐらいは、」
12/19
そんな、夢を見たんだ
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