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「えっ、ハロウィンやらないの」

「少なくとも私の元では行うことはない。細かい宗教観念を語られても困るだけだろう。気になるのであれば自分で調べるがいい」


そんなやり取りが行われたのが一ヶ月ほど前のこと。
ハロウィンは西洋生まれだから教会でもハロウィンを執り行うものだと思い込んでいたが、どうやらそういうことはないらしい。
教徒がそれなりに居る冬木市の事だからきっと少年少女の可愛らしいコスプレを見られると思っていたのに残念だ。
宗教は複雑だ。私にはよくわからない。

結局私は雑貨店やショッピングモール、街のあちらこちらがすっかりハロウィンムードに染まっていく姿をただ虚しく見届ける事になったのだ。


そして時が過ぎて現在11月。
ハロウィンムードもすっかり抜けて、冬木市も普段の姿へと戻っていった。
一晩明ければ綺麗サッパリ次の行事への準備期間。
過ぎ去ったイベントの関連商品は軒並みワゴンセールである。

買い物ついでにワゴンを覗けば、結構な数のハロウィン用お菓子が積み重ねられている。
バレンタイン、クリスマス、ハロウィンの翌日、翌々日はこれがまた楽しみで。
イベント過ぎのお買い得商品って好きなんだよね。
なんて呟きつつ、コウモリやカボチャの形をしたクッキーをいくつか購入した。


「ただいまー」

「よう、お帰り瑠衣」

教会の居住スペースへと戻れば、ランサーがのんびりと珈琲を飲んでいた。
他の二人は外出中だろうか。

「おやつ買ってきたのになぁ」

「おやつ?」

コトン、とマグが置かれ、ランサーが手元の紙袋を覗きこむ。

「あー、アレか。最近のハロウィンはこんなモンなのか」

「最近の?」

「ん?瑠衣は知らないか。元々ハロウィンは俺の故郷の行事だったんだよ」

「そうだったの…ケルトって色々やってるんだねえ」

まあな、と返事をしながら携帯をカチカチといじり始め、こちらに画面を向ける。
そこには何やら不気味すぎる、えっと、なんだこれ、ミイラ?何にせよ怖すぎる。
子供は泣き出すだろうし、人によっては大人でも泣くレベルのホラーっぷりである。

「ジャック・オ・ランタンの原型。カブだ」

「うわ気持ち悪っ、ていうかカボチャじゃないんだね?!」

「気持ち悪いとはなんだ気持ち悪いとは」

「いや気持ち悪いよ…ミイラだよこれ…」

もう一度画面に映っているジャック・オ・ランタンの原型と謂われたソレを注視すれば、ああ、やっぱりホラーすぎる…。

「現代人ウケは悪いのか、ちと残念だな」

「うん、無理」

もう一度言うが、ホラーすぎる。十中八九一般受けはしないだろう。
…それはさておき、せっかくクッキーを買ってきたのだ。
可愛いクッキーで癒やされようではないか。

「ランサーも食べる?」

「おう、お言葉に甘えて頂くとしますかね」

自分用の珈琲を淹れて、ランサーの座っていた横辺りに陣を取る。
クッキーの内訳は、カボチャがプレーン、コウモリがココア味といった所だろうか。
ひとまずコウモリを一つ取り出し、口へと放る。
市販のクッキー独特の固さはあるが、充分においしい。
半額で買っているのだし、コストパフォーマンスは良いだろう。

「はいランサー、あーん」

「あ?…あー……、ん」

ランサーにはカボチャを一つ。尚、当たり前にカブの形のモノは無い。
ぽりぽりざくざくと、小気味の良い音を立ててクッキーは胃袋に収まっていく。
…もひとつ、いってみようかな。

「はい、次次〜」

「一人で食べられるっつー……あーわかったわかった」

不満気な表情を作ってやれば大人しく従ってくれるランサー。
やっぱりどこか、犬みたいだ。
口に出したら怒られるだろうから心の中で呟くに留めておいたが。

袋から手、手からランサーの口へ。
そんな流れ作業を数回繰り返していたらなんだか段々楽しくなってきて。

「あ」

気がつけば袋の中のクッキーは残り一つになっていた。
私が最初に口にした、ココアのコウモリ。

「さようなら、コウモリさん!!!」

「うおっ?!」

勢い良くランサーの口へとイン。
ラスト1枚だったがまだ何袋かストックもあるのだから、と迷わずに。

「……?」

本来なら先ほどと同じようにぽりぽり音が聞こえてくる筈が、聞こえてこない。
コウモリはランサーの前歯に捉えられていたままだった。
お前は猟犬か。

「食べないの?」

「ん」

そう訪ねてみれば、ランサーに両手で顔を固定される。
ああ、この流れは知っている。
口をあけろ、と顎で催促されて、大人しく従う。

ぱきり。

目の前の猟犬の獲物…クッキーのコウモリは両者の間で綺麗に真っ二つ。
顔を近づけたまま、お互いそれぞれクッキーを咀嚼する。
なんだろう。決して長い時間ではないのに、この間がとても落ち着かない。



「ごちそーさん」


先にクッキーを食べ終わったらしいランサーは、軽く私の額へキスを落として離れていった。
クッキーの粉末が、額でざらざらする。

「お菓子貰っておきながら悪戯するとか欲張りすぎるでしょ…」

「別に?俺は例の定型文も言ってねえし何より現代のハロウィンってのはよく知らねえし」

へらっと笑っているが、それはどう見ても誤魔化しであって、明らかにしらばっくれている。
本当に、狡い男だ。

「満更でもないクセに、そんな顔すんなよ瑠衣」

「うるさいなあもう…」


なんでもない日、一日遅れのハロウィンは二人だけで。
行われることはなかったハロウィンパーティーは、おやつの時間に。
なにも全て世間に合わせる必要も無いのだ。


割引シールの恩恵は、お値段だけではないのです。



11/1
イベント翌日ネタが大好きです。
トリックオアトーチャー。


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-雨夜鳥は何の夢を見る-